
2026/05/18
このように生成AIの利活用が急速に進み、同時に課題も明らかになってきた状況を踏まえ、総務省は昨年1月に「自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループ」(WG)を立ち上げ、主に生成AIの具体的な利活用の方策や留意事項等について幅広く議論を展開しました。その際、生成AIを利活用している自治体の事例を検証したところ、傾向としてこれら先進自治体は、活用を促進するための取り組みを行いつつ、リスク対策を講じている点もあることが明らかとなりました。
例えば神戸市では、活用促進のため、職員向けにプロンプト事例集を作成・公表する一方、個人情報の取り扱いに対する市民の不安解消に向けて利用上のルール整理を行っています。また大分県別府市では、利用促進のハードルとならないよう、利用上の注意点を必要最小限にとどめつつも、ハルシネーション対策のため、利用者が生成AIの回答内容を必ず確認するよう求めています。このように先進自治体では活用促進とリスク対策を、表裏で進めている状況が見て取れます。
また香川県では、庁内の規程やQ&Aをあらかじめデータベースとして用意し、ChatGPTはこれらのデータベースを参照した上で回答文を作成する仕組みを構築しました。こうした仕組み、RAG(Retrieval-Augmented Generation =検索拡張生成)の活用により、精度の高い内容を得られるようになったとのことです。今後はこうした利便性や安全性が確保されたモデルが確立されると、他の自治体にも波及していくことが期待されます。
以上のような先行事例を踏まえ、WGは昨年7月に報告書を取りまとめました。報告書では、「基本的な考え方及び利用方法」として、生成AIは、人間の知識やスキルを必要とする作業が代替可能であるため、飛躍的な業務効率化が期待されることや、正確性への懸念等への対応策として、利用目的に応じて求められる正確性の水準が異なることを意識し、生成物を人が必ず確認するルールを設けることなど実践的な考え方が示されました。また、部局間で共通の汎用的な利用方法はもとより、RAGの活用により生成AIの出力結果の精度を向上させた事例や、個別業務に特化した活用事例についても取りまとめられ、専門人材の不在やベテラン職員の退職によるノウハウ不足を補うことへの期待が示されました。
他方、利活用にあたっては、ハルシネーションなどさまざまなリスクも存在することから、留意事項として、ガバナンス確保のための体制構築、要機密情報の取り扱い、人材育成についての考え方が示されました。
AI活用・導入ガイドブックを改訂
総務省では、WG報告書を受けて、2025年末に「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」を改訂し、生成AIに特化した内容について、新たに柱建てを設けて整理するとともに、各地方自治体が作成する「職員向け生成AI利用システムガイドライン」のひな型を別添として提示しました。
改訂版では、WGでの議論を踏まえ、生成AIの利活用により飛躍的な業務効率化が期待されることを、自治体における利活用事例とともに示す一方で、正確性への懸念に対する具体的な対応策・考え方や、導入にあたっての留意事項を具体的に記述しています。
まず、利活用事例としては、部局共通の汎用的な利用方法として、文字起こし、議事録の作成、文章要約等といった利用が多く見られており、生成AIを導入済みの自治体では、こうした利用により一定の定量的な効果が得られていることを示しています。また、生成AIの出力結果の精度を上げる観点から、必要なセキュリティ対策を講じつつ、自治体がこれまで蓄積してきた業務関連データを生成AIが参照しながら回答する仕組みとしてRAGを紹介し、庁内向けの文書、マニュアル等を生成AIに学習させることで、旅費事務や会計事務といった庁内事務において有効に活用されている事例や、福祉、税など特定の施策分野に特化して利用している事例も紹介しています。
次に、生成物の正確性への懸念等に対する考え方として、生成AIの利用目的に応じて求められる正確性の水準が異なることを意識し、生成物を人が確認するルールを設けることが重要であるとしています。さらに、チャットボットのように、住民自身が生成AIに情報を入力し、その出力結果を利用する場合には、そのアウトプットが生成AIによるものであり、誤りが含まれる可能性があることを明示しつつ、回答を作成する上で参照する情報をHPやFAQ等の情報に限定するほか、生成AIの出力結果とともに参考としたHPのURLを示して利用者に確認を促すなど細心の注意が払われている事例を紹介しています。
