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転換期を迎えた日本の国土政策/国土交通省大臣官房審議官 藤田 昌邦氏

人口減少局面で目指す国土の在り方

 では現在、われわれはどのような観点から国土の在り方を考えているのか。

 基本的には、「小さな拠点を核とした地域」を最小単位に、それを内包した「地方の中核都市を核とした地域」を中単位、そしてこの二層目までを「地域生活圏」と定義しています。さらに「地域生活圏」を含めた、より広い都道府県を超える「広域圏」から成る三層構造の国土を目指していくのが望ましいのではないか、と考えています。

 この「広域圏」については、その構想を具体化するにあたり、「日本中央回廊」による効果を全国的に波及させていく必要があります。同回廊は、東京~大阪間のリニア中央新幹線の開業を中心に、新たなイノベーションの創造やダブルネットワークによるリダンダンシーの確保等の効果が期待されています。

 さらに前述した第3次国土形成計画の広域地方版である、次期「広域地方計画」を2026年夏を目途に決定すべく、現在策定中です。これは全国計画をさらにブロックごとにブレイクダウンして、それぞれの地域でどのように取り組みを進めていくのかが主眼となります。その際、重要なのはその地域の強みをどう発揮していくか、あるいは地域で住み続けるためにどう工夫していくか、という点です。その観点で全国をブロックに分け、ブロックごとに計画を作ってもらっています。

 次に「地域生活圏」に話を移します。14年に打ち出した「国土のグランドデザイン2050」においては「高次地方都市連合」の形成という構想を掲げましたが、その要諦は、地域でいろいろなこと(サービス等)を支えていこうとすると目途として30万人規模の人口が必要となる、しかし例えば島根県や鳥取県では県内人口規模1、2位の松江市や米子市でも30万人を確保できない場合がある、ならば両市を一体的なものとして捉え人口規模を確保するべきでは、ということを当時は考えました。ただ、松江と米子のように近隣にあって足して30万人以上を確保できるような地域が、全国にどれほどあるのかという問題点は残りました。

 一方で、例えば人口5万人以上程度の市に光を当てて考えてみると、どの県でも地域振興局のようなものが置かれ一つの拠点性を有していますが、このような地域を維持することができれば国土はどうなるのかと考えました。例えばこれを新潟県に当てはめて、地域振興局のある市から車で1時間以内に移動可能なエリアという基準で分析した場合、移動可能なエリアのカバー率は人口ベースで県内人口の99・8%に達します。国土の在り方という観点から国土全体を将来にわたってどのように維持していくかということを考えると、このような人口5万人程度の自治体が形成する地域を、今後人口が減ったとしても何とか維持していく工夫をすべきではないか、と考えました。

「地域生活圏」の形成を目指す

 そこでこれらの地域を持続的に維持していくための課題に対応すべく、私たちが進めているのが「地域生活圏」の形成です。これまでは官主導で、一つの自治体内で完結し、事業分野ごとに対応するというやり方が中心でしたが、これは、例えばコミュニティバスが当該自治体の外に出られず市町村境界を越えてすぐの主要駅にアクセスできない、などといった効率的なサービス提供を阻害する一因となってきました。また一方で、近年では自治体の財政・人的制約により、行政サービスが質・量ともに低下するという課題も顕在化しつつあります。

 これに対し、「地域生活圏」の取り組みは、民主導による官民連携、行政区域にとらわれない生活圏単位での対応、分野の垣根を越えた連携を特色とします。行政上の範囲と生活圏の範囲は必ずしも一致しない場合があるので、むしろ現実的な生活圏を基準に、そこで民間主体が地域の課題解決と経済性の両立を図ったり、地域全体で担い手を確保していく、という発想です。例えば交通輸送に福祉輸送を同乗させるなど、柔軟な分野横断的取り組みが既に始まっています。このような形で地域の関係者をつなげ、生活サービスの持続性を確保するのが「地域生活圏」の目指す姿となります。われわれの分析では、百貨店や映画館、大学などは確かに数十万規模の人口がないと立地されない傾向にありますが、例えば人口5万人未満でもかなりの種類のサービスが提供されています。またネットショッピングやブロードバンドで映画鑑賞ができるような昨今のデジタル技術の進展を踏まえると、何もすべてリアル(箱物)で確保しなくても、デジタル技術等も活用してニーズにあったサービスを効率的に提供すれば、人口規模が小さくても地域社会を維持していくことができるのではないか。このような発想から出てきたのが「地域生活圏」の取り組みです。

