
2025/05/19
――一般来場者への魅力もさることながら、それだけ多彩な出展がそろうと、ビジネス面での多角的な効果も期待されるところでは。
茂木 ご指摘の通り、例えば出展企業各位も自社技術の紹介だけでなく、他社・他国の方々とのビジネス交流に活用されることも多々あると想定されます。万博会場内で自由に商業活動を行うことはできないのですが、会場には各国、各企業、各自治体が出展している以上、ビジネスマッチングにも格好の機会です。
そして、そのビジネスマッチングにも多様な種類があります。例えば参加国を主体としたもの、これは期間中に各国のナショナルデーが設定されており、その日には当該国主催の式典が行われるため、本国からハイレベルなデレゲーション(代表団、派遣団)が来日し、多くの場合は経済ミッションが帯同します。これらデレゲーションは、万博会場はもちろん、東京にも向かい、また地方へも足を伸ばす場合もあります。これは対内投資を促すべく自国の認知度向上を図ったり、産品を紹介して輸入促進を図ることが主たる目的です。その結果、日本の企業がその国の技術や産物などに関心を持つケースもあり、そこで新たなビジネスマッチングが生まれます。実際に、180日の開催期間中100回以上のビジネスマッチングイベントを企画している国や、特定専門的な日本のビジネスセクターの人々を招いてイベントを打つ国もあるほどです。
――いかに各国が、この貴重な機会を最大限活用しようとしているかがうかがえるお話ですね。では企業、あるいは自治体からの観点においては。
茂木 企業が万博に出展する以上は企業が開発した技術や未来の商品、あるいはその会社が目指すコンセプトの発信などを行うわけですので、そこに取引先を多数呼び込み今後のビジネスへの基盤を築くことを期待するケースもあります。そこに各国要人が参画すれば、その企業にとって従来にないビジネスコミュニケーションの機会となるかもしれません。また中小企業の方々も数多く万博に参加して展示や技術の紹介をするほか、中小機構も同様の展示を行います。そのほかスタートアップのイベントも予定しています。
さらに地方自治体も重要な存在です。大阪はむろん、関西広域連合所属の自治体が10団体近く出展しており、関西広域連合自体も独自の関西パビリオンを設けています。また常設に期間出展も加えると全国41都府県が出展してPRを展開するなど、非常に地方色豊かです。地域の産物を、国内だけでなく海外の来場者、関係者にアピールしてもらえればと思います。
このように、多様な角度からのビジネスマッチング、相互発信と認知の機会が万博会場で展開されることを期待しています。あるいは万博を契機としてその後の持続的な関係構築につながっていく、それが万博の有する重要な役割の一つです。
――なるほど、開催期間中の入場者数など、短期的な数値のみでは測定できない効果もあるということですね。万博の評価は多面的であるべきだとよく分かります。
茂木 はい、万博会場と期間内で完結するのではなく、これをスタートラインとして次の展開に向けて発展させていく、これもまたビジネス分野のレガシーと言えるのではないでしょうか。
万博の存在は、個人の人生に影響
――では、現時点で想定される課題と、その対応についてはいかがでしょう。
茂木 やはり開幕直前まで、PRをどれだけできるかが問われるところです。万博そのものの認知度は浸透しても、それなら行こうという行動変容までに至っていない、関西圏と他の地域とでは情報の密度もまだ差異があります。交通の便を鑑みると関西圏の来場者が多くなるとは想像されますが、これをできるだけ平準化し、全国から満遍なくお越しいただけるような広報活動を展開することが第一です。また、インバウンド(訪日外国人旅行者)が右肩上がりの現在、せっかくの機会ですので来日されたインバウンドの方々にもぜひ万博に来ていただきたいと思います。関西滞在期間中に1日でも、万博に入場してもらえると嬉しいですね。この点もさらなるPRが必要です。
これに連動して、チケット入手・予約をより簡素にすることも求められます。当初は電子チケットによる前売り券の販売を主体としてきましたが、2月25日に当日券の販売も発表されました。このように、気軽にお越しいただけるようにするのが重要だと考えます。
そしていよいよ開催されましたら、何より安全に運営することが第一です。例えば夏の暑熱対策や天気の急変も対策の一つですが、会場内の混雑緩和に向けていかに円滑なコントロールを行うか、さらに会場内だけでなく到着するまでの輸送ルートの分散化も図る必要があります。修学旅行の学生さんから、前回の大阪万博で来場されたご年配の方々まで、会場内にはこうした一般来場者に加え、前述のような要人の方々も数多くいらっしゃいます。その警護は連日にわたることでしょう。この警護と安全確保、そして一般来場者の方々が万博を楽しむのを両立させていかねばなりません。
もちろん何かあった時に即応できる体制の整備には、われわれも気を配っています。いずれにしても、新たな課題が発見されれば、その内容を日々アップデートするなど運営を改善していく所存です。
――人員確保の面については。
茂木 博覧会協会のスタッフの方、また多数のボランティアの方に協力してもらっています。特にボランティアの方々は当初の枠に対し5倍の応募が寄せられたと聞きました。また各国パビリオンはそれぞれスタッフを擁していますので、これらスタッフの方々が安心して働ける環境づくりも不可欠です。
――開催を前に、統括調整官の思いをお聞かせ願えましたら。長くこのビッグプロジェクトをけん引されてこられましたので、万感の思いもあろうかと察せられます。
茂木 私がこのポストに就任したのが2022(令和4)年7月、開催から遡ってちょうど1000日前くらいの段階でした。そこからの500日は、まだ開催は先のことという意識が強かったのですが、後半500日を切ってからは非常に日々の速度が速く、特にこのころ建設ペースに対する懸念が指摘されるようになったため、事業者各位や出展参加各位との調整に奔走する毎日でした。そういう意味では、ここまで準備が整って開催を迎える現在、まさに感無量です。
また前述の通り、世界的なエネルギーコスト高騰の中で、出展してくれた各国関係者には率直にお礼を申し上げます。むしろ各国の方が今大いに盛り上がっているので、その期待にしっかり応えられる万博にしなければ、と改めて気が引き締まる思いです。
この間、1970年の万博を機に、自身の人生が変わったという方のお話を数多く伺ってきました。シグネチャーパビリオンを主導した8人のプロデューサーの一人、アニメーション監督の河森正治氏は、かつての万博で月の石が展示されていなかったら、今自分はこのような仕事をしていないと語っています。それほど万博は、個人の人生に後々まで影響を及ぼし得るのです。今回の万博も、より若い世代や子どもたちに見学してもらい、あの万博が転機となり今の自分を形成したきっかけだった、と言ってもらえるようになることが、万博最大のレガシーだと言えるでしょう。そこにつながるような体験や、記憶に残る内容にしていきたいと思っています。
――最後に、万博に関わる産学官・自治体の方々等に向けてメッセージをお願いします。
茂木 もともとこの万博は、国、地元自治体、経済界が資金を供出し、皆で造ってきたものです。また地元中心にアカデミアにもかなりご参加いただきました。つまり、皆がそれぞれ当事者となる万博だと私は思っています。いよいよあと少しで本番が始まりましたら、この場を徹底的に活用していただき、世界に扉を開いたり、新たな発見をしたり、次に何かをつなげていく、そういう活動の場としてこの180日間をフルに活用してもらえれば、これに過ぎる幸いはありません。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2025年4月号掲載)