お問い合わせはこちら

広域リージョン連携と持続可能な地方自治/総務省自治行政局行政課長 植田昌也氏

課題分析に向け10分野を抽出

 このような状況を背景に、同研究会では、課題分析のために、介護保険、国民健康保険、老人福祉施設、保育、小中学校教育、道路、上下水道、鳥獣被害対策、地球温暖化対策、消費生活相談の10の行政分野を取り上げました。つまり、地方自治法という一般法からの観点ではなく、霞が関の各省庁が担っている個別法の分野に関して、個々の市町村においてどのような課題が生じているのか詳しくヒアリングし、業務プロセスレベルまで落とし込んで議論した、というのがこの研究会の特色です。各省庁も各市町村の各部局も、それぞれの所管の業務のみでは、隣接分野も含めた業務プロセス全体の最適化にはつながりにくいだろう、との問題意識が出発点です。

 例えば25年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道破損に発する道路陥没事案も、下水道という個別業務の問題にとどまらずインフラ老朽化の対応や耐震等の補修が追い付かないという各分野共通の問題点が根底にあるわけで、その処方箋は主体や分野を超えた縦横の視点と、中長期のタイムスパンを意識して検討すべきだと考えています。ピックアップした10分野の検証結果を抽象化して、再度個別分野に適用すると、分野間連携の課題も可視化され、より俯瞰的な対応ができる可能性があります。

 今後、おそらく数年以上は継続的に議論していかないと人材不足という難問に対応できず、放置すると一層状況が悪化してしまうのではと危惧しています。10分野の所管省庁の課長等と議論しましたが、どこも似たような問題意識を抱えており、もはや各省庁が個別に頑張るだけでは難しい、省庁の枠を超えて一緒に考えていくべきとの認識が広がっていると感じました。研究会報告書では、今後の進め方として、①各都道府県が地域の状況を踏まえ市町村の検討を支援、②国・都道府県・市町村の役割分担の変更等の制度的見直し、という大きな二つの方向性を打ち出しています。国・都道府県・市町村が今それぞれ有している各種リソースを、最適な形で組み合わせていかないとこの難問は乗り越えられず、しかも不断の見直しが求められます。

 それ故、国も自治体も連携と協力をしながら議論を進めていく必要があります。その議論をベースに、本年1月に立ち上げられた第34次地方制度調査会で基本的な役割分担の考え方の見直しに向けた議論が行われることとなるでしょう。

広域化による共同処理、介護保険の場合

 では、同研究会が扱った10分野のうち、介護保険を例に、国・都道府県・市町村の役割分担に関する議論の内容を紹介します。

 一言で介護保険と申しても、計画策定から保険財政、要介護認定とサービス提供事業者の調整、介護予防の取り組み等、幅広い業務を市町村は担っています。例えば人口5万人のA市は介護保険を常勤8名、非常勤6名で担当しています。一見、人員が充足しているように思われますが、市が抱えている要介護者数、年間調査数は非常に多く、いずれも人口1500人規模のB村より、一人当たりの業務量が多い状況です。要介護(支援)認定者数は全国的に増加しており、2000年の制度開始時と比較して2・7倍となっています。要介護者一人一人の状況を把握し、その人に適したサービスを当てはめるという、きめ細かい対応が要求されますので、対象者が増えれば当然業務が累増することになります。

 効率化の手段として、広域化による共同処理が有効です。実際に人口計35万人の広域連合では、広域化のスケールメリットが生じており、専門知識を要するため不足しがちな認定調査員も、確保に支障は生じていません。こうした認定調査事務を共同処理しているのは全国で36件、171団体にとどまります。ただ、そもそも人手が足りないため、共同処理の枠組み構築について他団体と検討する余裕や、デジタルツールの導入を検討する余裕が無い自治体が多いのも確かです。

 この状況に対し国では、本年4月より厚生労働省において介護情報基盤の活用を開始するよう進めてきました。これは情報を集約し、介護サービス利用者、自治体、事業者、医療機関がともに閲覧できるプラットフォームを構成するものです。この基盤が軌道に乗れば、保険者である市町村と医療機関、被保険者、事業者がそれぞれプラットフォームでつながり、これまでの紙によるやりとりからデジタルのやりとりに移行できるということで、同システムは各方面から高い期待を寄せられています。

