お問い合わせはこちら

UAVで被災地、公共施設の点検・調査を実現/中電技術コンサルタント株式会社

~令和3年度 i-Construction大賞受賞実証事業について~

あらき よしのり/昭和39年11月生まれ、山口県出身、山口大学大学院工学研究科建設工学専攻修了。平成元年中電技術コンサルタント株式会社入社、5年山口大学工学部助手、21年河川部グループ長、30年河川本部上席エグゼクティブエンジニアを経て、令和3年4月より現職。
あらき よしのり/昭和39年11月生まれ、山口県出身、山口大学大学院工学研究科建設工学専攻修了。平成元年中電技術コンサルタント株式会社入社、5年山口大学工学部助手、21年河川部グループ長、30年河川本部上席エグゼクティブエンジニアを経て、令和3年4月より現職。

 建設・土木分野の生産性向上に向けて国土交通省が推進する「i-Construction」。具体的な数値目標としては2025年度までに現場の生産性の2割向上を掲げている。目標達成に向けては、コンソーシアムの全国開催やICT 建設機械等認定制度の導入、さらにはICT 専門家の全国派遣といったことも進めているが、取り組みの認知、普及目的としてはじめたものに「i-Construction大賞」がある。
 今回、令和3年度i-Construction大賞(国土交通大臣賞)を受賞した中電技術コンサルタント株式会社の荒木上席執行役員に、受賞事業である「UAVの自律飛行による天然ダムおよび砂防関係施設の点検・調査」の概要から実際の取り組み、そして今後の可能性について話を聞いた。

中電技術コンサルタント株式会社
上席執行役員 先進技術センター長 兼 BIM/CIM プロジェクト室長
荒木 義則 氏

――気候変動の影響もあり、近年、自然災害が激甚化・頻発化しています。土木・建築分野をはじめ、さまざまな事業を展開する総合建設コンサルタントである貴社(中電技術コンサルタント株式会社)の事業や取り組みについてお聞かせください。

荒木 当社、中電技術コンサルタント株式会社は、中国電力の土木系・建築系の技術者が集まり、1965(昭和40)年に設立しました。主として土木・建築設備や発電設備の調査、計画、設計、工事監理を中心に、地域開発に関する調査や企画などを手掛け、これらに伴う情報システムの開発やコンサルティングなど幅広く事業を展開する総合建設コンサルタントになります。また当社は「技術を磨き、技術を競い、技術で選ばれる技術創造企業」をビジョンに掲げ、「磨く、競う、選ばれる」の三つのプロセスを循環させていくことで継続的に成長し、中国地域を基盤として広域へ展開する技術創造企業を目指しています。

 時代の変化に即応し、さまざまな事業を展開していますが、2021年4月には、社内の先進技術センターでDX(デジタルトランスフォーメーション)を建設業界に取り入れる「建設DX」に向けた取り組みをはじめるとともに、近年、激甚化・頻発化する自然災害への対応や国土交通省の推進するi-Construction、インフラDXなどへの対応、加えて電力グループで蓄積したさまざまな技術を他分野に展開するといった異なる複数の技術を組み合わせて新しい技術開発・技術連携にも取り組んでいます。そうした実証の一つとして、大規模な土砂災害現場においてUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)を活用した天然ダム(河道閉塞)、砂防関係施設の点検・調査を行ったところ、本事業に関心をいただき、令和3年度i-Construction 大賞(国土交通大臣賞)を受賞することができました。

令和3年度i-Construction 大賞(国土交通大臣賞)受賞事業について

令和3年度i-Construction大賞受賞記念撮影(左側:坪井社長、右側:荒木上席執行役員)
令和3年度i-Construction大賞受賞記念撮影(左側:坪井社長、右側:荒木上席執行役員)

