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地域経済最前線/関東経済産業局長 佐合達矢氏

地域経済活性化に不可欠な、取引環境の適正化への挑戦

さごう たつや/昭和43年4月14日生まれ、神奈川県出身。東京大学経済学部卒業。平成3年通産省入省、23年経済産業省商務流通グループ流通政策課長、25年商務情報政策局文化情報関連産業課長、26年同政策文化創造産業課長、27年資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課長、28年電力・ガス取引監視等委員会事務局取引監視課長、29年内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官、令和2年日本政策金融公庫特別参与、4年同取締役、6年7月より現職。
さごう たつや/昭和43年4月14日生まれ、神奈川県出身。東京大学経済学部卒業。平成3年通産省入省、23年経済産業省商務流通グループ流通政策課長、25年商務情報政策局文化情報関連産業課長、26年同政策文化創造産業課長、27年資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課長、28年電力・ガス取引監視等委員会事務局取引監視課長、29年内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官、令和2年日本政策金融公庫特別参与、4年同取締役、6年7月より現職。

 コロナ禍を脱し、万博開催を控えた現在、関東管内は確かな回復の途上にある。とはいえ、二極化の固定、依然として続く後継者難などの課題も尽きない。そうした中、地域経済活性化に向けて取引適正化への取り組みが進んでいる。事業としての魅力の発信、確かな賃上げ等をもとに産業活力の持続的な維持のためには、価格転嫁対策やパートナーシップ構築宣言等を含めた取引環境の整備が欠かせない。商慣習改善の過渡期とも言うべき現在の状況を、佐合達矢局長に語ってもらった。

懸念される好・不況の二極化

――まずは、管内景況の概括からお願いします。

佐合 関東経済産業局は1都10県に及ぶ広大な地域を担当しており、そのGDPは日本全体の5割弱に達します。従って当局の動向は、マクロな視点においては日本経済全体と非常に近似性があると言えるでしょう。今春の段階で、新型コロナウイルス感染拡大期間から脱してほぼ2年、長い停滞期から回復期の途上にあるのを示すかのように、2024年の設備投資も全般的に上向きの状況です。

 とはいえ、管内各所で話を聞くと、巷間で指摘されているような好・不況の二極化がなかなか解消されていないようです。特定の分野、あるいは力のある企業は確かに景況感が良好であるのに対して、規模の小さな企業は引き続き厳しい状況にあるとの声が少なくありません。ことに資源・燃料高が続く中、米国新政権の動向が不透明であることも手伝い、コロナ禍以前から構造改革が進んでいなかった企業に関しては、明るい兆しが見えにくい状況にあると分析しています。

――コロナ禍以後は右肩上がりにインバウンド(訪日外国人旅行者)が増加していますが、管内にその好影響などは。

佐合 今冬、長野県に足を伸ばしました。長野駅は多数の外国人旅行客がおられ、特に欧米人が多く、たいへん賑わっていました。コロナ禍により業績が急激かつ深刻に落ち込んだ宿泊業は、政策的支援を活用して経営が維持されましたが、その頃に比べると大きく回復しています。ですが、こちらも前述の二極化の構図と同じで、インバウンドで賑わう地域がある一方、観光バスが通り過ぎるだけでその恩恵が及んでいない地域もあるなど、地域間格差があるのが現状です。

 例えば、管内の温泉地でも、インバウンドが多数訪れる温泉地と国内旅行者中心の温泉地に分かれ、賑わいに大きな差異が生じています。さらに言えば温泉街の中でも、設備投資、創意工夫や外部発信が奏功して活況を呈する宿と、旅行者を捉えられずに閑散としている宿の差が顕著です。好調な地域は引き続き活況を維持してもらうよう頑張っていただき、それに対してわれわれも成長支援等でサポートしていく所存ですが、現状としては、まだ状況が厳しい分野・地域の状況把握と分析をより丁寧に行う必要があると感じています。

中堅・中小こそ率先して賃上げを

――では、そうした諸相混在する中で、関東経済産業局としてはどのような施策を展開しているのか、「伴走支援」のような従来からの継続支援も含めて、代表的な手立てを教えいただけますか。

佐合 企業の本質的な課題への対応に向けて支援策等を紹介する「伴走支援」については、引き続き、中小企業基盤整備機構等の支援機関と連携して実施しています。
 
 当局の政策の方向性は、さらなる成長を促す、苦しいところを支援する、の二つに大別されます。前者、すなわち好況な企業の活力を維持・発展させるためには「大規模成長投資補助金」が整備されています。令和6年度補正でも1400億円ほど手当てされましたので、これを中堅・中小企業には使ってもらい、適切な賃上げにつなげていただきたいです。それがひいては地域における消費を促し、地域経済の活性化に資することになります。そういう意味では、地域経済循環の推進力となる中堅・中小企業にこそ、率先して賃上げに取り組んでもらいたいと思います。

