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日本企業の海外ビジネス投資支援/内閣官房 近藤 嘉智氏

―海外で活躍するための官民連携など―

こんどう よしとも/昭和44年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業。平成5年大蔵省入省、28年農林水産省大臣官房国際部国際経済課国際交渉官、30年財務省関税局監視課 監視取締調整官、令和元年国際局開発機関課兼開発政策課開発企画官、3年政策研究大学院大学政策研究科教授、6年7月より現職。
こんどう よしとも/昭和44年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業。平成5年大蔵省入省、28年農林水産省大臣官房国際部国際経済課国際交渉官、30年財務省関税局監視課 監視取締調整官、令和元年国際局開発機関課兼開発政策課開発企画官、3年政策研究大学院大学政策研究科教授、6年7月より現職。

 日本国内市場が長期的に縮小傾向をたどる中、確かな技術と新市場開拓の意欲を持つ中小企業やスタートアップを含む日本企業の海外ビジネス展開を支援するのがGBISこと内閣官房海外ビジネス投資支援室だ。官と民をつなぐ結節点として既に多様な実績を有し、産業界の活用が進んでいる。今回、同室の近藤嘉智参事官に役割と意義、幅広い活動内容について語ってもらった。

         内閣官房海外ビジネス投資支援室 内閣参事官 近藤 嘉智氏

中小企業やスタートアップ等も対象に

 内閣官房海外ビジネス投資支援室(GBIS:Global BusinessInvestment Support Office)は、2022年8月に、技術と意欲あるわが国企業の海外ビジネス投資を政府ワンチームで支援するべく設置された、比較的新しい組織です。設置に先立つ同年6月、当時の岸田内閣の下で「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が閣議決定され、その政策の実施ツールの一つとして同支援室が位置付けられました。日本企業の海外発展を加速させ、当該企業の技術を生かして出先国における社会的課題の解決や、その経験等の還流を通じてわが国経済の成長を目指すことが、主たる設置趣旨となります。

 具体的には、技術と海外展開の意欲を有する日本企業が、相手国政府や現地企業等とパートナー契約を結ぶことなどにより、海外ビジネスを実現する、これが最終的な目標であり、その実現に向けた各過程において、さまざまな形で課題や障壁の解決をサポートしています(資料参照)。

 既に関係省庁や政府機関では、契約に至るまでの構想立案、ニーズ調査、実証事業等の案件組成のフェーズに応じて、さまざまな支援ツールが用意されており、大企業であれば必要なツールにアクセスすることは容易かも知れません。しかし、海外展開の経験がない中小やスタートアップ等の企業からすると、必要とする支援ツール情報に辿り着くまでが大変であるとの声も聞かれます。そこでGBISは、海外展開にあたっての相談が気軽にできるコンシェルジュのような立場で、海外ビジネス展開に関わる多様な官・民のプレーヤーの結節点となり、ニーズのあるこれらの企業に必要な支援ツール等に係る情報を収集・整理し、共有・循環を促進する機能を担っています。

(資料:内閣官房)
(資料:内閣官房)

フットワーク軽く企業と対話を

 われわれは内閣官房に所属しており、固有の予算や支援スキームを有している訳ではありませんが、関係省庁・政府機関の支援ツールを横断的に見られる立場にあることから、所管にとらわれずにさまざまな企業のニーズや技術について、フットワーク軽くお話しすることができ、詳細なお困りごとや質問等を集約して所管省庁や関係機関に繋ぐことが可能です。それによって企業が所管省庁担当者と対話を行い、ニーズに即した支援や補助に応募して事業が採択される、というような流れに発展することを目指しています。例えば、農業法人が海外展開を図るにあたり、主要ツールはスマート農業のため、農林水産省より総務省の支援策の方がニーズに合うという事例などがあります。こうしたニーズとメニューのより効率的・効果的なマッチングを図り、海外展開へとつなげていく努力の継続が日々の活動となります。

 また企業のニーズや技術情報を在外公館に提供し、これを受けた公館から現地政府担当者にコンタクトする場合も考えられます。こうした活動を通じて、日本企業の技術への理解と関心の向上を期待しています。さらに、日本政府は世界銀行やアジア開発銀行(ADB)など国際開発金融機関(MDBs)に多額の拠出をしておりますが、一方でMDBsサイドのプロジェクトに日本の技術が採用されるケースが少ないのではないかとの指摘もされています。そこでわれわれはMDBsに対し、日本企業の技術を活用した案件組成に向けた働きかけも行っています。もちろん採用はほとんど競争入札ですが、少なくとも日本の技術がMDBs側から注目されるよう、対話を重ねていくことが重要です。

 こうした活動を行ってきたところ、2022年8月のGBIS設置から本年3月末まで3年弱の間、さまざまな業種の企業や政府機関等の間で630件弱の面談を行いました。月にならすと20件ほどとなるでしょうか。このような企業面談を通じて、関係省庁・政府機関の各種支援ツールにつなげることを、GBISとして当面の成果と位置付けています。

企業と関係省庁の認識共有に向けて

 では、これまで取り組んできた事例をいくつか紹介したいと思います。

 まず、中小企業A社は、ごみの前処理や分別を行うことなく、熱分解処理を通じ、廃棄物の再生資源化を簡単に行える装置を開発しました。そこでGBISとの面談を通じ、同社技術のPR、在外公館への情報共有を図り、日ウクライナ経済復興推進会議にて、ウクライナ側とMoU締結するに至りました。さらに経済産業省のグローバルサウス未来志向型共創等事業、ウクライナ復興支援事業も紹介しています。

 次いで、和牛の海外輸出を目指すB社に対して、GBISでは輸出想定国のハラール認証機関へのコンタクト支援、輸出先パートナー企業社員に対する技術研修の支援機関の紹介、日本貿易保険の紹介などを行いました。

 また、創薬のスタートアップC社は、海外製薬会社とのマッチングを目指していたため、海外展示会のジャパンブースへの出展支援施策や外資系企業が参加する展示会を紹介しました。またジェトロ(日本貿易振興機構)の担当者を紹介して、J -BRIDGE(ジャパン・イノベーションブリッジ)へC社が会員登録し、他の海外スタートアップにコンタクトすることができました。

 さらにD社では、中東向けに農林水産物を輸出するサプライチェーンを構築し、冷凍コンテナ型施設を中東に設置して同施設を輸出品目ショールームとして活用するという事業を志向していました。相談を受けGBISでは、中東ビジネスに関する情報収集先の紹介、補助金活用に関する相談対応、各種支援メニューの紹介等を行いました。この結果同社は、海外サプライチェーン構築に向けた支援事業採択候補にまでなっています。

 このように、企業と関係省庁および政府機関がそれまでお互いの技術や支援・活動内容を認識する機会が無かったところ、GBISがその両者を紹介し合うことで機会を創出し、ビジネス展開への可能性を拡大させている、それが各種事例に共通するわれわれの活動の本質だと言えるでしょう。その結果として、ビジネスへの結実に多少とも寄与できているのであれば何よりです。