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「交通空白」解消等に向けた取り組み/国土交通省 池光 崇氏

いけみつ たかし/昭和45年3月6日生まれ、徳島県出身。京都大学経済学部卒業。平成4年運輸省入省、25年国土交通省自動車局自動車情報課長、27年大臣官房広報課長、28年海事局内航課長、29年鉄道局幹線鉄道課長、令和元年総合政策局政策課長、2年大臣官房審議官(海事局、港湾局)、3年大臣官房審議官(観光庁)、5年大臣官房政策立案総括審議官、6年7月より現職。
いけみつ たかし/昭和45年3月6日生まれ、徳島県出身。京都大学経済学部卒業。平成4年運輸省入省、25年国土交通省自動車局自動車情報課長、27年大臣官房広報課長、28年海事局内航課長、29年鉄道局幹線鉄道課長、令和元年総合政策局政策課長、2年大臣官房審議官(海事局、港湾局)、3年大臣官房審議官(観光庁)、5年大臣官房政策立案総括審議官、6年7月より現職。

 地域交通の衰退によって生じる「交通空白」、その広がりがわが国の地域の暮らしや経済の存立を脅かしている。その解消に向け、官民が一体となり、本年度からの3年間を集中対策期間と位置付け多様な施策を展開しており、その成果が切に望まれる。今回、池光崇大臣官房公共交通政策審議官より、本課題の重要性・緊急性と対応の方向性について、詳細に語ってもらった。

大臣官房公共交通政策審議官 池光 崇氏



〝移動の足〟不足と〝時間貧困〟

 まず、地域交通を取り巻く現状からお話したいと思います。人口減少・少子高齢化の影響により、日本の総人口は2070年に約8700万人となり、生産年齢人口は同約4500万人まで減少する、とそれぞれ推計されています。むろんこの減少速度も、さらに加速化していく可能性が十分考えられ、担い手が減る一方で高齢化率が進むわが国を、いかに持続可能な社会としていくかが、分野を問わず対処すべき最重要の課題です。

 こうした状況において、地域交通も大きな環境変化に直面しています。高齢により運転免許を返納される件数は増加傾向にあり、特に高齢者の運転による人身事故が大きく報道された令和元年度は年間で、60万件の返納がありました。免許返納された高齢者は地域における移動手段が必要となる訳ですが、その確保が非常に困難となっています。故に運転免許を返納した後は高齢者が病院へ診察にもスーパーへ買い物にも行けない、そもそも地域の病院やスーパーも人口減少等により撤退・閉店が相次ぎ、ますます高齢者の暮らしが成り立たなくなっていく、こういう憂慮すべき状態が顕著になっています。外出頻度の減少は足腰の弱体化など、高齢者自身の健康状態にマイナスの影響が生じることは数字上でも明らかであり、それは医療・介護等、社会保障の負担増にもつながります。

 高齢者だけでなく、小中学校が統廃合され地域の学校が減少すると、児童・生徒の通学が非常に遠距離となることから、やはり公共交通機関が不可欠となります。また部活動も少子化により、特に野球やサッカー等の集団スポーツでは、複数校での合同部活動が一般化し、必然として部活が実施できる学校へ親御さんはもとより、その友人やご近所の誰かが協力し合ってお子さんを車で送迎するという光景を頻繁に目にするようになりました。

 以上のような状況が深刻化することで、例えば、自らのお子さまやご両親の移動を担うため、働ける時間を割いて部活や病院等への送迎で自らの時間を削らざるを得ず、可処分時間が減るいわゆる〝時間貧困〟という、移動のお困りごとの裏に存在する連鎖的・構造的問題をしっかり認識しておかなければなりません。さらに、家族等の送迎のため職場を離れる方を雇用する側もまた、ますます人手不足につながる、という果てしない悪循環を生み出します。しかも後期高齢者世代に差し掛かった団塊世代に比べ、次世代、次々世代はさらに人口が少なくなっていきますので、こうした病院への送迎などもいずれ個人では負担しきれなくなる段階が、そう遠くない時期に訪れることを想定する必要があります。

 従って公共交通の充実が切に望まれるわけですが、しかしながら、公共交通事業者の経営状況は概して厳しく、08~23年にかけての約15年間で路線バスは2万3000㎞超、鉄軌道は約630㎞が廃止となり、運営中のバス・鉄道事業者の7~8割が赤字経営です。またバス・タクシー分野における労働時間は全職種平均より長時間である一方、年間賃金は低い傾向にあること等を背景に運転手等の担い手不足が深刻化するなど、移動需要の拡大・増加に対して十分応えきれなくなっているのが現状です。