 実はすでに、各地で「地域生活圏」的な形態が萌芽しつつあります。例えば長野県伊那市では、大学・企業・行政から成るコンソーシアムが組まれ、その会長を企業OBの方が務めています。民間の発想、現場主義をもって、モバイルクリニック、ドローン物流、木材チップを使った地産地消エネルギー等、地域の課題解決に取り組んでいます。他方で、ランニングコストで赤字になるような事業はやらない、という方針を貫徹しています。

 また北海道厚真町では、ソーシャルビジネスをするベンチャー企業が、地域の困りごととそれを解決できる事業者等をデジタルでマッチングするビジネスをしており、それに魅力を感じた生活協同組合コープさっぽろが、全北海道にこの取り組みを進めていくべく連携しているところです。このビジネスはマッチング時に料金が発生する以外に、行政からの補助金はほぼ受けていません。

 また山形県川西町では、自治体に頼ることなく、全世帯加入のNPO法人を立ち上げ、そこで除雪や移動販売、農地を利用した都市との交流など、地域課題に優先順位を付けて解決に取り組んでいます。

民主体で地域を運営するという発想

 こうした「地域生活圏」のポイントを改めて整理しますと、公共性の高いサービスを行政主導で行うことが既に限界となりつつある今、地域づくりに貢献する意欲のある民間主体に可能な限りさまざまな活動やサービスを委ねるという、民主体の官民パートナーシップによる地域経営の発想、市町村界にとらわれず人々のくらし・営みに着目した方が便利で効率的という「地域生活圏」を単位とする発想、実行に向けては取り組み主体となる〝ローカルマネジメント法人〟の創出が不可欠であり育成が必須という発想、等々が必要であると考えています。

 また人、資金、情報等を外部から呼び込むために、二地域居住や関係人口、ふるさと納税の活用なども必要になるかもしれません。さらに、地域で共創戦略とも言うべきビジョンを、地域住民主体となってつくることと、それに基づき実行する主体を育成するため、いろいろな支援制度を活用できないか議論しているところです。

 この「地域生活圏」を国土政策の原単位として、官民の「共創」による持続可能な地域づくりを実践し全国に展開していく―――このような未来図を私たちは構想しています。今はWell-beingの向上、すなわち多様な価値観を持つ国民の物的・精神的豊かさの実現が社会の目標とされていますが、その実現のためにも、多種多様な地域が維持され、魅力を発揮することでその受け皿となることが期待されます。

(資料:国土交通省)
(資料:国土交通省)

 また、供給優先でも対応できた人口増加の時代とは異なり、人口減少社会は余剰生産の受け止め先がなくなるため、需要優先とならざるを得ないと思います。デジタル技術発展により、かなり正確な需要把握ができるようになった今、需要者目線での産業構造への転換も可能となってきていると考えますが、その実践の舞台は、需要が複雑に絡み合う大都市よりも、むしろ個々人のニーズに応じたきめ細かなサービスを提供できる中小都市であると考えています。

 さらに、人間関係において都市部を中心に社会的孤立が課題となる中、二地域居住や関係人口による人と人との〝つながり〟の再構築、課題解決への貢献による達成感等々は、やはり大都市より地域社会の方が、より実感しやすいのではないでしょうか。

 このように考えると、「地域生活圏」構想は、近代以後150年続いた一極集中型国土構造を、人口減少社会に対応して地方分散型に転換する取り組みであると言えるでしょう。デジタルも活用しながら需要者目線に転換することで利便性を高め、持続可能な国土・地域を実現する、こうした将来像を目指していきたいと思います。
                                                  (月刊『時評』2026年5月号掲載)