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木材利用促進のさらなる拡大を目指して/林野庁 三上 善之氏

――では、木材利用の促進に向けた木造化推進法に基づく施策やそれ以外の取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

三上 木造化推進法における法律上の規定として、定められた基本方針の中でもさまざまな取り組みが規定されています。高層建築物や中高層の建築物における木材利用の促進においては、コスト面やこれまで建築の実例がない、経験が足りないといった問題があります。そうした問題に対応するために、部材開発を進めたり、実証建築を進めるといった部分において、国の取り組みを規定しています。

 それ以外にも、今回の法律では協定制度を設けた点も特徴として挙げられます。この建築物木材利用促進協定は、協定を締結した民間企業の取り組みを国がPRできるというものです。現在、木材利用の促進に向けて民間企業も先進的な取り組みを行い、積極的に建築物に木材を使用するといった目標を立てています。

 協定を締結した民間企業の取り組みの一例として、日本マクドナルドでは今後建設予定の建築物において、一店舗当たり一定量以上の地域材を利用する設計を基本として、3年間で5550㎥の地域材を利用する目標を立てて、農林水産省と協定を締結しています。また、木材流通を行っているナイスグループでは、森林育成から素材流通、製材、加工、製品流通、設計、施工、住宅供給など建築物の木造化・木質化のサプライチェーンにおいて全国規模で展開する業界ネットワークを生かし、さまざまな分野における国産材利用の普及・促進に取り組み、2027年度末までに国材取扱量を65万5000㎥(2022年度実績:40万㎥)供給といった目標を立てて協定を締結しています。

 こうした協定は着実にその数を増し、昨年40件だったものが現在では92件(国:14件、県:46 件、市町村:32件)(9月12日時点)になるなど国だけではなく、地方公共団体でも積極的に本協定を活用しようといった機運が高まっています。

三上 そしてもう一つ、これは本法に基づく施策ではありませんが、合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律、いわゆる「クリーンウッド法」の改正があります。

――クリーンウッド法の改正。改正の詳細についてお聞かせください。

三上 クリーンウッド法は、もともと2016年に制定されましたが、本年5月に改正法が公布されています。これまでは合法伐採木材等の利用の努力義務を課してきた法律ですが、今回の改正によって木材流通の最初の段階、素材生産業者、実際に木を伐ってくる業者から最初に木材を取り扱う原木市場、そして製材工場、または海外から木材を輸入する輸入事業者に対して、その木材がきちんと伐採された木材かどうかについての情報確認、いわゆる合法性の確認を義務化するものになっています。その上で、実際に家具や紙に加工するなど他の木材関連事業者に対して合法性の確認をした結果を伝えるといったことを義務付けています。

 こうした措置を通じて、合法に伐採された木材がより流通しやすくなるような体制づくりを目指し、また情報が消費者に伝わることで、合法的に伐採された木材を使うという消費者の意識の高まりも目的にしています。本法は、公布日から2年後の25年春ごろに施行する予定になっています。

木材利用促進に向けた官民連携

――先ほどのお話で地方公共団体や民間企業との連携について触れていただきました。地域材の活用といった点からも官民連携は非常に重要になるかと思いますが、触れていただいた話以外にも官民連携の取り組みがあればお聞かせください。

三上 そうですね。官民連携の取り組みとして大きなものに「ウッド・チェンジ協議会」があります。本協議会は、2021年の木造化推進法施行とあわせる形で制定された官民連携型の協議会です。協議会では五つのグループ(木材利用環境整備G、情報発信G、低層小規模建築物G、中規模ビルG、高層ビルG)を設け、川上から川下までの幅広い関係者が一堂に参画できるようにしています。21年9月の第一回会合以来、これまで半年ごとに1回というペースで開催し、建築物における木材利用促進という課題に対して、グループごとの対応について検討しています。

 このうち情報発信Gでは、木材のリラックス効果をはじめ、集中力が高まる、集客の見込みで賃料が高まるなどの利点の事例を収集し、科学的な分析を行うとともに情報を発信しています。また、木材利用環境整備Gでは、木材利用を促進することは、SDGsにも貢献し、ESG投資にもつながりますので、その効果を見える化するための取り組みとして、林野庁が21年に策定した炭素貯蔵量のガイドラインをさらにわかりやすくするために、「スギ何本分、東京ドーム何個分の森林の蓄積量に匹敵する」といったより分かりやすい形での発信を行っています。

 木づかい運動についても、10月の木材利用促進月間を中心に取り組んでいますが、これも国や地方公共団体が率先して行う行事に加えて、ウッド・チェンジ協議会を含めた民間企業の方々にも参画していただくことが重要です。ウッド・チェンジ協議会では、民間企業の取り組みについても取りまとめを行い、多くの方に紹介する、また紹介を通じて、さらに木材利用促進についての取り組みをしていただけるような、相互の情報交換の場となれるようにしています。

 そして木材利用の一つとして紹介したい事例があります。近年、高層建築物でも木材利用が進んでいる点については触れましたが、木材利用においてはどうしてもコストがネックになります。その点、昨年の木材利用推進中央協議会が行ったコンクールにおいて内閣総理大臣賞を受賞した「流山市立おおぐろの森中学校」(施主:流山市、設計:日本設計、施工:奥村組)は、利根川上流域や姉妹都市の木材など、地域に縁のある木材を活用したデザイン性の高い校舎をRC造(鉄筋コンクリート造)と同等のコストで実現した非常に画期的な事例です。

 国産材をほぼ100%使用し、炭素貯蔵量は2850㌧とRC造の建築と比べて2600㌧程度のCO2削減効果を実現するなど、環境面でも効果的ですし、校舎だけなく、体育館やホールなども木造にすることで非常に快適な学校生活を送れるような工夫をしており、他の公共建築物にとってもモデルとなるような取り組みといえるでしょう。

――実際に木材を活用した建築物などを目にする機会も増え、今後、木材の利活用には一層の関心が寄せられるかと思います。最後に今後の展望、あるいは取り組みの加速化に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。

三上 木材を使用した中高層建築物が増えたり、木材を使ったデザイン商品が身の回りに広がっていくことで人々の木材利用に対する意識が変化し、木材を利用することが「心地よい、素敵だ、格好いい」といった感情になることを期待しています。

 永続的な動きになれば、それは木の活用が定着していくことになりますので、よりよい環境の実現ともいえます。あとは国内にとどまらず、世界においても持続可能な木材利用の促進を訴えていく必要があります。G7首脳宣言においても従来から「持続可能な森林経営」という言葉は盛り込まれていましたが、本年の宣言にはわが国の提言により、「持続可能な木材利用」という言葉を盛り込むことができました。ITTO(International Tropical Timber Organization:国際熱帯木材機関)などを通じて、東南アジアなどでもプロジェクトを実施し、地元で伐採した木材を利用し、加工して地域経済の向上に努めるという国内市場向けバリューチェーンづくりも支援しています。これからも持続可能な木材利用というフレーズを一層定着させていき、こうした意識づくりを海外にも広げていきたい、そう考えています。

――本日はありがとうございました。
                                              (月刊『時評』2023年10月号掲載)