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運輸と観光で九州の元気を創ります/九州運輸局長インタビュー

ポスト・コロナの主役「地域」に見る新たな施策

かわはらばた とおる/昭和41年8月3日生まれ。福岡県・鹿児島県出身。東京大学経済学部卒業。平成2年運輸省入省。 24年国土交通省港湾局港湾経済課長、26年航空局交通管制企画課長、28年独立行政法人自動車技術総合機構理事、30年国土交通省自動車局総 務課長、31年航空局交通管制部長、令和2年7月中国運輸局長、令和3年7月より現職。
かわはらばた とおる/昭和41年8月3日生まれ。福岡県・鹿児島県出身。東京大学経済学部卒業。平成2年運輸省入省。 24年国土交通省港湾局港湾経済課長、26年航空局交通管制企画課長、28年独立行政法人自動車技術総合機構理事、30年国土交通省自動車局総 務課長、31年航空局交通管制部長、令和2年7月中国運輸局長、令和3年7月より現職。

 コロナ禍による人の移動の制限により、約2年半にわたり大きな制約を受けてきた運輸・観光業。2022年5月から、ようやくそれらの制限が緩和され、6月からは本格的に海外からの観光客の受け入れも始まりつつある。ポスト・コロナを見据えたインバウンドの再開に向け、どのような施策を講じるのか。また、疲弊している運輸業界、とりわけ問題を抱える地域交通の現状を俯瞰しつつ、地域経済の活性化を見据えた持続可能な地域公共交通の在り方や新たな取り組みについて、河原畑運輸局長(当時)に話を聞いた。

国土交通省九州運輸局長
河原畑 徹


――まず、九州の運輸関連における新型コロナウイルス感染症拡大の影響について、俯瞰してください。

河原畑 コロナ禍では約2年半の間、感染拡大を抑えるために人流が抑制されてきたことにより、運輸・観光業の双方で、甚大な影響が出ました。

 運輸面では、旅客の運送収入が大きく落ち込みました。日常利用の地域鉄道、乗合バス、タクシーなどは、コロナ禍以前の2019年に比べ、20年、21年は、年間で3割減少しました。

 移動距離が長い高速バスは、19年との比較で、20年は5割、21年は6割の減少。さらに、観光とのつながりが強い貸切バスも、6割近くの減収となりました。

 他方、フェリーは、輸送人員は減少したものの、運送収入は貨物輸送分が下支えし、他の輸送モードと比較すると大きな落ち込みとはなりませんでした。

――コロナ禍では人が外出できない分、ECなどによる荷物が急増し、物流需要は増加しているとも考えられます。しかし、需要の高まりは、同時に、運輸・物流業界が従前から抱えている問題を顕在化させたのではありませんか。

河原畑 この業界はドライバー不足や高齢化などの問題に直面していることから、まずは労働条件を改善し、人手不足を解消することが急務となっています。特にトラック輸送では、九州は大消費地である関東・関西までの距離が遠いため、長時間労働を改善するハードルが高くなります。取引環境の適正化や労働時間の改善は、荷主の理解と協力が不可欠で、トラック事業者だけで解決できる問題ではありません。当局も、貨物自動車運送事業法の改正による標準的な運賃の普及について経済団体に協力を要請するなど、物流の持続性の確保に取り組んでいるところです。

――人手不足などを解消するための具体策はありますか。

河原畑 トラックへの依存度を抑え、船や鉄道などの代替輸送、いわゆるモーダルシフトがあります。

 九州は、長距離フェリーが発達しています。例えば、片道300㎞以上の場合、現在、全国9社12航路のうち、7割にあたる6社9航路が九州発着です。

 折しもドライバー不足や脱炭素化、いわゆるカーボンニュートラルといった社会問題が浮上し、海上と陸上輸送を組み合わせる手法として、フェリーにはその一翼を担うことが期待されているのです。

――なるほど。近ごろ、長距離フェリーのリプレイスが盛んに行われていると聞きますが、モーダルシフトの推進が背景にあったのですね。

河原畑 はい。そのことに加え、多くの船は老朽化が進み、同時に、輸送能力の増強や省エネ化などの市場ニーズにも応える必要があります。

 現在、就航中の長距離フェリー20隻の内、18隻が2023年度までにリプレイスを完了する予定です。コロナ禍の3密回避や、若者の需要を掘り起こす一環として、個室を増やすなどの改良や船内のバリアフリー化も進んでいます。

