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【図柄入りナンバー】トップ松戸市の戦略/本郷谷・松戸市長

市民のシビックプライドを醸成するツールとして戦略的に活用していく

ほんごうや・けんじ 昭和23年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒業後、47年新日本製鐵入社、平成13年中央青山監査法人、18年千葉県松戸市議会議員、平成22年7月より現職。現在、3期目。
ほんごうや・けんじ 昭和23年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒業後、47年新日本製鐵入社、平成13年中央青山監査法人、18年千葉県松戸市議会議員、平成22年7月より現職。現在、3期目。

2020年5月に導入された地方図柄入りナンバープレート第2弾(17地域)でトップを走るのが、千葉県松戸市の「松戸」ナンバーだ。市民のシビックプライドを醸成するためのツールとして効果的に活用している本郷谷健次市長に詳しい話を聞いた。(聞き手・中村 幸之進)

――国土交通省が、2020年度5月から導入した地方版図柄入りナンバープレート第2弾(17種類)のうち、「松戸」ナンバーがトップの申し込み件数だと聞きました。
本郷谷 おかげさまで、直近(2021年11月末現在)の申し込み件数は、5877枚と好調に推移しており、ありがたいと思っています。そもそも図柄入りナンバープレートを導入しようとしたきっかけは、本市は人口約50万人(49万9千人)もいるのに、ご当地ナンバーがない状態で、市民から「ご当地ナンバーをぜひ導入してほしい」との要望が多数寄せられていたからです。

われわれも、市のアイデンティティと言いましょうか、「『松戸』という地名をナンバープレートにぜひ付けてほしい」という思いがずっとあって、国にも随分お願いしてきた経緯があります。

――好調の要因をどのように見ておられますか。
本郷谷 バスやトラックなど地元の交通事業者の協力も大きいのですが、私は、自分の市に対する誇り(シビックプライド)を具現化したシンボルとして市民の皆さんに高く評価された結果だと見ています。今回の図柄入りナンバープレートの導入においては、デザイン選定から啓発に至るまで全て市民参加型で進めてきました。これが、多くの市民の皆さんのご支持に結び付いたと思いますし、今後も図柄入りナンバープレートを起点に、シビックプライド醸成につながる施策に生かしていきたいと思っています。

――市民参加型という点についてもう少し詳しくご説明いただけますか。
本郷谷 本市では、地方版図柄入りナンバープレートの導入に向けて、17年8月に3000人を対象に市民意識調査を実施し、多くの市民から「導入してほしい」との回答を得ることができました。この結果から、国土交通省に図柄入りナンバープレートを正式に申請したわけです。ナンバープレートのデザインについては、全国から公募を行い、142名から221作品の応募を頂戴しました。選定は、応募作品の中から、デザインの専門家などから構成された選考委員会を設置するとともに、市民人気投票を実施し、現在のデザインに決定しました。

――ナンバープレートの図柄には、矢切の渡しとさくら、あじさい、が描かれていますね。
本郷谷 矢切の渡しは、本市を表すデザインには欠かせないアイテムだと思いますし、さくらは、市内常盤平(ときわだいら)にあるさくら通りを、あじさいについても、約3万本のあじさいが咲く本土寺(ほんどじ)をモチーフにしています。つまり、市民の皆さんが親しみのある場所がすぐにイメージできるようなコンテンツをバランス良く配置しているわけですね。

図柄入りナンバープレートの交付の利便性向上がさらなる数のアップにつながる

地方版図柄入りナンバープレート「松戸」  デザインは、矢切の渡しと市内常盤平のさくら、本土寺のあじさいの花が描かれている。松戸市民であれば全てイメージができるコンテンツが配置されている。(出典:国土交通省)
地方版図柄入りナンバープレート「松戸」 デザインは、矢切の渡しと市内常盤平のさくら、本土寺のあじさいの花が描かれている。松戸市民であれば全てイメージができるコンテンツが配置されている。(出典:国土交通省)

――ところで、図柄入りナンバープレートにおいて、カラー図柄を装着する場合、寄附金(カラー図柄の場合は、千円以上)が必要になるのですが、この寄附金の一部が、地方自治体が地域振興や観光などの利用に使える仕組みになっています。貴市ではどのように使われるお考えでしょうか。
本郷谷 具体的には、来年度から協議会を設置して、本格的に寄附金の活用の検討を進めていく予定ですが、できれば、「松戸」ナンバーの数をさらに促進していけるような仕組みを構築したいと思っています。また、今回の結果は、市民の皆さんに協力いただいた結果なので、市民の目に見える形にして還元したいですね。

