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文化庁/GIGAスクール構想最前線

学習者用デジタル教科書の活用

 GIGAスクール構想の主役の一つと言うべきなのが、の一つと言うべきなのが、学習者用デジタル教科書です。しかしデジタル教科書については、現在は改正されましたが、昨年度まで各教科などの授業時数の2分の1に満たないこと、という使用の基準が定められていました。またデジタル教科書自体、紙の教科書と同一の内容をデジタル化したもので、動画やアニメーションなどは教材部分としています。

 その後一人一台が現実化し、パラダイムシフトが起こりつつある現在、デジタル教科書を使わないという手はありません。そこで令和3年度の予算として、学習用デジタル教科書普及促進事業に22億円が計上されました。原則として国公私立の小学校5、6年および中学校を対象に、一教科分の学習者用デジタル教科書、しかも付属教材を含めて経費が予算計上されたのです。今まで無償化の対象はまさに紙の教科書本体でしたので、今回「付属教材を含む」とされた点がむしろポイントだと言えるでしょう。

 実証にあたっては、これまでの紙代、印刷代、輸送費を主体とする経費の構造が根本的に変わり、デジタル教科書の開発経費、維持・運営費に加え、クラウド配信による一斉アクセスの弊害を回避するための方策なども検証の対象としています。セキュリティ対策も不可避です。こうしたデジタル教科書移行に伴う課題も実証で解決を図らねばなりません。そもそもどのようなデジタル教科書が望ましいのか、この点から今後しっかり研究する必要があります。そして実証を踏まえ、令和6年度すなわち2024年を契機に本格的な導入を目指すというプランを立てています。その時点で全教科導入ではないかもしれませんが、英語など、デジタルと親和性のある教科からスタートするということも考えられるかもしれません。この点は現在、検討会議で検討しているところです。

 とはいえ、デジタル教科書の用途は今後大きな可能性を秘めており、例えば学習者用デジタル教科書と他のデジタル教材を一体的に使用することで、教科書に関連付けて動画・アニメーションを使用するなど、紙ではできなかった新しい学習方法が可能になるでしょう。現在、460億円ほどの予算を付けて、小・中学校の紙の教科書を無償化しています。しかしデジタル教科書になったとしても、大幅にこの予算を増やすことは難しい。したがってデジタル教科書を無償化するには開発費とサーバー維持費にどのくらいコストを要するのか、その結果によって自ずとデジタル教科書の内容が規定されていくと思われます。また教科書の教科書たるゆえんは、検定を経る点にあります。つまりデジタル教科書の多様な機能や用途を維持しつつ、内容についてどのように検定していくのか、これは非常に重要なファクターとなるでしょう。

教員の知識習得・技能向上を支援

 また教育ビッグデータの効果的な活用を考えていかねばなりません。学校でのICT環境が進むにつれ、膨大な量が蓄積されていくであろう学習履歴データをどう分析し、次の学習に役立てていくべきか、教育ビッグデータを活用した個別最適な学習をどう実現するか、という議論が待ち受けています。

 利活用のイメージの一つとして、初等中等教育における教育データ標準化の推進があります。この場合、あくまでデータの相互流通性の確保が目的であり、取得可能なあらゆるデータが対象となるわけではありません。全国の学校の児童・生徒の属性と学習内容を基に共通化・標準化しておいた方が便利であろうという発想です。例えば文科省では学習指導要領コードを公表していますが、さまざまなデジタル教科書・教材に共通のコードをひもづけて、生徒がその教科書の該当部分をクリックすると関連する教材・問題が自動的に表示され、解答を送ると解答に関する資料が返ってくる、等々のやり取りが想定されます。

 また、MEXCBT(メクビット)と名付けたCBTシステム(学びの保障オンライン学習システム)の構築を目指し、三次補正で22億円を計上しました。今回のコロナ禍をはじめ、災害などによる学校の臨時休校時でもオンライン学習が機能していれば子供たちの学びを保障できます。仕組みとしては、文科省や教育委員会などが作成した問題で学習できるのですが、採点は基本的に自己採点、そして即時に結果の確認が分かります。令和2年度はプロトタイプを開発して3万人規模でまず試行し、そして今年度以降は全国の小・中・高校で活用できるよう、機能改善とサーバー強化を図っていきます。

 GIGAスクール構想におけるさらなる論点は、現場を担う人材の確保、指導体制の充実についてです。先ずは子供たちに教える先生方が、PCやデジタル教科書を如何に使いこなすか、情報モラルなども併せて知識・技能を身に付けてもらわねばなりません。しかし先生方だけではカバーしきれない面もありますので、外部人材もしっかり登用していこうというのが基本的な考え方です。先生方に関しては今後オンラインも含めてICT活用に関する研修の充実を図ります。また、教育委員会や学校をしっかりサポートしていきます。ICT活用教育アドバイザーの派遣、GIGAスクールサポーターによるスクール構想立ち上げの支援などが主な取り組みとなります。逆にICT関連企業のOBの方などで、サポーターとして立ち上げ支援に関わりたいと希望される方がおりましたら、ぜひ名乗りを上げていただければと思います。また、これは従来からの取り組みですが4校に1校の割合で、教育委員会よりICT支援員を派遣しています。

 最後に、今年度から文科省に設置した「GIGA StuDX(ギガスタディーエックス)推進チーム」について。一人一台端末の利活用をスタートさせる全国の教育委員会・学校に対する支援活動を展開します。ICTリテラシーの高い教師を中心とした推進チームのメン バーを地域別に担当をつけ、担当地域のICT活用担当の指導主事などと人的ネットワークを構築し、学校などの取り組みの状況、教育委員会のサポート状況や、課題とその課題とその解決策などを双方向にやり取りしながら、文科省と自治体、自治体同士のつながりを強化し、全国の学校におけるICT活用の充実につなげていきます。また、特設ホームページ「StuDX Style( スタディーエックススタイ ル)」やメールマガジンなどにより活用事例の有用な情報をタイムリーに発信しています。本年度から8名の教師を増員して体制を強化 し、本格稼働させているところです。

 文科省としてはまさに、一人一台配備と今後のソフト面充実に向けて、文字通りあの手この手で支援を講じていく所存です。これからの数年間はGIGAスクール構想の具現化に向けた、非常に重要な期間となるでしょう。

(月刊『時評』2021年7月号掲載)

矢野 和彦(やの かずひこ)
昭和40年1月生まれ、徳島県出身、青山学院大学法学部卒業。平成元年文部省入省(教育助政局施設助成課)、10年大臣官房政策課課長補佐、14年文部科学省初等中等教育局児童生徒課課長補佐、16年在イタリア日本国大使館一等書記官、19年大臣秘書官事務取扱、20年内閣参事官、23年文化庁文化財部記念物課長、25年高等教育局私学部私学助成課長、27年初等中等教育局財務課長、29年初等中等教育局初等中等教育企画課長、30年大臣官房会計課長、31年大臣官房審議官(初等中等教育局担当)を経て、令和2年10月より現職。