インバウンドの新たな市場と地域密着型ツーリズムを開発

――運輸局のもう一つの柱、観光事業についてお聞きします。まず、コロナ禍による影響はどのようなものでしたか。

河原畑 インバウンドの宿泊者数はほとんど消失しました。日本人の宿泊についても、21年の九州域内における宿泊者数は、19年と比べ、34・8%減少しました。中でも、福岡県はビジネス需要が低減し、4割の減少です。全体として大変厳しい状況でした。

――これからコロナ禍からの反転攻勢が始まるかと思います。観光再開に向けた取り組みを教えてください。

河原畑 九州では、新たな観光サービスの創出や観光地の高付加価値化を図り、リピーターや長期滞在者を増やす計画です。

 特に力を入れていきたいことの一つは、ユニバーサルツーリズムです。これは、年齢や障がいの有無にかかわらず、誰もが参加できる旅行のことをいいます。当局では、域内の各県にある「バリアフリーツアーセンター」のネットワーク化と情報の共有化を図るために、意見交換を始めています。さらに、22年度に「どこでも車いす」という実証事業も行います。空港や駅で借りた車いすやベビーカーを域内の別の場所でも返却できるようにする取り組みです。たとえば、博多駅で借り、鹿児島中央駅に返却するといった具合です。これにより、サポートが必要な旅行者の利便性を高め、旅行先として九州が選ばれるための環境を整備します。

 もう一つはサステナブルツーリズム。訪問客を受け入れる側の住民と観光客が協力し、地域の文化、歴史、環境などを体験しながら、持続可能性を意識した地域づくりに貢献しようという取り組みです。

――これは地域性豊かなツーリズムですね。さて、水際対策が緩和されつつありますが、インバウンドの再開に向けた施策を教えてください。

河原畑 これまで九州へのインバウンドは、約8割が韓国、中国、台湾など、東アジアからでした。今後は、市場の多様性という観点からも、欧米豪からの訪問客を増やしたいと考えています。彼らは、比較的滞在日数が長いので、旅行消費額の増大のためにも、なるべく多くの国・地域から九州に来ていただきたいですね。

 さらに、インバウンド向けに、多言語化への対応、キャッシュレス決済導入の推進、無料Wi-Fiなど受入環境を整えていきます。

――観光の復活や人流の活発化が予想される中で、9月に西九州新幹線が開業します。その意義や期待される効果などについて、教えてください。

河原畑 西九州新幹線の開業により、博多~長崎間の所要時間は、30分短縮され、約1時間20分となります。

 今回の開業は、佐賀県・長崎県の運行エリアのみならず、周辺地域の活性化や観光振興に寄与するきっかけとなることは間違いありません。開業ブームで終わらせず、継続性を考え、地域の皆さまには、多くの魅力的な観光資源をさらに磨き上げていただきたいですし、そのような取り組みを九州運輸局としても応援していきます。

――新幹線開業の一方で、中山間部や離島などの公共交通に課題があります。1人1人の地域住民や旅行者のニーズに応じた移動サービスが新たな地域公共交通として地元に根付いてきたという印象があります。

河原畑 域内の次世代移動サービスについては、AIオンデマンドバスとグリーンスローモビリティの2種類があります。前者は、小型車で、時刻表や決められた路線で運行されるのではなく、利用者がスマートフォンのアプリを使って予約し、その予約状況に応じて運行します。

 一方、グリーンスローモビリティは、電動で、環境への負荷が少ないのが特長です。時速20㎞未満と、決して速くはありませんが、小型で小回りが利くことから、狭い路地でも走行が可能です。高齢化や過疎化への対応とともに、観光への活用にも応用できます。これらの移動手段は、地域それぞれの実情やニーズに応じて、ますます重要になるのではないでしょうか。

――最後に、九州運輸局が掲げているキャッチフレーズ、「運輸と観光で九州の元気を創ります」の実現に向けた取り組みをお聞かせください。

河原畑 当局のキャッチフレーズとロゴマークは、2014年に作成しました。ロゴは九州の各県を色分けし、それぞれの県の持つイメージを表しています。たとえば、大分の緑は、「カボスと自然」を、熊本の赤は「火の国」といった具合です。ロゴは組織の一体感を醸成することや、コロナ禍で、疲弊している方を元気づけ、職場を盛り上げるために活用しています。

 また、22年3月に「国土交通省九州運輸・観光クリエーター」という制度を創設しました。外部の方の協力を仰ぎ、第三者の視点で九州の運輸・観光の新たな魅力を創造し、積極的に情報発信を行うなどの役割を担っていただこうというものです。皆さまのお力をお借りしながら、運輸・観光の元気につながるよう、さまざまな施策に取り組みたいと考えています。
                                         (月刊『時評』2022年7月号掲載)