――これまでの図柄入りナンバープレートの流れを見ますと、導入1年目は好調でも、2年目以降は、域内での自動車の数は限定されていることもあって、交付数はだんだんと落ち着いていくように思えます。こうした状況について、本郷谷市長はどのように見ておられますか。
本郷谷 私は、2年目以降もある程度の数字を残していけると思っています。重要なのは、図柄入りナンバープレートの交付の利便性です。具体的に申し上げると、「松戸ナンバー」の場合、交付窓口は、本市から北に約30㌔㍍離れた陸運局のある野田市まで行かないと交付されない仕組みになっています。これでは、なかなか個人で取り替えにいくという気にはなりません。例えば市内で交付ができるとか、あるいはインターネットで手軽に発注して、自宅で受け取れるなど、交付の仕組みを改善していければ、さらに増えていくと見ています。

導入そのものが目的ではなく、市民のシビックプライド醸成のツールとして活用

――国土交通省は、地方版図柄入りナンバープレート導入の狙いを地域の風景や観光資源を図柄として、地域の魅力を全国に発信すると同時に、地域振興や地方創生に資することとしています。先ほど、本郷谷市長は、地方版図柄入りナンバーを起点に、市民のシビックプライドの醸成に生かしたいとお話されていましたが、その点についてもう少し詳しくご説明願いたいのですが・・・。
本郷谷 本市は、東京都に隣接している立地もあり、人の流れがものすごく激しいというのが大きな特徴で、市内には鉄道駅が全部で23もあります。

――それはすごいですね。
本郷谷 ですから平日は、東京方面を中心に移動する一方、本市にも学校や職場などの関係で移動してくる人たちを合わせると毎日20万人の人たちが本市を行き来しています。もともと、本市は戦後の高度経済成長期に、東京のベッドタウンとして開発されてきた経緯もあって、「住むまち」として発展してきました。そこで「住むまち」としての機能を生かし、「家庭を持つ、子どもを育てる、あるいは暮らしを楽しむ」という面から、市民の皆さんの満足度を上げていくことを大きな政策課題として掲げてきました。ですから、地方版図柄入りナンバープレートも、導入そのものが目的ではなく、本市のシビックプライド醸成のためのツールとして生かす必要があると考えているわけです。

――具体的にどのように生かしていくお考えでしょうか。
本郷谷 「松戸」ナンバーをかたどったキーホルダーやティッシュ、マスクケースなどのさまざまなグッズなどを作り、子どもや高齢者など幅広い層への浸透を図っています。図柄入りナンバープレートそのものは、自動車に装着するものなので、ターゲットは自ずと免許保持者に限られてくるわけですが、こうしたグッズは、むしろそれ以外の市民にもアピールできるというメリットがあります。

子育てのしやすさや文化、芸術活動などを通じて、住みやすいまちを市内外にアピール

市民参加型イベント(未来のまつど)の様子  松戸市は、活発に市民参加型のイベントを仕掛け、シビックプライドを醸成しているのが特長だ。(出典:松戸市)
市民参加型イベント(未来のまつど)の様子 松戸市は、活発に市民参加型のイベントを仕掛け、シビックプライドを醸成しているのが特長だ。(出典:松戸市)

――本郷谷市長のお話を伺っていますと、地方図柄入りナンバープレートを市民のシビックプライド醸成という大きな目的の手段として活用されていることがよく分かりますね。では、図柄入りナンバープレート以外に、市民のシビックプライドを醸成する施策として、具体的にどのようなことを推進されているのか教えてください。
本郷谷 まず、本市は、「やさシティ、まつど。」をスローガンに子育てがしやすいまちづくりを重要課題に掲げています。2021年4月には、「6年連続待機児童ゼロ」を達成するなど、保育環境を充実させています。私立幼稚園の預かり保育料の助成や24時間体制の小児救急医療体制の構築など安心して子育てができる幅広い支援策を行っています。本市の子育て支援策は、日経DUALが発表する「共働き子育てしやすい街ランキング」において、総合評価1位を受賞するなど高い評価を頂戴しています。

