
2026/07/15
――また、2024年に発生した「令和6年能登半島地震」「令和6年9月能登半島豪雨」を踏まえた土砂災害対策の検討が進められていますが、とりまとめや示された方向性などについてお聞かせください。
國友 能登半島地震とその後に発生した奥能登豪雨については、地震によって強い揺れを経験したのと同じ地域で記録的な大雨が降ったことにより、単独の大雨災害よりも被害が拡大する、いわゆる複合災害による被害の大きさを目の当たりにさせられたことに尽きると思っています。そのため、今後は複合災害に対する事前防災として、どういった対策が必要になってくるのか、首都直下地震や南海トラフ地震など大規模地震への備えの重要性が増す中、その後の複合災害への対応・対策を検討するため、「能登半島での地震・大雨を踏まえた水害・土砂災害対策検討会」を開催しました。25年6月には、①能登半島地震や大雨を踏まえて対応すべき課題、②速やかに検討に着手し、早期に実現を図るべき対策、そして③速やかに研究開発に着手し、早期に実現を図るべき対策――をまとめた提言が発表されています。
そしてこの提言を踏まえ、河道閉塞や火山噴火に伴う複合的な大規模土砂災害への対応能力の強化を図り、大規模土砂災害発生時における緊急的な調査、応急対応などについて、これまでの取り組みを検証するとともに、対応能力の強化が必要な取り組みの検討を行うため、学識経験者から構成される「大規模土砂災害の緊急対策の強化に関する検討会」を25年9月に設置しました。これまで2回(全4回を予定)にわたって議論が行われており、最終的には、土砂災害防止法に基づく緊急調査などの実施の手引き、大規模土砂災害危機管理計画や火山噴火緊急減災対策砂防計画の改定を目指すこととしています。
〝災害リスクを自分事化〟するための取り組みと砂防政策の今後の展望
――災害リスクを自分事化し、〝主体的な避難行動につなげる〟〝地域に貢献する防災行動につなげる〟ことで施設や取り組みをブランド化し、地域を活性化させることを目的とした「NIPPON防災資産」の認定が進んでいます。どういった取り組みが認定されているのでしょうか。
國友 25年に開催された「大阪・関西万博」において、イタリアのパビリオンでは災害記憶の次世代への伝承をテーマにしたパネルディスカッションが行われ、われわれも参加して日本の取り組みを整理して紹介しました。災害のリスクを自分事化するために重要なのは、まず自分が住んでいる地域で過去に発生した災害は、いずれまた発生するということを理解してもらうことです。人間、どうしても時間の経過とともに意識が風化してしまいます。ましてや、自分が経験していないことを自分事としてとらえることは難しいことです。それでも、それを自分事として認識し、さらに次の世代である子どもたちに伝えていくことこそ、土砂災害などから自分たちの身を守る上で、非常に重要であることをこのパネルディスカッションを通じて、改めて認識させられました。
そのパネルディスカッションの中で紹介したのが、「NIPPON防災資産」認定制度や、国土地理院がホームページで公開している、災害の教訓を伝える「自然災害伝承碑」、さらには砂防部が取り組んでいる「ダイナミックSABOプロジェクト」です。これらでは、過去その土地でどういった災害が発生したのかを知ることができるようになっています。特に、ダイナミックSABOプロジェクトにおいては、通常は山中に設置されている砂防施設などを、インフラツーリズムの対象とすることで、砂防施設の役割や意義、防災意識の向上を図るのに役立てています。
それぞれ魅力のある、地域の特性を生かした取り組みですが、例えば群馬県嬬恋村の「天明三年浅間山噴火災害語り継ぎ活動」は「NIPPON防災資産」に認定(令和6年:第一回「優良認定」)されていますし、同じく「NIPPON防災資産」に認定されている新潟県岩船郡関川村で毎年8月に開催されている「えちごせきかわ大したもん蛇まつり」は、村に甚大な被害をもたらした羽越水害(1967年)の伝承という役割も担っています。土石流を「蛇抜け(じゃぬけ)」と表現することもあり、それにちなんで「大したもん蛇」となったとも聞いていますが、50年以上前の災害を忘れないように、また若い世代にも引き継いでいけるように語り継いでいくことが功を奏した事例といえるでしょう。
先述しましたが、毎年6月を「土砂災害防止月間」として土砂災害の防止と被害の軽減に向けた取り組みを進めています。今年で第44回目となる「全国の集い」は滋賀県で開催され、開催テーマは「近代砂防発祥の地 滋賀からの警鐘」としています。近代砂防発祥の地というのは、滋賀県は田上山に象徴されるように花崗岩からなる山が多く、森林資源の収奪によってはげ山となり、恒常的に土砂が流れ出てしまうような状況にありました。そのため、まずは山に緑を戻そうとさまざまな工夫を凝らしてきた地域でもあります。明治時代からグリーンインフラのような取り組みを続けてきた地域であり、滋賀県はまさに近代砂防発祥の地といえるでしょう。
また2024年には滋賀県の伊吹山で立て続けに土石流が発生しました。原因の一つに鹿の繁殖があります。繁殖した鹿が山を荒らし、そこで土壌侵食が始まり、流域の状況が変化して土石流が発生したと考えられています。つまり近代砂防発祥の地で、新たな要因によって土砂災害が発生する事案が生じたわけです。鹿の繁殖についても気候変動による冬季の積雪量の減少や、人口減少により山林に人の手が入りづらくなっていることも指摘されています。滋賀県では、全国に先駆けてこれまでなかったような要因が重なって災害が発生しています。このような事例をもとに、自然・社会環境が変化する中、今後どのような対策を行っていけば良いのか、未来について議論をする――そういった内容になるかと思います。
――高い確率で大規模災害の発生が予測されるなど、土砂災害対策、砂防政策の重要性が増しています。最後に砂防政策・土砂災害対策の実現に向けた今後の展望、あるいは政策実現に向けた思いや意気込みについてお聞かせください。
國友 砂防を取り巻く状況として問題になっているのは、気候変動に伴い、自然災害が激甚化・頻発化し、今後、土砂災害が増加していく恐れがあるという点。そして人口減少、特に地域の人口が減っているという点です。それは人口減少に歯止めがかからない中、どういう部分に防災投資を行っていくか、また担い手が減っていく中で、対策をどのように講じていくか。課題解決に向けた政策を展開していく必要があると考えています。そのためには高市政権が唱える地域の強い経済という流れの中で、各地域の地場産業や背景にある文化、担い手である地域住民にこれからも安心・安全に暮らしていけるような基盤をしっかりとつくっていく、それに貢献できる砂防政策を実施していくことが重要だと考えています。
そのためには地域の各首長が、どのように地域を、産業や文化を守っていくのか。希望するまちづくりに寄り添えるような政策や事業を進めていくことが重要だとも考えています。さらに人口減少・担い手不足への対応としては省人化や生産性の向上に向けた最新技術の活用、DX化は必須といえます。
そして最後は人です。防災や災害対応に関係・携わり、いざという時には逃げるという選択ができるためには、災害と防災に対する十分な理解が必要になります。そうした防災意識の啓発とさらには次世代に防災や砂防の技術を継承していくための技術者をしっかり確保していくことが非常に重要な課題だと考えていますし、そのための施策に取り組んでいきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2026年6月号掲載)