
2025/05/23
――中小企業経営者の後継者難が慢性的な課題となっています。現状はいかがでしょう。
佐合 各自治体における事業承継・引継ぎ支援センター等で継続的な対応を行っており、われわれも事業継承に悩む企業をこうした機関に紹介するなどしています。私はかつて内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局におり、人材マッチングの仕事に携わっていました。これは政府の各種施策の中でもヒットした政策だと思います。マッチングによって、時には中小企業経営者の片腕人材が採用され、後継が未だ若年で経験不足の場合、一時的にマッチング人材が社長となって円滑な事業承継をサポートするというケースもありました。このように、必ずしも経営者の縁者でなくても外部から適した人材が入れば企業の持続化を図ることが可能となります。
また、後継者難・事業承継の問題については、金融機関の存在がひときわ大きいため、われわれも金融機関の方々と連携しながら事業承継に悩む経営者の方々へ、人材や支援策の紹介をしていきたいと考えています。
ただ、事業承継を志望する外部人材が積極的に経営に関与しようとしても、やはり個社を取り巻く業界の取引環境が適正なものでなくては、働く意欲の喪失を招きかねません。つまり取引環境、商慣行の適正化は、賃上げという目前の課題解決にとどまらず、経済が次世代へ健全に引き継がれていくための社会規律のようなものだと言えるでしょう。価値に見合った価格、適正な商取引が重要であるという点は消費者側にもご理解いただく必要があります。
――社会はますますデジタル化の推進が求められています。以前から、中小企業の現場ではITの活用が指摘されつつ、コストや担当人材不足等によって課題とされてきました。現在、この点についての状況はいかがですか。
佐合 先進的な企業では、巷間でDXと唱えられる前から、システムを内製化することも含め、既に努力されています。また、自社でシステムを作ることが難しくとも、中小企業が導入できるようなDXサービスも多数存在しています。
われわれは、ITを上手く活用してDXに取り組み、成果を出している企業事例を広く発信していくことが重要だと思っています。われわれの強みはさまざまな業種、規模の企業の取り組みを情報収集できる点にあるので、この情報を中小企業の皆さまに大いに活用していただきたく、今後も事例を地道に発信していくつもりです。情報収集の際、DXはあくまでも目指すべき経営を実現するためのツールなので、それによって経営をどのように変えていこうとしているのか、経営の在り方も含めて一緒に議論させていただく場合もあるかもしれません。DX関連の補助金等、支援メニューも取り揃えているので、それらもぜひ活用して競争力を高めてもらえればと思います。
老朽化対応のイノベーションに期待
――同じく慢性的な課題であり、かつ支障が顕在化しているインフラ老朽化が、今後、管内の経済・社会生活に与える影響はどのように想定すべきでしょうか。
佐合 私見ですが、インフラ整備の重要性は言を俟ちません。人口増加時代はインフラ整備も比較的容易ではありましたが、現在のような人口減少下においては非常に困難であるため、整備に向けては何より効率化が求められるところです。
そこで今後期待したいのは、建築・保守点検・整備に関するイノベーションが生まれることです。例えば2012年の笹子トンネル天井版落下事故発生後、あるベンチャー企業が従来の打音検査ではなく超音波検査で要補修箇所を検知する技術を開発しました。このように、同種の事故の再発防止に向けて、新たな技術やサービスの開発・提供がなされ、各自治体において予防的措置に予算を投じるような構図が確立されれば、インフラ老朽化対策に資すると同時に産業分野の成長につながると思われます。
そういう意味では、スタートアップの方々にとっては新たなビジネスチャンスの地平が開かれつつあると言っても良いのではないでしょうか。また経済産業省としてもこうした新産業・新事業の展開を、Go-Tech 事業こと成長型中小企業等研究開発支援事業等でサポートしていますので、これらの制度を積極的に活用してもらえれば有り難いですね。
金融機関の役割が不可欠
――地球規模の課題解決に向けた未来の技術を発信する場として、この4月13日から大阪・関西万博が開催されます。こちらに対する期待のほどはいかがでしょうか。
佐合 関東経済産業局も局を挙げて広報活動に全力を注いでいます。その結果、会場に足を運んで国内外の新技術を見学したい、ビジネスチャンスの機会と捉えたいという管内事業者の方々の声を多数いただいています。一般入場者向けにはさらに継続的な広報が必要ですが、産業界にはマッチングの好機として捉えてもらえればと思っています。そのためにも経済産業省自身、魅力、見どころをもっと発信する必要があります。
――最後に、誌面を通じて各方面へのメッセージなどお願いします。
佐合 管内経済活性化のため、ぜひ金融機関の方々のお力をお借りできればと考えています。取引先との交渉などの面でもメインバンクが中小企業をしっかりサポートしてくれれば、適正かつ持続的な経済活動につながると想定されます。また、企業が成長していく過程では、M&Aや事業譲渡を経て大きくなるパターンがあり、M&Aにおいて優良な事業を探すとき、金融機関が有する各企業の情報を活用して紹介をしてもらえると安心する、という事業者の声も寄せられます。つまり、金融機関はマッチング機能のポテンシャルが非常に高く、その機能を発揮してもらうことで地域経済活性化が一段と進むのではないでしょうか。金融機関にとっても、成長や承継が叶った事業者はその後の融資、継続的な取引につながりますので、双方にとってもメリットがあります。
関東経済産業局だけで出来ることは限られています。関東財務局とさらに連携強化したいと思っていますし、さらに言えば関東地域を所管する他省庁の地方支部局同士、もっとヨコの連携を強固にして、皆で協力しながら地域を盛り上げていきたいと思います。
また、自治体との連携も言わずもがなです。例えば防災分野では管内各県で行われる防災訓練に当局職員も参加させてもらうなど、平時から緊急時対応に向けて連携を強化しています。このように、つながるべき関係者・機関等は多々あり、その中で当局としてできるかぎりの対応を図っていく所存です。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2025年4月号掲載)