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官民連携による木材利用促進に向けて/林野庁 小島裕章氏

◆林野庁木材利用政策最前線

こじま ひろあき/昭和49年1月生まれ、栃木県出身、東京大学経済学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学大学院農業経済学専攻修士課程修了。平成8年農林水産省入省。26年大臣官房国際部国際経済課上席国際交渉官、28年在アメリカ合衆国日本国大使館参事官、令和元年農林水産省大臣官房参事官(国際)、2年大臣官房国際部新興地域グルー プ長(兼)参事官を経て、3年7月より現職。
こじま ひろあき/昭和49年1月生まれ、栃木県出身、東京大学経済学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学大学院農業経済学専攻修士課程修了。平成8年農林水産省入省。26年大臣官房国際部国際経済課上席国際交渉官、28年在アメリカ合衆国日本国大使館参事官、令和元年農林水産省大臣官房参事官(国際)、2年大臣官房国際部新興地域グルー プ長(兼)参事官を経て、3年7月より現職。

 国土の約3分の2を森林が占め、世界でも有数の森林国であるわが国。森林の約4割が人工林で、その多くが利用期を迎えているものの、現状、木材活用の取り組みは十分とはいえない状況にあるという。脱炭素社会の実現や環境対策などで森林(木材)利用への関心が高まり、新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢による「ウッドショック」といわれる状況が続く中にあって、国産材の有効活用に向けてはどういった取り組みがなされているのか。今回、木材を利用することの意義を広め、木材利用を拡大していくための国民運動「木づかい運動」や「ウッド・チェンジ」を進める林野庁林政部木材利用課の小島課長に取り組みについての話を聞いた。

林野庁林政部木材利用課長
小島 裕章氏

木材利用を取り巻く状況と「ウッドショック」への対応

――世界でも有数の森林国であるわが国。脱炭素社会の実現や環境対策などもあって、現在、国産材の活用に関心が集まっています。では、わが国の森林(木材)利用を取り巻く現状についてお聞かせください。

小島 わが国の森林面積は、国土面積の約3分の2に当たる約2500万ha、そのうち約1000万haが人工林です。戦後、先人たちが守り育ててきた人工林の半分ほどが、植えてから50年が経過し、「伐りどき」、いわゆる利用期を迎えており、森林資源はかつてないほど充実している状況にあります。


 森林は、国土の保全、水源の涵養、生物多様性の保全や林産物の供給など、さまざまな役割を果たしていますが、最近は特に、CO2の吸収源として地球温暖化防止に貢献するといった点から大きく注目されています。また、木材については、伐っても、木材として使うことで炭素を貯蔵することができますし、製造時のエネルギー消費が比較的小さいといった利点もありますので、他の資材を木材で代替することでCO2排出量の削減にもつながります。

 豊富な国内の森林資源を有効活用し、「伐って、使って、植えて、育てる」といった森林資源の循環利用を進めることは、脱炭素社会の実現や持続可能な開発目標(SDGs )への貢献に加え、地方の重要産業である林業・木材産業の活性化による地方創生にも貢献します。そうしたこともあって、近年、国産材への関心が高まっているのではないでしょうか。

 また、わが国は1960年代の木材輸入自由化以降、輸入木材に大きく依存してきた面があります。昨年来、続いているいわゆる「ウッドショック」の影響や刻々と変化するウクライナ情勢などもあり、これまで以上に国産材の安定的な供給に対する期待が高まっています。

――世界情勢が木材市場、活用に影響を与えていると。その影響でもあるウッドショックとはどういったものなのでしょうか。

小島 わが国が輸入木材に依存していることに加え、木材は世界的に流通・取引される商品ですので、木材貿易は世界情勢の影響を強く受けるものといえます。2020年以降の新型コロナウイルス感染症の影響により、翌21年も引き続き世界の木材市場が混乱しました。特に米国において在宅勤務の増加や住宅ローン金利の低下を要因として住宅需要が高まったことや、海上輸送が混乱したことによって、わが国の製材輸入量が対前年比で大きく減少し、製材の輸入平均単価が大幅に上昇しました。そして国内の住宅需要が回復する中で、輸入木材の代替として国産材の需要が高まり、国産材の製品価格も上昇しました。こうした背景から生じた木材不足や価格高騰の状態がウッドショックと呼ばれているものです。

