お問い合わせはこちら

官民連携による木材利用促進に向けて/林野庁 小島裕章氏

――新設された木材利用促進本部、そして建築物木材利用促進協定とは、どういったものなのでしょうか。

小島 木材利用促進本部は、農林水産大臣が本部長を、そして総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省および環境省の各大臣が本部員を務めています。従来の公共建築物での木造化を進めてきた農林水産省と国土交通省の体制から拡充され、政府一丸となって木材利用を促進していく体制となりました。本部会合もこれまで2回開催され、改正法に基づく新たな基本方針の策定やそれに基づく取組状況の確認、とりまとめを行っています。

 そして建築物木材利用促進協定は、建物を建てる建築主、木材を供給する林業・木材産業事業者や国、または地方公共団体が建築物における木材利用を促進するために締結するもので、具体的な木材利用の構想、その達成に向けた関係者の取り組み、国または地方公共団体による情報提供などの支援内容について取り決めるものです。改正法の施行から1年ほどが経過しましたが、既に40協定(10月8日時点)が結ばれており、国や都道府県だけではなく、市町村でも協定を締結する事例も出てきています。

 また改正法により、10月を木材利用促進月間、そして10月8日が木材利用促進の日と法定されました。なぜ10月8日なのかについては、漢字の「十」と「八」を重ねると「木」になるということからきています。10月の月間を中心に、民間企業や関係団体、地方公共団体と国が連携して、さまざまなイベントの開催や情報発信などを行っています。林野庁としては、木の良さや木材利用の意義に関する普及啓発を通じ、国民運動である「木づかい運動」を広めていければと考えています。

官民連携による木材活用促進に向けた取り組み

――木材利用の促進に向けて、国や地方公共団体、企業が連携した取り組みが進められているわけですね。では具体的な事例や特徴的な取り組みなどがありましたらお聞かせください。

小島 木材利用という意味では、最近、中高層の木材建築物が増えてきており、皆さんも報道などで目にする機会が増えているのではないかと思います。

高層純木造耐火建築物「Port Plus」
高層純木造耐火建築物「Port Plus」

 純木造のビルとしては、2021年2月竣工の「高惣木工ビル」(仙台市、建築主:高惣合同会社、設計・施工:株式会社シェルター)や本年3月に竣工した「Port Plus」(横浜市、建築主・設計・施工:株式会社大林組)などがあります。そのほか、CLTパネル(ひき板を繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料)を使用した建物も増えてきており、鹿島建設株式会社が建設中の「(仮称)鶴見研修センター」(横浜市)などはそうした事例です。

 また、21年10月竣工の「HULIC&New GINZA8 」(東京・銀座、建築主:ヒューリック株式会社、設計・施工:株式会社竹中工務店)は、木造と鉄骨造を組み合わせた12階建ての商業ビルですが、アップルストアが入居したとして最近話題になりました。

 一般の方からは「木造でビルが建てられることを初めて知った」という声を聞くことがありますが、そう考えている方が多いというのがまだ実情だと思っています。こうした先進的な企業による建築物の事例やその効果・メリットなどを紹介することで、建築主をはじめ、木造建築物に対する認識を変えていく必要があります。皆さんも中大規模の木造建物を一度訪問していただくと認識が変わると思いますので、ぜひ試してみてほしいです。

 また、木材、特に地域材の利用を進めていくためには、川上から川下までの関係者間の連携が重要になってきます。先程、改正法による木材利用促進協定が40件結ばれているといいましたが、例えば、岡山県が結んだ協定では、一般社団法人岡山県木材組合連合会が県産材の安定的な調達に協力し、ライフデザイン・カバヤ株式会社が自社の販売する建築物での県産材の利用を進めるといった内容になっています。地方公共団体においては、川上から川下までの連携を図るべく、どんどん協定制度を活用していただきたいと思います。

 さらに、林野庁として、川上から川下までの関係者間の連携強化を図るため、昨年9月に、経済・建築・木材供給関係団体や地方団体などの幅広い関係者が一堂に会する官民協議会である「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会」(ウッド・チェンジ協議会)を立ち上げました。本協議会を通じて、関係者間の連携の方法、木材利用のメリットに関する効果的な情報発信の方法、木造ビルのモデル的な設計方法に係る検討を行うなど、木材利用の促進に向けた課題の特定やその解決方法といった技術的、実務的な議論を進めているところです。

 それ以外にも、木材利用を後押しする取り組みとして、顕彰制度もあります。例えば、一般社団法人日本ウッドデザイン協会が運営する「ウッドデザイン賞」は、木の良さや価値を再発見させる建築物、木製品や取り組みなどを消費者目線で顕彰する仕組みで、木材を使うことに対する古いイメージを払拭し、デザイン性に優れた建築物などを評価するものです。昨年は、地域内の10を超える事業者が連携し、地元産の木材を各所に使用した、地域の資源と文化を生かす宿泊施設である香川県の「URASHIMA VILLAGE」が最優秀賞を受賞しています。また、別の顕彰制度である「木材利用優良施設コンクール」は、建築物における木材利用を推進するための顕彰を行うもので、建築に関する技術面や環境面での新規性や材料調達に係る工夫などを評価しています。昨年は、岡山県西粟倉村の木造庁舎と多目的交流施設の「あわくら会館」が最優秀賞(内閣総理大臣賞)を受賞していますが、その建築に用いた木材の村産材率は97%と聞いています。

令和3年度木材利用優良施設コンクール最優秀賞「あわくら会館」
令和3年度木材利用優良施設コンクール最優秀賞「あわくら会館」

――環境問題への意識の高まりもあり、一般にも木材利用への関心が高まっています。最後に木材利用における今後の展望、またその実現に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。

小島 木材利用、特に国産材を積極的に活用していくことは、利用期を迎えたわが国の森林を「伐って、使って、植えて、育てる」持続的な循環を促進し、森林の適正な整備や森林の持つさまざまな機能の発揮のみならず、脱炭素社会の実現、さらには山村をはじめとする地域経済の活性化にも貢献するものです。

 引き続き政府一体となって公共建築物の木造化を推進するとともに、地方公共団体による公共建築物の木造化を働きかけていきたいと考えています。また、民間建築物での木材利用を増やしていくために、改正法を十分に生かし、協定制度の活用、木材利用促進月間を中心とした普及啓発の取り組み、木材利用に関する顕彰制度への支援、ウッド・チェンジ協議会を通じた川上から川下までの関係者間の連携強化、木材利用促進本部の関係省庁と連携した各種支援などにしっかりと取り組んでいきた
いと考えています。

 今後、民間建築物での木材利用がより一層進み、一戸建ての住宅だけではなく、オフィスや商業施設、医療施設、そして低層のみならず中高層の建築物での木材利用が当たり前となる世界になっていくことを目指していきたいとも思っています。木材は、断熱性、調湿性に優れるとともに、木の香りは人をリラックスさせ、集中力を高めるといった効果も期待できますので、木造化・木質化することで快適な空間を提供できる素材でもあります。

 最後に、建物の木造化や木質化も重要ですが、まず皆さんには身近な製品やモノを木に変えるなどして、木を暮らしに取り入れる、「ウッド・チェンジ」に取り組んでいただけたらと思います。木材利用を進めていくことは持続可能な社会を作っていくために欠かすことのできない重要な要素だと信じています。

――本日はありがとうございました。
                                           (月刊『時評』2022年11月号掲載)