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木材利用促進のさらなる拡大を目指して/林野庁 三上善之氏

みかみ よしゆき/昭和52年11月生まれ、神奈川県出身。東京大学教養学部卒業。平成13年農林水産省入省。30年官房国際部国際経済課上席国際交渉官、令和2年在中国大使館参事官を経て、5年7月より現職。
みかみ よしゆき/昭和52年11月生まれ、神奈川県出身。東京大学教養学部卒業。平成13年農林水産省入省。30年官房国際部国際経済課上席国際交渉官、令和2年在中国大使館参事官を経て、5年7月より現職。

木材を活用し、デザイン性にも優れた建築物が増えてきている。こうした動きは世界でも有数の森林大国であるわが国の木材利用を促進し、脱炭素社会の実現にも寄与するなどメリットも多い。また技術開発により耐震性や耐火性にも優れた木材の登場によって高層建築物への活用が進められる中、木材利用促進の現状、複数省庁連携による取り組み、そして国だけではなく、地方公共団体や民間企業による連携から世界的な促進に向けた今後の展望について林野庁林政部木材利用課の三上課長に話を聞いた。

                             林野庁 林政部木材利用課長
                                       三上 善之氏


木材利用促進を取り巻く現状

――近年、木材を活用し、デザイン性にも優れた公共建築物、商業施設を目にする機会が増えています。木材利用については国内木材の活用のほか、脱炭素社会の実現などの点からも高い関心を集めていますが、まず木材利用を取り巻く現状についてお聞かせください。

三上 木材利用を取り巻く状況についてですが、現在、戦後、植えられた森林が育ち、森林資源はまさに伐りどきを迎えています。近年、わが国の森林資源量は年間約6000万㎥増加していますが、国産木材の供給量は約3000万㎥程度と成長した森林資源を十分に活用できていない状況にあります。

 森林には国土の保全や水源の涵養といった役割がありますが、それ以外にもCO2の吸収源という役割をもっています。木は植えてから15年から25年が最もCO2の吸収量が高いといわれており、その木を伐って、植えることで森林の若返りを進めていくことも重要な取り組みになります。またCO2の吸収源となる森林を原料とする木材については、長期の使用による炭素貯蔵分を京都議定書上の吸収量として算定することが認められていますし、製材や合板などに加工する際のエネルギー消費量も鉄やコンクリートなどと比べてCO2排出量が少ないといった利点もあります。

 「伐って、使って、植えて、育てる」という環境を確立していくことは、脱炭素社会の実現やSDGsへの貢献に加えて、地域活性化にも資するものです。しかし現在、建築物における木材の利用は十分な状況にあるとはいえません。低層住宅では木造率が80%に達しているものの、中高層住宅はほぼ非木造。非住宅の木材利用については低層の建築であっても木造率は15%ほどしかありません。そして最も普及している木造軸組構法の住宅における国産材の使用割合も実は半数でしかないというのが現状です。

 われわれ木材利用課では、特に中高層や非住宅における木材利用の拡大に取り組んでいます。近年、非住宅や高層住宅についてはCLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)や耐火部材に関する技術開発とともに、建築基準の合理化が図られ、木材を構造部材に使用した10階を超えるような先導的な高層建築も出てきています。

 また、かつては木炭や薪として日常的に使用されてきた木材が再生可能エネルギーの一つ、燃料用木材チップや木質ペレットなど、いわゆる「木質バイオマス」として注目を集めています。2012(平成24)年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度、いわゆるFITが導入された当初は100万㎥に満たなかった国産材の燃料材使用量が21年には約10倍の934万㎥まで急増してきています。発電施設の増加のほか、合板や製紙事業との競合も起こっており、燃料材の安定供給を確保していくという点も非常に重要な課題になっています。このようにバイオマス利用は拡大していますが、建築物における利用拡大は十分とはいえませんので、この部分の取り組みをどう拡大していくかが最大の課題だと考えています。

木造化推進法の概要とその取り組み

―― そうした背景もあり、2021年「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。改めて、その概要とこれまでの施策についてお聞かせください。

三上 2010(平成22)年に制定された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(公共建築物等木材利用促進法)」が21年6月に改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(以下、木造化推進法)」と改称、建築物全体の木材利用を促進す
ることとされました。

 本法律は、脱炭素社会の実現を法律名や目的に位置付けるとともに、基本方針において木材利用促進の対象を従来の公共建築物から建築物全体に拡大しています。また建築物木材利用促進協定制度を創設し、国や地方公共団体が民間企業などと木材利用を促進するための措置を規定する協定を締結できるとしました。さらに木材利用促進本部を設置し、農林水産大臣と従来の共管大臣である国土交通大臣に加え、総務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、環境大臣をメンバーとして政府一丸となって木材利用の促進に関する基本方針の策定・実施などに取り組むとしています。また10月を木材利用促進月間に位置付けるとともに、10月8日を「木材利用促進の日」とし、あわせて国や地方公共団体による優れた木材利用に対する表彰の実施を促すとしています。

 もちろん従来の公共建築物等木材利用促進法の時代から、公共建築物の木造化・木質化には取り組んできました。公共建築物には、国や地方公共団体の建築物に加え、学校、病院や診療所、空港や駅なども含まれていますが、これらの公共建築物のうち3階以下の低層建築物の木造率については2010年の17・9%から21年には29・4%と10年間で10%以上上昇しています。

 また林野庁では、2005年から「木づかい運動」に取り組み、10月を木づかい推進月間としてきましたが、本法律の制定にともない木材利用促進月間という形になりました。また表彰制度については、法令で言及されたことから、さまざまな木材利用関連の表彰で経済産業大臣賞や文部科学大臣賞といった新たな大臣賞が創設されましたので、より幅広く表彰が行える体制を整えることができました。