 林野庁では、木材不足・価格高騰への緊急対応として、川上から川下までの関係者による需給情報の共有を促進するため、国産材の安定供給体制の構築に向けた中央需給情報連絡協議会を開催しました。全国的な需給情報の共有を行うとともに、政府の関連支援策や不足する輸入材製品から国産材製品への転換事例の周知を行いました。また、地方レベルでの需給情報を共有するため、木材需給に関係する幅広い関係者の参画の下、全国7カ所で地区別の需給情報連絡協議会を開催しています。それ以外にも、木材需給や木材価格に関する統計データなどの情報発信や国産材の供給力を強化するために予算を活用し、木材の乾燥施設の整備や原木の安定的な供給に向けた間伐・路網整備のさらなる推進など必要な措置を講じてきたところです。

 今回、ウッドショックやウクライナ情勢などによって、輸入木材の供給リスクが顕在化しましたので、今後は、そうしたリスクを回避するためにも国産材の供給力を強化し、国産材のシェアを高めて海外情勢の影響を受けにくい木材の需給構造を構築してくことが重要になってきます。そのためには国内に確かな需要があることが重要になってきますので、木材需要の拡大や確保に向けてしっかりと取り組んでいく必要があると考えています。

――ウッドショックや世界情勢を契機に国産材の利用促進に向けた土台つくりができたと。昨年は木材価格が上昇したことで、木材商社や製材・加工工場の収益は好調だったものの、山元ではあまり恩恵を感じることができなかったという声もあります。

小島 そうですね。多くの関係者が木材不足といった状況に危機感を持ちましたので、国産材の活用に向けた動きが進んでいることは間違いないと思います。また、冒頭触れましたが、国内には豊富な森林資源がありますが、これまでは資源(木材)を製品に加工し、需要につなげるといったサプライチェーンの構築が十分でない面がありました。今回のウッドショックは、国産材への関心を高めるいい機会になったという声を耳にしましたが、山元ではあまり恩恵を感じられないといった声もありました。結果が出るまで一定の時間がかかるかもしれませんが、国産材の安定供給に向けて、川上、川中、川下といった関係者の皆が恩恵を得ることができるような流れ、サプライチェーンを構築していく必要があります。森林・林業・木材産業の業界内からも、時代の要請に応える国産材の安定供給体制の構築に向けて共同して取り組んでいくといった行動宣言が出されるなど動きもでてきています。

民間建築物における木材利用に向けて

――では木材利用を促進する具体的な施策や取り組みについてお聞かせください。

小島 昨年、2010(平成22)年に制定された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、法律名も「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」と変わり、10月から施行されました。木材利用の促進を図っていくにあたり、本改正は非常に重要なターニングポイントになったと考えています。

 改正法の話をする前に、まずは改正前の平成22年法とそれに基づく取り組みについて簡単に触れておきます。当時、木材利用を促進することが地球温暖化防止や循環型社会の形成に貢献するとして、木造率が低く、潜在的な木材需要が期待できる公共建築物について、国や地方公共団体が率先して木材利用に取り組むことを目的として法律が制定されました。本法に基づいて、農林水産省と国土交通省は、公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針を策定し、「公共建築物については可能な限り木造化又は内装等の木質化を図る」との考えの下、各省庁がそれぞれ木材利用促進計画を策定し、取り組みを進めてきました。地方自治体においても、すべての都道府県、9割以上の市町村で木材利用方針が策定され、自治体自らが整備する公共建築物の木造化や木質化が進んできました。

 このような中、強度に優れた建築用木材や木質耐火部材などの技術開発、木造の建築構法や防耐火性能などの技術も進展し、また、木造建築物の防耐火などに係る基準の合理化も進み、建築物における木材を利用するための環境整備も進んできました。これらを背景に、公共建築物における床面積ベースの木造率は、基本方針で積極的に木造化を促進するとされている3階建て以下の低層の公共建築物をみると、法律制定時(2010年度)の17・9%から2020(令和2)年度には29・7%まで上昇しています。

 公共建築物の木造化などでは、一定の成果を挙げてきましたが、民間の非住宅分野や中高層建築物の木造率はまだまだ低位にとどまっています。しかし、2050年カーボンニュートラル宣言やSDGs を背景に、炭素を貯蔵することが可能で、製造時のエネルギー消費が比較的小さいなど、環境に優しい素材である木材利用の機運が高まり、民間建築物においても木造化や木質化に向けた動きが進んできています。

 そうしたこともあり、公共建築物だけではなく、民間建築物を含む建築物一般での木材利用を促進するため、昨年、法律の改正が行われました。今回の改正による最大のポイントは、木材利用の促進の対象を公共建築物のみから建築物一般に拡大した点にあります。また、そのための仕組みとして、改正法では、政府一体となって木材利用を進めるための「木材利用促進本部」の設置や事業者などによる木造化・木質化の取り組みを後押しするための「建築物木材利用促進協定」制度が盛り込まれました。