
2026/04/07
――どの分野も人材不足が進む現在、各団体、組織とも必要な人材の確保や養成は、容易ではないのでは。
横山 はい、人材不足の問題は分野を問わず、わが国全体の共通課題です。従って対応としてはやはり、支援活動の実績を有する団体に、いかに効率的に活動してもらうかがポイントとなるでしょう。災害中間支援組織を他の地域から呼び寄せることは困難だとしても、現実に活動しているNPOやボランティア団体の中には、コーディネートを担う人材の必要性を感じているところもあるはずですから、被災者援護協力団体への登録等を通じ相互連携や事前準備を進める過程で、既存の人材の中から任に堪えうる人材を見出し、育てていくというアプローチが現実的ではないかと思います。
――各自治体も職員不足で、防災の専門職員が配置できないところもあるそうですね。
横山 市から町村役場に至るまで専門職員がいるのが理想ですが、確かに現実的には人材が不足気味です。そのため、いざとなったら相互に人材を派遣できる態勢や関係づくりが必要です。すでにそうした仕組みも進めてきていますが、今後ますます強化が求められていくでしょう。
特に専門技術を有する職員を、行政全体でどう確保していくかが問われる現在、国や都道府県などにある程度そうした人材を確保しておき、フレキシブルに派遣や応援などを実施できるのが望ましいところです。国は国、県は県、市町村は市町村と行政単位で区切るのではなく、連携していくことがこれからさらに求められます。そういう意味では自治体職員にも国の方に出向していただき、国の災害オペレーションについて知見を積んでから出身自治体に戻って活用してもらうなど、人事交流を盛んにしておくことも重要です。これまでも実施してきましたが、さらなる強化が必要です。
――そうした人材育成は、防災庁においても実施を?
横山 はい、防災庁の付属機関として、人材育成に係る研修機関「防災大学校」(仮称)を設置する予定です。一定の時間はかかると思いますが、官だけでなく民も含め、これから防災を担っていただく有為な人材を集め、知識の習得や訓練を行うだけでなく、研修期間を通じた人的なヨコのつながりを構築することが重要です。こうしたネットワークを密にしていけば、それが結果として日本全体の防災力強化につながりますので。
「SOBO-WEB」に必要な情報を
――人材不足とは常に対を成すテーマですが、その不足をいかにデジタルやAIで補うかが問われています。防災分野のDX利活用状況などはいかがでしょうか。
横山 現実的に防災関連の諸事務等もう少しシステマティックにできれば、という問題はかねてよりありました。一例として発災時、関係機関皆がオペレーションするにあたり情報共有手段が長らく紙ベース、つまりアナログでしたのでこの点の改善が望まれる、またデータ収集も手入力から自動収集システムを導入する、等々の対策が求められていましたし、徐々に具現化が進んできています。
内閣府では、災害対応機関の間でさまざまな災害情報を迅速に集約・共有する「防災デジタルプラットフォーム」の中核を担う「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)」の運用を令和6年4月に開始し、国、地方公共団体、指定公共機関の情報連携を推進しているところです。共有される情報の幅を広げるべく、情報ソースは官民を問わず、収集ツールもSNSから人工衛星まで幅広く対象としています。
また、産業界が保有するビッグデータも災害対応において非常に有用です。例えば、自動車メーカー等が保有する自動車のプローブデータ(走行履歴データ)を活用することで、発災後に車両が通行した道路や区間を把握することが可能となります。これにより、初動段階において、どの道路が実際に利用されているかといった通行状況を把握するための重要な判断材料を得ることができます。こうした通行実績に関する情報を「SOBO-WEB」を通じて共有することは、迅速かつ的確な災害対応に資するものと考えています。
――なるほど、避難や支援物資の輸送にとって非常に効率的ですね。
横山 ビッグデータと情報処理によって多角的な想定が可能となるので、その高度化や充実に努めています。
さらに、物資に関する情報共有が非常に大事だと捉えています。被災により現場が混乱すればするほど、調達する支援物資も何が足りないのか判然としなくなるので、とにかくまとめて現場に送る、というのがこれまでの方法でした。が、この方式は需要と供給のミスマッチ発生もまた不可避で、供給過剰の場合、現場でも処理に困るという問題も度々発生していました。
