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アフターコロナの観光政策/観光庁 田島聖一観光戦略課長

◆観光庁観光政策最前線

たじま せいいち/昭和47年9月22日生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。平成7年運輸省入省、25年国土交通省航空局航空戦略課国際企画室長、26年海事局総務課企画室長、群馬県警察本部警務部長、28年内閣法制局参事官(第二部)、令和2年国土交通省航空局航空ネットワーク部国際航空課長、本年1月より現職。
たじま せいいち/昭和47年9月22日生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。平成7年運輸省入省、25年国土交通省航空局航空戦略課国際企画室長、26年海事局総務課企画室長、群馬県警察本部警務部長、28年内閣法制局参事官(第二部)、令和2年国土交通省航空局航空ネットワーク部国際航空課長、本年1月より現職。

 ほぼ3年にわたるコロナ禍により、わが国の観光産業は甚大な影響を被った。コロナ禍以前は、積年のインバウンド(訪日外国人旅行者)推進政策の果実が実り着実に観光産業が活況を呈していただけに、今後はその回復と、ポストコロナへの新たな観光の形、とくにコロナ禍を経て変化した観光需要への対応が模索される。今回は令和4年版観光白書の内容をもとに、田島課長に現状分析と今後の方向性について語ってもらった。

観光庁 観光戦略課長
田島 聖一氏

主要産業に成長してきた日本の観光

 10月11日から、インバウンド個人旅行の再開など水際対策のさらなる緩和に加え、全国旅行支援が開始されました。長らく厳しい影響を受けてきた観光産業に、やっと希望の光が差し始めたものと期待しています。

 改めて振り返ると、観光産業は高齢・少子化人口減の進む日本において急速に主要産業へ成長してきた、と言えるでしょう。2019年の旅行消費額は全体で27・9兆円、そのうちインバウンド旅行消費額は4・8兆円でした。これは半導体等電子部品の輸出額約4兆円、自動車部品の同3・6兆円を上回る規模で、外貨獲得力は既に主要輸出品目にもひけを取りません。

 また家計調査によると、例えば定住人口が1人減ると約130万円の年間消費額が減少するとされていますが、この額を旅行者の消費に換算すると外国人旅行者8人分、国内旅行者(宿泊)23人分、国内旅行者(日帰り)75人分に当たります。つまり1人の人口減を、これら国内外からの旅行の活性化によってカバーできるという計算になります。このように観光は日本全体、とりわけ人口減が進む地方の豊かさのために欠くべからざる産業分野なのです。さらに、外国人が観光で訪れることにより、地域の方々が自分たちの地域の魅力を再発見できるなど、金額には替えられない価値も小さくありません。

 しかしコロナ禍により、観光産業は低迷を余儀なくされました。2021年のインバウンドは25万人でその消費額は1208億円、これは2019年比でそれぞれ実に99・2%、97・5%の減少となります。国内の宿泊および日帰りの旅行者も、2019年比で54%減少しました。日本人とインバウンドによる日本全体の旅行消費額も2019年比66・3%減の9・4兆円にとどまるなど、雇用を含め地域経済が被った影響は非常に深刻です。

 また今回のコロナ禍は、観光産業が抱える構造的課題も露呈させました。慢性的な人手不足に加え、もともと宿泊業の労働生産性、すなわち従業員1人当たりの付加価値額は全産業と比べて低く、コロナ禍の需要減により2020年度はさらに大きく低下しました。また観光産業は他産業と比べて、人材不足、費用不足、必要性に対する認識の希薄さ等々によりデジタル化への取り組みが遅れている、との指摘があります。

観光地再生・高付加価値化で地域の稼ぐ力を向上

 このため、観光産業の生産性向上・高付加価値化が、今後の大きな課題となります。そのためには、ハード面では観光地や宿泊施設のリノベーションなどによる質の向上、ソフト面では観光コンテンツの磨き上げが必要ですし、ハード、ソフトいずれにも関わることとして、デジタル化の推進も重要です。

 観光分野のデジタル実装については、オンライン予約などの旅行者側のデジタル化が進んできた一方で、宿泊施設や観光地域側の対応にはまだ努力や工夫の余地があります。例えば、キャッシュレス決済などの基本的な受入環境の一層の整備に加え、観光地の混雑状況をリアルタイムで示す〝快適度マップ〟などの広がりが望まれます。旅行者の立場から見ると、旅行中、現地での混雑を避けてより快適に過ごすため、あるいは予期せぬ魅力の発見につながるようなきっかけづくりのための情報収集には、デジタルによるサポートが有効です。観光地側にとっても、観光客の分散化を図り、著名な観光スポット以外の地域資源に誘引することで、面的な魅力の発信へと広げることが可能となります。

 また、地域の魅力を、どういう人たちへどのような見せ方をするのがより効果的か、データを活用して、地域が一体となってマーケティングしていくことも重要です。地元の観光地域づくり法人(DMO)等が中心となって、これまでの観光動態のデータを収集して分析し、人気が窺えるスポットにヒトや資金などの資源を集中投下することで、消費の拡大やリピーター増に成功している地域もあります。このような形で、観光地経営の高度化にもデジタル化は貢献します。

 こうしたことも含め、観光地全体での稼ぐ力の向上のためには、観光地の再生と高付加価値化を出発点に取り組みを進めていくことが重要です。地域の魅力と産業としての生産性の向上を進め、適正な対価の収受によって観光産業の収益増を図り、それを地域の方々に分配していただきたいと思います。そのことが観光従事者の方々の待遇改善、観光産業の担い手の確保と人手不足解消、そして地域の雇用増、所得増にもつながり、ひいては地元への愛着が高まることを通じて地域の観光の魅力もさらに向上していく、というような好循環の形成を目指していけるものと考えています。

  (資料:観光庁)
  (資料:観光庁)