――i-Construction 大賞は、国土交通省が〝建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」に係る優れた取組を表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介し、横展開することにより、i-Construction に係る取組を推進することを目的に平成29年に創設〟したものです。
 では今回、貴社が受賞された実証事業についてお聞かせください。


荒木 今回、当社が受賞した実証事業は「UAVの自律飛行による天然ダムおよび砂防関係施設の点検・調査」になります。まず取り組みの経緯・背景について触れておきます。2011年8月に発生した紀伊半島大水害は、紀伊半島全体に記録的な豪雨をもたらし、3000カ所以上で土砂災害が発生しました。

 特に深層崩壊と呼ばれる大規模な斜面崩壊が72カ所で発生し、そのうち17カ所では崩壊した土砂が河道をせき止める「河道閉塞」が発生。中でも今回実証実験を行った十津川村栗平地区では、最大規模(幅600m、長さ650m、高さ450m、発生土砂量2384万㎥)の河道閉塞が発生しています。栗平地区は、現在も国土交通省による防災工事が行われていますが、出水直後は危険なため、人が立ち入ることはできませんでした。

 また山奥にあって地形の起伏が急峻なため、現地まで整備されたアクセス道路もなく、河道沿いに仮設の砂利道を作ることで工事を進められるようになっています。そのため、ひとたび河川が増水すると仮設道路が流されてしまい、工事用車両が通れなくなることも日常茶飯事ですし、携帯電話が使えない地域であるなど、非常に厳しい環境といえます。このような場所での調査・点検は、UAVが有効な手段となりますが、現地は山奥にある急峻な地形であるため、目視によるUAV操作はできず、制御電波も届かないため、UAVを飛ばすことはできませんでした。

 そのため、操縦者から見えない場所までUAVを飛ばす目視外飛行(レベル3)の計画を立案し、航空局の許可を取得したうえで、実証実験を行うことを提案しました。現場は厳しい山岳地帯であり、出水により河道閉塞部から頻繁に土砂が流出し、流出土砂により河川内は危険が伴うことから、現地立ち入りの安全性を確保するため河道閉塞部から直線距離で下流約2㎞離れた場所をUAV離発着地点としました。UAV離発着地点は、川沿いの深い谷底のため、電波が山に遮られ、河道閉塞部までは電波が届かないなど通信環境問題も発生しましたが、撮影用とは別に中継用のUAVを用意し、2機のUAVを組み合わせた電波中継を行うことで通信が安定し、問題を解決することができました。

 実証実験は中継用UAVを離発着地点のほぼ真上に約300mの高さで空中停止させ、撮影用UAVを往復約6㎞のルートに沿って、15分間自律飛行をさせ、動画や静止画の撮影による自動点検を行いました。これまでもUAVを活用した点検・調査の事例はありましたが、防災やインフラ管理を目的としたレベル3飛行によるUAVの活用は全国初の試みとなりましたので、これによって今後、山岳地域での活動範囲を大幅に広げることができるようになるのではないでしょうか。


――防災やインフラ管理を目的とした取り組みにレベル3飛行によるUAV活用は全国初とのことですが、実証を行うに際し、苦労した点などがあればお聞かせください。

荒木 まずレベル3飛行に対する申請が必要になりますが、申請時に①飛行の経路設定の明確化、②使用するUAVの機能・性能の適合性の確認などが求められ、厳しい審査をクリアする必要がありました。

 また、それ以上に苦労したのが、2機のUAVを同時に飛行させて電波中継を行いますので、離陸から着陸までのすべての飛行経路において地上局システム(離発着場所)でUAVの状況を常に確認できる(通信が途切れない)ことが要求された点です。そこで、UAV2機の制御情報や映像情報が途切れないようにするために、撮影用UAVの飛行ルートと中継用UAVの位置関係を3次元的に把握し、最適な配置計画を立案。また予備実験を行い、すべての情報が途中で途切れないよう中継用UAVの位置を修正するなど、現場での調整と通信状態のチェックを行うことで対応しました。