――なるほど。子育てがしやすいという点も、市民のシビックプライドを醸成する施策の一つというわけですね。
本郷谷 ご指摘の通りです。本市においても、未就学児や小学生のお子さんに対しては、いろいろなサポートができる体制が整ってきましたが、例えば中学生や高校生のお子さんへのサポートという意味ではまだまだ課題があると認識しています。従って、決して総合評価1位という現状に満足せずに、中長期的な視点で取り組むテーマだと考えています。

――国ではこども家庭庁の創設が議論されるなど、子育てについてはさまざまな議論がありますが、本郷谷市長はどのようにお考えでしょうか。
本郷谷 人口減少というわが国の課題を踏まえますと、共働きの夫婦が仕事にも注力し、安心して生活いただけるよう、子育てを社会全体でバックアップしていく必要があると感じています。そのためには、まず国が、制度設計や骨格をしっかりと作っていくという大所高所の議論をぜひお願いしたいですし、その気概も見せていただくことを期待しています。

われわれ基礎自治体は、現場に直結していますので、実行せねばならない施策は、何が何でもやらなければなりません。例えば、本市では、独自の事業として、養育費をもらえていない一人親世帯に対し、子ども一人につき月額1万円を支給しています。他にも、新型コロナウイルス感染予防策として、妊婦さんが妊婦検診の受診を安心して行えるように、タクシー料金の助成も実施しています。

――先ほど、本郷谷市長は、まだまだ課題があるとおっしゃっていましたが、貴市の子育て支援策は、かなりきめが細かく、手厚い印象を受けます。他に市民のシビックプライドを醸成する施策として、どのようなものが挙げられますか。
本郷谷 「暮らしを楽しんでもらう」という視点から、文化的な生活を育んでいただく狙いで、「PARADISE AIR(パラダイスエア)」という事業を13年度から継続的に実施しています。この事業は、かつてホテルだった場所を滞在型のレジデンスに改修し、国内外からアーティストを公募して、本市に一定期間、滞在しながらさまざまな文化芸術活動をしてもらうという内容です。            

――なかなかユニークな内容ですね。
本郷谷 昨年もコロナ禍にも関わらず、外務省の特別許可を得て、スウェーデンからアーティストを招へいしました。通常ですと、アーティストの滞在期間は、ショートとロングの2種類で、ショートは約3週間、ロングは約3カ月間、滞在制作を行い、自分の作品を発表したり、トークイベントを通じて、できるだけ市民との交流も図れるように工夫しています。実は、この事業も、国内外のアーティストたちからだんだん認知されてきて、公募すると、約80の国と地域から500組以上の応募があることもあります。

――市民の皆さんが、普段の生活の中から、芸術に触れる良い機会だと思います。
本郷谷 こうした取り組みに触発されているのか、本市の子どもたちは、吹奏楽や合唱の各種音楽コンクールで、毎年金賞や銀賞を取るなど優秀な成績を収めています。子どもたちの発表の機会として、また、多くの市民が音楽を楽しむきっかけを体験することで、音楽のすそ野を広げ、「音楽のまち 松戸」の魅力を向上させることを目的に、昨年11月には、第1回目の音楽の祭典「MATSUく
ON~まつど音楽フェスティバル~」を、森のホール21および21世紀の森と広場で開催しました。当日は市内中学校、高等学校の生徒による各種音楽コンクール受賞記念演奏会やプロの演奏家によるオペラ、音楽未経験者でも気軽に参加できるワークショップなどを実施しました。オンラインによるライブ配信も行い、久々の大きなイベントで、大変盛況でした。冬のクリスマスシーズンから年末にかけては、市内50カ所で、市民参加型の音楽のミニコンサートも開催されるなど、「音楽のまち、松戸」が徐々に定着しつつあります。図柄入りナンバープレートグッズを活用したPRも含め、市民のシビックプライドがさらに醸成されていけるよう頑張っていきたいと思います。

――ありがとうございました。 (月刊『時評』2022年1月号掲載)

「MATSU ON~まつど音楽フェスティバル」の様子  音楽未経験者でも気軽に参加できるワークショップを実施した。   (出典:松戸市)
「MATSU ON~まつど音楽フェスティバル」の様子 音楽未経験者でも気軽に参加できるワークショップを実施した。 (出典:松戸市)