それに対し、日ごろから自治体などで、どこにどういう物資がストックされているのかという備蓄情報を共有しておけば、緊急時に何が不足しているのか明確化します。そして時間の経過とともに何の物資が減っているのか、同じシステム上で国と自治体が共有できれば、現場から逐一、不足分の供給を国等に要請する手間が省けると想定されます。現在、この物資に関するシステムはオペレーションの習熟度を向上させている一方、同時に各自治体も同種のシステムを独自に構築してきたので、それぞれをつないでいくことを進めている段階です。
防災技術への投資促進を期待
――被災者の罹災証明提出もデジタル対応が進んでいるそうですね。
横山 はい、復旧の過程においてはさまざまな行政手続きが発生します。この点でいかにシステム面から被災者支援するかがポイントです。実際には各自治体にシステムを導入してもらうことになるので、これを着実に進めていく予定です。
加えて過去の災害においては、あの時こういうことができていればよかったというニーズが必ずありますので、それに対し民間が保有する技術シーズを使えばそれが実際に具体化可能、さらにこういう事態に応用できる、といった新たな相乗効果も期待されます。こうしたニーズとシーズのマッチングを図るためのプラットフォームも構築しています。ぜひいろいろなシーズを提供していただけるよう、産業界にお声がけしていきたいと思います。
このように技術の利活用を推進させていくと、将来的には防災分野の科学技術の発展と同分野への投資の促進、それがやがて防災分野を超えて他分野に汎用的技術として応用される、こういう好循環の形成が期待されます。
――防災分野発の新たなイノベーションであると。
横山 防災分野への投資が、ゆくゆくは日本経済をけん引することもあり得るのではないでしょうか。さらには海外各国に対し、日本の防災技術を輸出することも可能となるのでは。やはり日本は災害の課題先進国であると同時に、対応もまた先進国だとわれわれは自負していますので、気候変動等により同じく自然災害の多発に苦しむ国・地域への国際貢献を果たすとともに、結果としてわが国経済へも還元されるという未来図が描ければと思います。
――日ごろの備えや緊急時の避難経路確保など、防災意識向上に向けては普及・啓発が欠かせないのでは。
横山 はい、啓発活動においても産業界から技術やツールのご提供をいただき、その発信もしています。そのほか、〝ぼうさいこくたい〟こと防災推進国民大会や各種防災教育を実施しています。特に子どものころに身につけた防災の知識はその後の過程においても非常に効果的だと言われているので、防災リテラシーを身につけてもらえば何よりです。
また地域全体での防災意識向上を図る際、自身が住んでいる地元の特性、すなわち津波の発生が起き得る地形や豪雨や豪雪が起こりやすい気候について認識しておくことが大事です。一般的な知識を習うというより、自分の住んでいる地域に根差した防災教育や心構えなどを共有しておいていただければ。いざという時、高齢者や病気・障がいのある方を含めどのような方法で避難するのか、など事前に十分話し合っていただくことを期待しています。
自助・共助を国として全力支援
――誌面を通じ、各方面へメッセージなどお願いします。
横山 防災庁設置により、日本全体の防災力向上を進めたいと思いますが、一方で発災時の国の活動には自ずと限界があり、やはりまずは自助・共助が防災・減災の基本となります。災害規模が大規模・過酷化するほど国は救命・救助を優先してマンパワーを集中投下せねばなりません。従って生存可否の分岐とも言われる発災後の72時間を、何とか地域の防災力を高めることで乗り切ってもらえると大変ありがたいですね。
そして各地域の自助・共助がいざというとき発揮できるような事前準備、これを国は支援していきます。前述の地域における防災教育の活動なども、国としてお手伝いさせていただきますし、ますます強化していく必要があると捉えています。
――産業界に対してはいかがでしょうか。
横山 民間企業においてもBCP(事業継続計画)の作成はもちろん、今後は個社の対応にとどまらず、国家経済、地域経済の継続性まで視野に入れてもらうことを期待しています。サプライチェーン全体の継続を図るため、関係会社同士、隣接分野同士で事前協議してもらえれば非常に心強い限りです。大規模災害が発生して道路の寸断等が発生した時、その状態でも事業継続を図るには、事前に関係各事業者との連携や役割分担を共有しておくべきです。われわれとしても、こうした点を問題提起し、どのように対応していくべきか、日々考えていきたいと思います。そういう意味では、われわれもこれまで着手できなかった課題が多々ありますので、防災庁発足のあかつきにはそうした課題を一つ一つ克服し、災害発生時の被害抑制に役立てたいと思います。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2026年3月号掲載)