
2025/09/22
また、国の関係省庁や政府機関との連携と並び、地方自治体等との連携も、GBISの主要な柱となります。優れた技術を有した地方企業の海外展開を支援するのもわれわれの重要なミッションですので、自治体、地元商工会議所、地銀の方々との間で意見交換を図り、地元にどのような企業があり、どのようなニーズがあるのか、日々その把握に努めています。同時に、GBISの活動内容の認知度向上を目指して、地域の関係機関を通じて、あるいは企業から直接GBISに問い合わせをいただけるよう、ネットワークの構築に努めています。
さらに前記の実績事例でも一部触れましたように、在外公館等とも連携を図っています。日本企業が海外ビジネスを追求するにあたり、相手国の政府および政府機関に接触を図るにしても、そもそも接点が無いケースが多いため、企業にとっては相当ハードルが高いものとなります。そのような状況に対してどういう支援が可能なのか考えるのもわれわれの重要な使命であり、この点は在外公館に相手国政府へのアポの依頼や実際に面談を行う時は同席してもらうなど、現地ならではのサポート体制を連携して構築すべく協力しています。
この一環として、在外公館の職員に日本企業が有する技術の内容を知ってもらうことも重要であるため、関係省庁等と協力して日本企業の技術を紹介した技術PR資料を作成、全世界の在外公館に送っています。ぜひ現地の大使等が相手国政府要人に日本の技術を紹介するとき、これらの資料を役立ててもらえればと思っています。それによって相手サイドが関心を示してくれれば、その情報を東京にフィードバックしてもらい、該当する企業と個別面談するなどしてビジネス展開への契機を創出しています。
実際にこうした在外公館における技術PR資料活用の結果、中東の政府が日本のコールドチェーン技術に対し、また東欧の産業界が日本のアンモニア混焼技術に対してそれぞれ関心を持ち、該当する日本企業を紹介するなどマッチングにつながる例が出てきています。また、急速充電が可能で長寿命かつ安全なEVバッテリーを構成するバッテリーセルを製造しているE社は、在外公館を通じて現地の政府機関であるEVバスオペレーターとWEB面談を実施できました。これまでであれば面談自体が個社のみでは難しかったと思われますが、在外公館による仲介が功を奏して政府機関にコンタクトを取る、という一つの成果につながったと捉えています。
MDBsとの関係強化による成果
加えて、MDBs等との連携について。各種MDBsの活動は、途上国の課題を把握して、エネルギーなど各セクターにおける政策立案や、政府および民間企業が実施するプロジェクトを知識や金融面等から支援する、という内容で基本的には共通しています。それに対しGBISでは、これらMDBsのネットワークを活用し、日本企業の技術・知見を、途上国における政策立案や個別の案件組成に活用するよう働きかけています。
例えば、来日したアフリカ開発銀行(AfDB)の農業チームと、アフリカ進出に関心がある農業スタートアップや企業との面談をアレンジしました。その他、ADBの技術視察ミッションの受け入れや、ADBが主催するフォーラムに日本企業に参加していただき、実際に会場で各社の技術や日本政府の施策を紹介するセッションを設営しました。このように、政府が自国の企業を連れてMDBs のフォーラムで技術や施策を紹介する活動は、中国・韓国は頻繁に行っているものの、日本が実施するのは初めてでした。他のMDBs各機関に対しても、対面やオンライン等により日本企業の技術を紹介しながら、協力関係の構築に向けた活動に取り組んでいます。
事例として、スタートアップのF社は、カーブや分岐、道路上でも建設できるという、利便性、安全性、経済性に優れたロープウェイ型のモビリティを開発しています。面談を経てGBISが、ADBの交通専門家に同社の技術を紹介したところ、現地国機関との間で、渋滞など交通課題改善に向けて同社の技術を活用するという内容のMoUを締結するまで話が進展しました。
いつでも気軽に相談を
以上、各機関・方面との連携や働きかけの状況と、いくつかの事例を紹介させていただきました。とはいえ、われわれはGBISの存在をもっと広く知っていただきたいと考えており、日々その努力を続けています。少子化人口減により、今後国内の市場が縮小していく中で、海外市場開拓・新規ビジネス展開の可能性に向け、GBISは一つの結節点としての役割を担っていますので、まずはどのような活動や実績があるのか知ってもらうことから始まります。
GBISのHP(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kaigai_business/index.html)をご覧いただくと、各省庁・関連機関の海外ビジネス投資支援業務における個々の支援スキームにアクセスすることが可能です。情報がどこにあるのか、必要な情報はどれかわからない、という中小企業やスタートアップ等からの声に対応するべく、関係施策を関係省庁・政府機関から収集して整理し、随時更新しながら情報提供に努めています。
さらに本年4月から、HPにおいて過去の実績を掲載しています。過去のどういう事業についてどれだけの採択があったか等を検証することも重要な情報だと思いますので、改善を図ったという次第です。
また直通の電話番号(03-3581 -5003)へも、いつでもお電話ください。
メールアドレス:gbis@cas.go.jp にもお問い合わせをいただけます。内閣官房という聞き慣れない役所ですが、日ごろから多くの企業の方にお越しいただいておりますので、何かのきっかけとしてご相談ごとなどありましたら、ぜひお気軽にご連絡をいただければと思います。
「インフラシステム海外展開戦略2030」について
最後に、インフラシステム海外展開戦略2030について参考情報としてご紹介したいと思います。同戦略は、政府内に設置されている経協インフラ戦略会議において、日本のインフラを海外に輸出していくための中期的ビジョンとして策定され、昨年末に2030年段階を見据えて改訂されました。
世界のインフラ市場は旺盛な需要に支えられて堅調に成長しており、30年段階では1084兆円の市場規模になるとの試算があります。日本もこうした成長の機会を確実に捉えていく必要があります。他方、インフラ市場の構造的な変化にも対応する必要があり、例えば、ハード面に加え、サービスやソフト面の付加価値をセットにした提供や台頭するグローバルサウス諸国との状況に応じた連携も必要になります。
従って戦略の方向性としては、日本だけではなく相手との共創を通じた上でのわが国の「稼ぐ力」の向上、経済安保等新たな社会的要請への迅速な対応と国益の確保、グリーン・GX・DX等の社会変革をチャンスとして取り込むための機動的対応、相手国からパートナーとして選ばれるため総理・閣僚等によるトップセールスや官民フォーラム等を通じた発信力・提案力等の強化、等々が考えられます。その上で、30年段階で海外のインフラシステムの受注額45兆円を目標設定しました。
実現に向けた施策として、例えば相手国との共創を図るために、先方のニーズを踏まえた「懐に入る」対応、またPPPを含めた案件形成への積極的な参画支援、スタートアップや中小および地方の企業等に対する支援などがあります。特に技術と意欲のある中小企業等への支援は、まさにわれわれGBISの活動とも関連しており、政府の戦略の中でどう貢献していくか、こうした視点からも取り組んでいます。また今日的社会課題への対応をチャンスとして取り込む上で、重要なポイントとなるのが防災分野と健康医療分野です。両分野はこれまで日本の強みとして位置付けられており、同戦略2030では今後さらに海外に打ち出していける分野として強調されています。
こうした枠組みの下、われわれはまさに世界と日本、相手国と企業、さらには政府・霞が関の関係部門等をつなぐ多角的な結節点として、今後も活動していく所存です。
(月刊『時評』2025年8月号掲載)