 各地方自治体の首長さんとお話しても、居住地域における不安事項のトップは、公共交通が減り車を運転できないと生活できない、という項目でした。地域社会の持続性を確保するには、まずは移動手段の問題を解決するところから始まる、と言っても過言ではありません。

「地域交通のリ・デザイン」

 このような状況を背景に、私たち国土交通省はどのような政策を展開してきたか。遡ると人口も増え、産業が右肩上がりで発展した高度経済成長時代は交通サービスの安定供給に向け、交通事業者の独占と内部補助の仕組みを採用していました。その後1980年代は民間活力と競争を通じた効率的かつ低廉、そして多様な交通サービスを提供する方向へ移行します。2002年のバス、タクシーなど需給調整規制の廃止などは、その方向性に沿って打ち出されたものです。

 他方、08年をピークに人口が減少局面を辿る中、民間の力のみでは特に地方部における持続可能な交通サービスの提供が難しくなっている状況を踏まえ、地域交通の確保に向け自治体を主体とした計画に基づき、地域が「望ましい交通ネットワーク」を追求する、という新しい仕組みを導入しました。

 具体的には、07年に制定された地域交通法(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律)に基づき、全ての自治体は「地域公共交通計画」作成の努力義務が規定されています。現在、全自治体1741に対し、25年9月末時点で策定された計画は1202件に上ります。同計画の作成にあたっては、地域の関係者から成る協議会において議論の上、決定されるというプロセスとなっており、いわば〝皆でつくる地域の足〟の取り組みを各地域で進めていくこととされています。

 次に、地域交通に係る現下の重要課題と取り組みをご紹介したいと思います。

 一つは23年から始まった、「地域交通のリ・デザイン」です。国は、地域の赤字路線の維持・確保のため補助金を投入してきていますが、これはやはり「対処療法」的な手法であり、「根治」にあたる抜本的対策ではありません。よって、そもそもの交通サービスの在り方から再構築していく必要があります。まさに、それが「地域交通のリ・デザイン」です。

 例えば、需要が減ってしまった地域では大型のバスを定時運行させ続ける必要はないのではないか、ならば需要に対応する形で小型のバスやタクシーの導入や、乗客のニーズが発生した時に随時ピックアップして目的地に向かうデマンド型運行を図る等々、さまざまな方策が考えられます。このように地域の状況に応じて交通の在り方をデザインしていくことが重要です。

『「交通空白」解消の推進』

 さらに24年からは、「交通空白」解消に向けた取り組みが始まりました。冒頭で述べましたように、遠からず親・子ども・住民間共助でも対応しきれない時代が到来します。そうなる前に、どのような手立てを事前に講じていくべきか、逆に講じておかないと地域社会の持続可能性が危うくなる、と言えるほど「交通空白」解消は喫緊の課題なのです。

 そこで24年より、国土交通大臣をヘッドとして「交通空白」解消本部を設置し、取り組みを開始しました。25年10月に誕生した高市内閣における「基本方針」においても「地方の「暮らし」と「安全」を守るため、・・・地域公共交通の維持に取り組む。」と明記されており、引き続き取り組みを強力に推進しているところです。

 まず、その内容は大きく2本の柱で構成されています。

 一つが、地域住民の皆さまの日々の生活を支える移動手段としての「生活の足」です。24年夏に全国の自治体に対し、何らかの「交通空白」解消ツールを導入しているかどうか全国の自治体にアンケートを取ったところ、全国自治体の約3分の1が全く未着手という状況だと明らかになりました。そこで地方運輸局や運輸支局を中心に、600超の首長訪問、1300超の自治体と事業者間の橋渡し等の伴走支援を行った結果、同年末にはほぼ全ての自治体で、公共/日本版ライドシェア、デマンド交通等の何らかの解消ツールを導入に目途をつける状況まで引き上げました。

 もう一つが「観光の足」です。25年には順調にいけば4000万人超と想定されるインバウンド(訪日外国人旅行者)に全国津々浦々を訪れていただくためにも、地域で移動の足となる2次交通の確保が欠かせません。これに対し、本部設置以降、各地で問題箇所と思われる地点をリストアップし、さらに主要交通結節点250カ所にて公共/日本版ライドシェアの導入、タクシーの利用環境改善などを図りました。

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