 もちろん、人が担っている介護認定をはじめ、他のさまざまな事務も引き続き共同処理やDXを進めていく必要があります。例えば介護サービスを提供する事業者に不適切事案が生じた場合、利用者との信頼構築のためにも行政による厳正な指導が求められるわけですが、現実として運営指導に振り分ける時間が限られ、指導の機会が少ないことから自治体職員にノウハウが蓄積されにくく、指導そのものも実施できない状況が見られます。また介護予防は、場所や団体など、地域のリソースの差が大きいため、なかなか共同処理が困難です。

 これに対し、中小規模の市町村で構成されている福岡県介護保険広域連合は、本部と生活圏ごとに設置した八つの支部で、これら介護保険事務のほぼ全てを共同処理しており、スケールメリットを発揮している事例として注目を集めています。認定審査会を88の合議体によって年間計1500回ほど実施し、人員確保もほぼ問題なく、年間100件ほど事業者に対し運営指導するためノウハウが蓄積されています。

第34次地方制度調査会の議論に期待

 このように自治体の事務が増えている一因として、2000年に地方分権一括法が施行されて以降、新たな市町村事務の創設や、都道府県から市町村への事務の移譲等により、福祉分野を中心に、市町村において継続的な処理が必要な事務の増大が見られるという側面があります。国の法改正により自治体の仕事が継続的に増えてきています。

 それに対し、地方自治法では共同処理制度の仕組みが設けられています。しかし、仕組みはあるものの実際に自治体でどこまで活用されているかは別の問題で、共同処理が特定の分野に偏っているとの指摘もありました。市町村側から他市町村や都道府県に対し、この事務は共同処理すべき、との提案をしてくれるのが望ましいのですが、そうした連携や執行の実現を図る人手が市町村ではなかなか割けないのが実情です。であれば国や都道府県など、提案を検討できるマンパワーのある側から、市町村の状況に応じて提案していくのが、必要な対応の姿ではないかと思われます。

 すでに消防や上水道などは、事務処理の実施主体の広域化を図る方向で、事務処理方法を規定する制度の見直しを図っています。具体的には都道府県が市町村業務の広域化を提案しやすくする法改正も行いました。個別分野であれば、広域化を促進するための都道府県の役割を明確化するのも有効な策だと思います。

 また、国民健康保険は、財政運営の主体を市町村から都道府県にする改革を行い、後期高齢者医療制度は、都道府県単位で市町村間の広域連合を設けることを、法律で義務付けました。いずれも市町村に密接に関わる業務ですが、個別の団体で扱うよりは都道府県または都道府県単位でまとめたほうが良いという考え方に基づくものです。こうした事例は、今後の広域化に向けて参考になると想定されます。

 例えば、体制に比して事務量が大きすぎる場合や、数年に一度程度しか処理しない事務などは、やはり広域連携や都道府県等による補完、民間リソースの活用も含めた検討が必要だと思われます。また企画立案は地域ごとに独自の意思決定が必要ですが、定型業務は他団体との共同処理も可能と考えられます。加えてデジタル技術を活用すれば、事務量自体の削減や、他団体と共同処理が可能となる業務フローの標準化につながるかもしれません。またデータを集約し、AIを活用した情報の整理・分析を行うことで専門人材の不在やベテラン職員の退職によるノウハウ不足を補うことも期待されます。そうなると住民と直接対面を要する業務に、今以上の人的リソースを投入することもできるでしょう。

 こうした各種方策を駆使した上でなお人材不足等の問題が解決できない場合は、より抜本的な役割分担の変更に係る議論が必要になると想定しています。

 本年1月19日に第34次地方制度調査会第1回総会が開催され、将来にわたり地域の特性に応じて持続可能かつ最適な形で行政サービスを行うため、国・都道府県・市町村間の役割分担、大都市地域における行政体制その他の必要な地方制度の在り方について議論するよう、高市総理から諮問をいただきました。人口シェアが高まる大都市、過疎化する地方や離島、これらを全て包括する地方制度が地域の暮らしを支えていますので、今後2年間かけて制度改革に向けた議論をしっかり行っていただきたいと思います。
                                                 (月刊『時評』2026年4月号掲載)