
2025/11/14
世界有数の海洋国家であるわが国。海上保安庁は、その広大な海の安全と治安を確保に向け、さまざまな施策を進めている。近年、外国船舶の領海侵犯など周辺海域の緊張感が増していることから海上保安庁では海上保安能力の強化を進めているが、その進捗状況はどうか。また人口減少に歯止めがかからない中、人材確保に向けて進めている人的基盤強化の取り組みについて、さらに次年度の取り組みと今後の展望について海上保安庁の瀬口長官に話を聞いた。
Tweet
海上保安庁の取り組みと緊張感を増すわが国周辺海域の情勢
――四方を海に囲まれた島国であるわが国。その領海、ならびに排他的経済水域(EEZ)は約447万㎢と世界有数の面積を誇る海洋国家でもあります。そんなわが国の領海の治安を維持している海上保安庁の取り組みについて、また近年、緊張感を増している周辺海域の情勢についてお聞かせください。
瀬口 四方を海に囲まれたわが国は、古来より海から多くの恩恵を受け、豊かな発展を遂げてきました。
海上保安庁は、昭和23(1948)年の創設以来、脈々と受け継がれている「正義仁愛」の精神のもと、この「平和で美しく豊かな海」を守り、海上の安全および治安の確保を図るという任務を果たすため、広大な「海」を舞台に、国内の関係機関のみならず、諸外国の海上保安機関などとも連携・協力体制の強化を図りつつ、治安の確保、海難救助、海洋環境の保全、自然災害への対応、海洋調査、海洋情報の収集・管理・提供、船舶交通の安全の確保など、多種多様な業務を行っています。
その中でも諸外国の海上保安機関との連携・協力は、「平和で美しく豊かな海」を次世代に継承するために必要不可欠と考えています。多国間・二国間の枠組みを通じて、海に関するあらゆる課題に取り組み、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」の実現に向けて、法の支配に基づく海洋秩序の維持・強化を図るとともに、シーレーン沿岸国の海上保安能力向上を支援するなど、国際分野での取り組みをさらに深化させているところです。
近年のわが国周辺海域における情勢については、尖閣諸島周辺海域における中国海警船による活動、大和堆周辺海域における外国漁船による違法操業、わが国の同意を得ない外国海洋調査船による調査活動や覚醒剤や大麻の密輸事犯などが確認され、依然として予断を許さない厳しい状況にあります。
尖閣諸島周辺海域では、ほぼ毎日、中国海警船による活動が確認されており、令和6年の接続水域内における年間確認日数は過去最多の355日となったほか、連続確認日数は昨年11月19日から本日(取材日:7年9月17日時点)まで303日連続となり、これは、5年12月22日から6年7月23日までの215日を超えて過去最長です。
また、中国海警船による尖閣諸島周辺のわが国領海への侵入事案や、領海内で操業などを行う日本漁船に近づこうとする事案も繰り返し発生しており、7年3月の事案では、領海侵入時間が過去最長の92時間8分(7年9月17日時点)となりました。そのほか、今年5月には領海侵入中の中国海警船から搭載ヘリコプターが飛行するという事案も発生しています。
このようなわが国周辺海域における情勢の中、海上保安庁では、全国に配備した巡視船艇・航空機などの勢力により、国民の皆さまの安全・安心を守り抜くという断固たる決意を胸に、24時間365日、職務に当たっています。
そして今年にあっては、4月に開幕した「大阪・関西万博」における海上警備も実施しています。具体的には、会場である夢洲が周囲を海に囲まれた臨海部に位置し、海上における警備や海上交通の安全確保が極めて重要であることから、巡視船艇・航空機などによる会場周辺の海上警備をはじめ、職員による旅客船ターミナルや旅客船内の警戒などを実施しているほか、ソフトターゲットを標的としたテロ対策として事業者らに対する自主警備の強化を要請するなど、関係機関とも緊密に連携し、官民一体となって適切に対応しています。
海上保安能力強化、その進捗
――緊張感を増す周辺海域の情勢に対して、海上保安庁では「海上保安能力強化に関する方針」(令和4年)に基づき、さまざまな取り組みを進めています。では、これまでの取り組みとその進捗についてお聞かせください。
瀬口 海上保安庁では、平成28年12月に決定された「海上保安体制強化に関する方針」に基づき、尖閣領海警備のための大型巡視船等の整備など、海洋秩序の維持強化のための取り組みを推進してきましたが、さらに厳しさを増すわが国周辺海域の情勢を踏まえ、令和4年12月に決定された「海上保安能力強化に関する方針」に基づき、巡視船・航空機の大幅増強などハード面の取り組みに加え、新技術の積極的活用や国内外の関係機関との連携・協力の強化、サイバー対策の強化などのソフト面での取り組みもあわせて推進することにより、海上保安業務に必要な六つの能力である、
・ 新たな脅威に備えた高次的な尖閣領海警備能力
・ 新技術等を活用した隙の無い広域海洋監視能力
・ 大規模・重大事案同時発生に対応できる強靱な事案対処能力
・ 戦略的な国内外の関係機関との連携・支援能力
・ 海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力
・ 強固な業務基盤能力
――を一層強化することとしています。
「海上保安体制強化に関する方針」が決定されて以降、平成28年度と令和7年度の予算・定員を比較すると、当初予算は1877億円から2791億円に、定員は13522人から14889人に増加しているほか、大型巡視船29隻、航空機32機、測量船2隻などの増強整備を進めています。
なかでも、4年に導入した無操縦者航空機については、今年4月から運用拠点を海上自衛隊八戸飛行場(青森県八戸市)から北九州空港へ移転し本格運用を開始するとともに、今年度中に新たに2機を増強し、5機体制で運用する予定としており、これによりさらなる海洋監視体制の強化を図ります。
また、大規模災害や国民保護などの大規模・重大事案に的確に対処するため、指揮能力、輸送能力などを備えた多目的巡視船の建造に向け、準備を進めているところです。