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地方自治体におけるAIの利活用について/前・総務省自治行政局行政経営支援室長(併)地域DX推進室長 村上 仰志氏

むらかみ たかし/昭和55年3月10日生まれ、山梨県出身。平成14年総務省入省。内閣官房地域活性化統合事務局、総務省自治行政局行政経営支援室、同市町村課、同公務員課等を経て、30年茨城県総務部長、令和4年内閣府特命担当大臣秘書官(地方創生担当)、5年総務省大臣官房広報室長、7年7月自治行政局行政経営支援室長(併)地域DX推進室長、令和8年4月より復興庁統括官付参事官。
むらかみ たかし/昭和55年3月10日生まれ、山梨県出身。平成14年総務省入省。内閣官房地域活性化統合事務局、総務省自治行政局行政経営支援室、同市町村課、同公務員課等を経て、30年茨城県総務部長、令和4年内閣府特命担当大臣秘書官(地方創生担当)、5年総務省大臣官房広報室長、7年7月自治行政局行政経営支援室長(併)地域DX推進室長、令和8年4月より復興庁統括官付参事官。

 行政機構におけるAIの利活用が最も求められるのは、地域住民に日々接し、業務量が多様化する一方で職員数の減少に直面する地方自治体であろう。ことに生成AIの急速な発展は、省人化や効率化等、業務改善に大きく資する一方、留意すべき課題も少なくない。総務省は自治体に対しガイドブックを改定する等、柔軟な支援を打ち出している。自治体における現在、そして今後のAI利活用の動向について、村上室長(当時)に語ってもらった。



自治体職員数、団塊ジュニア定年後は

 私が所属する行政経営支援室は地方行革を担当しており、かつては「集中改革プラン」と称して、各地方自治体ごとに定員管理等について数値目標を設定していただき、これに基づき職員数の削減を推し進めてきたこともありました。

 しかし現在は、急速な人口減の影響もあって当時と大きく様相が異なり、ご案内の通り多くの自治体が職員不足に悩んでいるという状況です。人手が少ない中でどのような形で業務改革をして、持続可能な形で行政サービスを提供できるかという対応を迫られるようになりました。実際のところ地方公務員の年齢構成はいわゆる〝団塊ジュニア〟世代が多く、2040年ごろには同世代が退職する一方、採用対象の主要層である20代前半の世代は団塊ジュニア時代の約3分の1にとどまる見通しです。つまり、足下の人手不足感はあと10年余りでより深刻になるということです。

 他方で、自治体に対する行政需要は、多様化・高度化の一途をたどっています。空き家対策や地域交通の維持など人口減への対応、公共施設へのカーボンニュートラル推進など社会環境の変化への対応、そのほかヤングケアラー問題や孤独・孤立対策、インフラメンテナンスなど、新たな行政事務が累増しています。

 行政事務の効率化を図る上で欠かせないのがデジタル化(DX)の推進です。一例として、人口約7万人、職員390名の大阪府泉大津市における事務分類と業務量を分析すると、申請受け付け・入力・確認作業等の事務作業が全体の約半分を占め、対照的に相談・訪問・事業計画などの人的事務は2割程度でした。こうした申請受け付け・入力・確認など定型的な事務作業は、デジタルを活用することによって省力・省人化が期待されます。

 例えば、住民との接点であるフロントヤードを、「対面・紙」をベースとした従来型の窓口から脱却し、オンライン申請をはじめ、書かない窓口、リモート窓口など多様なチャネルを活用し、バックヤードの事務とデータ連携した上で、申請受け付けだけでなく後続する事務も含め全体最適を図ることで、住民の利便性の向上だけでなく、行政事務の効率化を図ることが可能となります。

 また、25年度末に各地方自治体における基幹業務システムの標準準拠システムへの移行期限が到来し、バックヤードの基盤も整いつつあることから、今後はシステム間のデータ連携がスムーズにできるようになれば、職員による手入力の手間を省くなどさらなる事務の効率化が期待されます。

