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新たな展開を迎える木材の利活用の現状と今後の展望/林野庁 難波良多氏

――消費者としては「木材の利用の促進の啓発と国民運動」も気になります。

難波 そうですね。木材の利用の促進の啓発と国民運動では、毎年10月の木材利用促進月間を中心とした普及啓発の取り組みに加えて、二つの表彰事業があります。その一つが「木材利用優良施設等コンクール」、本年より名称を改めた「木材利用推進コンクール」です。特色のある木造施設等を表彰する〈優良施設部門〉と、国産材利用に積極的に取り組む企業を表彰する〈国産材利用推進部門〉の2部門から構成されています。既に38回実施された伝統あるコンクールですが、昨年は、埼玉県小鹿野町の町役場が農林水産大臣賞を受賞しています。この小鹿野町役場では、設計段階から木材コーディネーターを含めた木材供給や加工関係者による木材調達検討会を組織するとともに、地元製材業者で木材供給共同企業体を結成し、木材調達の協力体制を構築したことで7割を超える県産材利用率を達成した事例になります。

 そして、もう一つが「ウッドデザイン賞」です。本年で節目となる10回目を迎えますが、これは建物だけではなく、いろいろな木製品や木材を活用した取り組み、調査研究なども含めて表彰するものです。昨年は「林業×福祉連携プロジェクト『森tebaco』」という取り組みが最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞しています。これは障害をはじめ、さまざまな事情をお持ちの方にも林業で活躍していただく林業×福祉連携プロジェクトの一つで、木育や木づかい運動などに取り組む団体と就労継続支援B型事業を手掛ける社会福祉法人が連携して埼玉県のヒノキを使ってデザイン性に優れた木製品(時計)を作成した取り組みになります。

 木材の活用に関心が集まっているだけに、こうした表彰で受賞された建築物や木製品をさまざまな場面でPRすることでより高い関心を集めて国産材の利用拡大を進めていければと考えています。

木材利用促進月間と評価ガイダンスの策定

――そういった意味でも10月の「木材利用促進月間」の取り組みは重要になります。本年度の取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

難波 毎年各省が連携して、木材利用を盛り上げていこうという「木材利用促進月間」ですが、もちろん例年通り、「木材利用推進コンクール」の表彰や「ウッドデザイン賞」の入賞発表、地方公共団体による木育・木工教室のイベントなども行われます。また官民連携の「ウッド・チェンジ協議会」では、木材利用関係者がさまざまなテーマで議論を重ねているほか、時宜のテーマを設定して毎年開催している「木づかいシンポジウム」では、今年のテーマを「森林資源の循環利用とカーボンニュートラル実現に資する地域材の利用について」としました。地域材の利用がカーボンニュートラルの実現に貢献することを改めて確認するため、木材活用による炭素貯蔵量の表示のあり方も含めて木材を使った場合の評価方法について説明し、議論することとしています。住宅・建築物に対する木材利用への評価の普及に向けた情報発信を今回のシンポジウムで実施できればと考えています。

――木材利用促進に向けた取り組みに対して本年(24年)3月に「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」が策定されました。

難波 近年、ESG投資が世界的に拡大しています。このような中、木材の主要な需要先である建築分野では、ESGの観点から木材の利用による、建設時の温室効果ガスの排出削減や炭素貯蔵などカーボンニュートラルへの貢献、森林資源の循環利用への寄与といった効果に対して期待が高まっています。しかし、それをどう評価していいのかは関係者間でも明確に整理されていませんでした。そのためESG投資において、建築物に木材を利用する建築事業者、不動産事業者や建築主が、投資家や金融機関に対して建築物への木材利用の効果を訴求し、それが適切かつ積極的に評価されるような環境を整備することを目的として、国際的なESG関連情報開示の動向も踏まえた評価項目や評価方法をまとめたものが本ガイダンスになります。

 ガイダンスでは評価分野を「カーボンニュートラルへの貢献」「持続可能な資源の利用」「快適空間の実現」の三つに分け、それぞれの分野ごとに項目と評価方法を整理しています。ガイダンス自体が策定されて間もないものですので、実際に活用していただくことにより、率直な意見をいただきながらより良いものにしていければと考えています。

(資料:林野庁)
(資料:林野庁)

――また来年(25年)4月には「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」(改正クリーンウッド法)が施行されます。本改正法についてお聞かせください。

難波 違法伐採や違法伐採に係る木材の流通は、森林の有する多面的機能に影響をおよぼすおそれがあるとともに、市場における公正な取引を害するおそれもあります。2017(平成29)年に施行された現行制度は、①事業者に合法伐採木材等の利用の努力義務を課すとともに、②合法性の確認等を確実に行う木材関連事業者を第三者機関が登録すること等により、合法伐採木材等の流通及び利用を促進してきました。しかし登録木材関連事業者(663件)により合法性が確認された木材量は、わが国の木材総需要量の41%という状況になっています。

 そのため、さらなる取り組みの強化が必要として、昨年の通常国会で改正され、本年6月には関係政省令なども公布し、25年4月に改正クリーンウッド法が施行されることになりました。

 改正内容については、国内市場における木材流通の最初の段階での対応が重要になることから、川上・水際の木材関連事業者に対して、素材生産販売事業者や外国の木材輸出事業者から木材を譲受けする場合には、①原材料情報の収集、合法性の確認、②記録の作成・保存、③情報の伝達――を義務付けることとしています。そして、義務付けられた合法性の確認が円滑に行われるように、素材生産販売事業者に対して、木材関連事業者からの求めに応じて、伐採届等の情報提供を行うことも義務付けされています。さらに、より消費者に近い小売事業者には、これまで位置付けがなかったのですが、木材関連事業者に追加して登録を受けることができるようにしています。

 政府としては、合法性が確認された木材の割合を令和10年度までに100%とするという目標を掲げていますので、来年4月から円滑に施行できるよう、説明会の開催などで周知を図るとともに、システム開発などの準備を進めているところです。

(資料:林野庁)
(資料:林野庁)

――実際に木造建築物を目にする機会も増え、その変化・改革を実感しやすい部分もあるかもしれません。環境対策、そして世界有数の森林大国としても木材利用・活用は非常に重要な取り組みかと思いますが、最後に今後の展望についてお聞かせください。

難波 おっしゃるとおり、木造のビルも都市の中に増えていますし、SDGsやカーボンニュートラルが注目されていますので、木材利用には追い風が吹いていると思っています。また、わが国は世界有数の森林資源を有していますので、これを活用しないのは本当にもったいないというのが率直な思いです。

 伐って・使って・植えて・育てる――。木材利用を起点にこの循環を回していくことで森林・林業が元気になり、最終的には地域の経済も活性化していく、そんな方向にもっていければと考えています。

 木材利用というとどうしても建築が中心になりますが、多くの方は何度も家を建てたりするわけではありません。そのため、まずはウッド・チェンジということで身の回りの暮らしの中で木を取り入れていただきたいと思います。また、木造店舗ではなくても、内装に木材を積極的に取り入れている企業やお店に対しては「環境や地域の経済にいいことをしている」と評価していただき、そういう取り組みを応援していただければ、さらなる木材利用の拡大にも繋がるのではないかと思います。多くの方に普段の生活の中で木材の利活用に関心を持っていたければ幸いです。

――本日はありがとうございました。
                                              (月刊『時評』2024年10月号掲載)