 また、中小企業庁では売上高100億円を目指す成長志向型の中小企業に対し、大胆な設備投資を支援する「中小企業成長加速化補助金」も用意しています。大規模成長投資補助金は投資額10億円以上を対象としていますが、中小企業にとって、この規模の投資はなかなかハードルが高いのが現状です。加速化補助金は投資額1億円以上からサポートできる内容となっているので、ぜひ活用いただくことを期待しています。

 それ以外にも、中小企業のIT導入、販路開拓、事業承継等の支援を複数年にわたって支援する中小企業生産性革命推進事業を継続的に実施していますので、それぞれの企業の規模に合わせて有効活用してもらえればと思います。

――ではもう一つの方向である、苦しいところへの支援策についてはいかがでしょうか。

佐合 ここでの主要な眼目は、価格転嫁対策やパートナーシップ構築宣言等を含めた取引環境の整備だと捉えています。われわれが取引環境に関して集計したアンケートの結果を見ると、従前よりも価格交渉しやすくなったという回答が増えてはいるのですが、本当に苦しい事業者はアンケートに協力する余裕も無いであろうことを鑑みると、なかなか回答結果を手放しでは喜べません。実際、個々の経営者の話を聞くと、十分な転嫁は出来ていないとお答えになる方も多くいらっしゃいます。

 アンケート結果を見ても、1次下請から末端までの階層構造のうち、1~3次のような上位間では価格転嫁対策が進んでいるものの、下層になるほど転嫁ができていないという声が多数を占めています。取引適正化・転嫁対策には生産性を向上させるなど個社が努力していける部分と、個社では対応が困難な、商慣行の是正といった部分があると考えています。後者に関し埼玉県では大野元裕知事が率先して頑張っていただいているので、われわれも熱心な自治体と連携して取引環境の整備を進めていきたいと考えています。〝下請Gメン〟こと取引調査員も2024年度は前年に比べさらに増員したので、適切に現場の状況を把握し、制度の運用・執行を強化していくつもりです。

(提供:関東経済産業局)
(提供:関東経済産業局)

20年ぶり、下請法の改正へ

――下請法について、20年ぶりの改正を目指し2月下旬現在、今国会での法案提出を目指して検討が進められているとのことですが

佐合 はい、これまでは〝資本金区分と取引類型〟という定義で法の適用可否を決めていたのですが、改正案では適用基準に従業員数を加え、資本金が小さくても従業員数が多く交渉力が高いと思われる中小企業と、そうでない中小企業との取引も適用対象とする方向です。また、これまで下請関係としていなかった荷主と運送事業者も対象とし、事業所管省庁が同法上問題のある行為を指導・助言できるように改正することも考えています。法案提出、国会審議はこれからなのでさまざまな議論が行われると思いますが、この改正案が成立し、適切に施行されれば、商慣行の改善に大きく資するものと期待されています。なお、〝下請〟という呼称も見直すべきではないかとの議論も出ています。

 また、内閣府と公正取引委員会において、2023年11月に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が作成されました。従来、労務費の転嫁について交渉すると、人件費は経営者の責任であるとして、なかなか転嫁に応じてもらえなかったのですが、同指針によって労務費も転嫁できることが明示されました。

――なるほど、大きな効果が期待されますね。

佐合 実は、肝心の指針の存在がまだあまり認知されていないようなので、今後はわれわれも、より周知に力を入れる方針です。実際にアンケートの回答を見ても、こうした種々の転嫁対策の内容を知っている企業の方が、知らない企業よりも「転嫁対策が上手くいっている」との回答が多く、施策の認知度と転嫁対策には一定の相関関係が見られています。

――お話を聞くと、取引慣行の改善には下請側の経営層の意識も重要であるように思われます。労務費は交渉の対象とならない・すべきではないという従来型の意識の固定化が多分に感じられます。

佐合 そうですね、値上げを強く言い出さないことが、ある意味で日本の企業風土の美徳として捉えられていた向きもあろうかと思います。他方でやはりビジネスですので、人件費も含めて適正な価値には適正な対価が払われるという基本的な構造は遵守されるべきで、それが健全な経済活動の基盤だと思っています。また発注側こそ、こうした指針の存在などを率先して周知し、取引慣行の適正化に努めてもらいたいですね。受発注双方の意識と行動の変革によって、より良い商慣行が確立できると言えるでしょう。