また、導入にあたっての留意事項を3点掲げています。1点目として、「ガバナンス確保のための体制構築」を挙げ、国において各府省庁にAIの利活用・リスク管理における責任者であるAI統括責任者(CAIO)を設置し、AIの利活用・リスク管理のガバナンス体制を明確化していることを紹介した上で、地方自治体においてもAIの利活用・リスク管理における責任者を明確にする必要があるとしています。また、CAIOのマネジメントを専門的な知見から補佐する人材(CAIO補佐官)について、単独での人材確保が困難な場合には、市区町村による共同設置や都道府県から市区町村への専門人材の派遣といった選択肢も示しています。
2点目として、「要機密情報の取扱い」を挙げ、「地方自治体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を踏まえた上で、生成AI特有の配慮事項として、入力した要機密情報を学習させない仕組み(オプトアウトの徹底)が重要としています。その上で、個人情報の取り扱いに関する地方自治体の対応として、どの業務で、どのような個人情報を入力するのか、その結果として、どのように住民サービスの質の向上につながるのかを、丁寧に説明していく姿勢が求められることや、個人情報の取り扱いに係るリスクを適切に管理しながら業務効率化を図るために、技術の進展や国の検討状況を踏まえ、自団体の情報セキュリティポリシーの見直しを含めた対応を検討することなどを求めています。
3点目として、「人材育成・リテラシー向上の取組」を挙げ、専門人材と一般職員の橋渡しを行うDX推進リーダーの内部育成が重要であるとし、導入後には実際に利用する職員を増やすことが重要であり、即時利用可能なプロンプト集、職員のレベル別の研修などに取り組むことが有効であるとしています。小規模自治体においても、職員の利用を普及させるため、無償の地域情報化アドバイザーを活用したり、サービス提供事業者による研修を受講したり、グループチャットで気軽な問い合わせの場を設定したりするなど、導入後にもさまざまな取り組みを行っており、こうした事例も併せて紹介しています。
さらに、各地方自治体が作成する「職員向け生成AI利用ガイドライン」のひな形として、利用にあたって職員が遵守すべき事項や、仮に出力結果に偏見や差別を含むといった生成AI特有のリスクケースが発生した場合、重要度・影響の程度等を踏まえた取るべき対応を示しています。生成AIの利活用は特定の部局のみならず、幅広い職員に汎用的な利用が想定されることから、既に生成AIを導入済みでガイドラインを未策定の団体は、当該ひな形を参考に職員向けのガイドラインを策定していただきたいと考えています。
今後の展望
生成AIの関連技術は日々急速に発展しており、地方自治体においてもさまざまな場面で利用が拡大しつつあります。導入当初は、あいさつ文案の作成、議事録の要約など汎用的利用に限られていましたが、最近では、RAGの活用により業務に必要な情報を参照した上で回答を作成することが可能となり、個別業務に特化した利用も広がりつつあります。また、こうした生成AIの出力結果を職員が確認した上で業務支援に活用する事例のほか、住民からの問い合わせに対する一次対応について、チャットボット等において生成AIが自動で行う事例も生まれています。
さらに、出入力データについて、主流であるテキストデータ(文字情報)に加えて、音声データの利活用が普及してきたことから、住民からの電話に対する問い合わせ対応や、住民への訪問相談記録の作成など利用シーンも格段に広がってきています。
今後、これまで経験したことがない人口減少社会の到来や、これに伴う人的リソースの大幅な減少を見据えて、AIの利活用による人的リソースの補完には大きな期待が寄せられています。定型的な業務や事務作業のみならず、企画立案や対人業務、創意工夫を要する業務についても業務支援を得られるようになってきています。
総務省としても国の動向や地方自治体における最新の利活用事例など適時適切に情報収集を行い、周知を図るなど引き続き地方自治体の取り組みを支援してまいります。
(月刊『時評』2026年4月号掲載)