 DXにより事務負担が軽減され、新たな人的リソースを生み出すことによって、きめ細かな相談業務やアウトリーチ、創意工夫を要する企画立案や意思決定など、職員自らが対応することが求められる業務に注力することができるようになります。

従来AIで一定の業務改善を実現

 このようにDXによる業務改革が進展していく中で、生成AIを筆頭に急速に技術が進歩しているAIについて、地方自治体においてどのように利活用し、業務改革を推進していくか、今後の大きなテーマになってくることが見込まれます。2025年5月、AI法こと「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が成立し、同9月に全面施行されました。同法に基づき年末に閣議決定されたAI基本計画において「資源制約が深刻化する中でも持続可能に行政サービスを提供しなければならない。これらの課題を克服するために地方自治体が積極的にAIを導入できる環境を整備する」ことや「地域におけるAI利活用を活性化させるためにも、優良なユースケースの横展開など、地方自治体におけるAIの適正な利活用を促進する」ことなどが盛り込まれました。

 生成AIが急伸する以前から、総務省では各地方自治体における従来型AIおよびRPA(robotic process automation =人間が行ってきた定型的なパソコン操作をソフトウェアのロボットにより自動化するもの)の導入状況を定期的にリサーチしてきました。直近24年末の調査では全地方自治体のおよそ3分の2が、各種AIやRPAを導入しています。

 従来型AIの用途を見ると、マッチング機能による保育所入所調整、チャットボットによる住民問い合わせ対応や庁内ヘルプデスク対応、音声認識による会議録作成や多言語翻訳、画像・動画認識による道路損害検出や住宅など固定資産調査、等々です。

 その結果、議事録作成事務や申請書等の読み取り作業等において、職員の事務作業時間の大幅な削減効果が見られるとともに、住民サービスの面からも、チャットボット導入で閉庁時間帯での問い合わせ対応が可能になったり、マッチングによって保育所入所の申請受理から結果通知までの期間を短縮できるなどの効果が得られています。

生成AI利活用、成果と課題

 総務省では、2020年に「自治体DX推進計画」、21年には「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」を取りまとめるなど、地方自治体におけるAIやRPAの活用を推進してきましたが、今般の生成AIの急速な進化と広がりを踏まえ、さらなる対応が必要となってきました。

 23年から生成AIに特化した調査を始めたところ、翌24年調査までの1年間で自治体の生成AI導入が急増していることが分かりました。直近の動向では、都道府県で87%、指定都市で90%、その他の市区町村で30%という具合に、大規模自治体を中心にその導入が進んでいます。

 具体的な利活用の状況を見ると、「あいさつ文の作成」「議事録の要約」「企画書案の作成」「メール文案の作成」等が高順位に並んでいます。概して特定の部署だけが生成AIを活用しているのではなく、汎用的な使い方をされていることが窺えます。では導入による効果はどうか。活用事例の多い「議事録の要約」では、実に1000時間を超える削減効果が見られたほか、企画書案・計画書案の作成、議会の想定問答の作成等、大幅に事務が効率化されています。

 これら生成AI導入が急速に広まった理由としては、こうした導入効果が得られることのほか、導入コストや年間のランニングコストがいずれも100万円以下の団体が大半を占めていること、調達等が比較的手軽な「約款型外部サービスによる利用」の契約方法が多いこと、個別カスタマイズをしていない場合が多く早期に利用できること等が考えられます。

 一方、生成AI導入と利活用に向けた課題は何か。自治体からのアンケート調査結果では、「取り組む人材がいない又は不足している」「生成物の正確性への懸念がある」「導入効果が不明」等が上位を占めました。市区町村を中心にまだ導入に至らない自治体においては、これらの点がネックになっているものと想定されます。

 また、調査の結果、生成AIを「導入済み」の団体においても職員向けガイドラインを「未策定」の団体が残っている状況が明らかになりました。手軽に生成AIを利用できるからこそ多くの部署・職員で使われているわけですが、それ故に職員向けの利用ガイドラインの策定が求められます。