
2026/08/19
同時に目標の達成に向けて、船種や技術開発の切り口から見た戦略、つまり勝ち筋を取りまとめました。船種を大きく基幹船舶と、特殊船舶・希少船舶に分けています。
基幹船舶は、原油やナフサなどを運ぶタンカーに、鉄鉱石や石炭などを運ぶバルクキャリア、衣類や雑貨を運ぶコンテナ船などがこれにあたり、船腹量の大半をこれら基幹船舶が占めています。そのため一定規模以上の受注量を安定的に確保しつつ、需要変動やロット発注等に対し柔軟な体制を構築していくこと、連続建造による生産性向上と低コスト化を図ることなどが求められます。
特殊船舶・希少船舶には多種多様な船舶が含まれますが、中でも自動車運搬船やフェリーなどは、わが国で長年建造してきた実績もあり特殊な技術も要することから、従来の国内顧客向けから海外市場へ展開することが重要だと考えています。また、液化CO2運搬船や海底ケーブルの敷設船など、これから伸長するであろう新たな市場の先取りが有望視されています。もう一つ、LNG(液化天然ガス)の需要が今後も伸びると想定されることから、連動してLNG運搬船も必要となりますが、2019年を最後にLNG運搬船は国内建造していません。そのため何とか国内生産を再開すべく、5月末現在、関係事業者が協議をしているところです。
技術戦略に関しては、基幹船舶ではゼロエミッション船等の技術開発や生産体制整備等による優位性の確保と先行者利益の獲得を目指し、また全船種に共通して省エネ技術に日本は強みを有しているのでこれを引き続き発展させつつ、知財戦略をしっかり確立すべきだと考えています。また外航船は原則国際基準に則って建造し航行させねばならないことになっており、国際海事機関(IMO)における国際規則の策定を主導することも重要な戦略要素です。
「造船業再生基金」の、二つの柱令和7年度補正予算で、ロードマップにおける建造能力の増強に対応するものとして、1200億円が措置され、「造船業再生基金」が設置されました。今後10年間で合計3500億円規模を目指していきます。
事業内容としては、自動溶接ロボットやメガブロック対応クレーンなど生産設備の能力増強および自動化に対する支援「既存の船体生産能力の拡充」と、砕氷船やRORO船などの最先端の設計・生産システムの研究開発・実証を支援する「船体生産能力拡大のための研究開発」の二つで構成されています。
以下、個別分野に関する政策の進捗を見てみましょう。
まず造船に関しては人手による現場仕事の比重が高いことから、AIの活用やロボット化があまり進んでいないと指摘されています。が、それ故にAI活用が進めば大きな効果が期待される有望な分野との声もあります。特に人手不足や熟練技能者の高齢化が深刻化している昨今、ロボットによる省人化・省力化が強く期待されています。現在〝BRIDGE〟という、研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラムについて、令和7年度補正予算として150億円が措置されており、船舶構造の各工程において利用可能なAI造船ロボットの開発や、そのロボットを最大限活用するために必要なAIシミュレーション基盤等の開発などが進んでいます。
またカーボンニュートラル関係の施策も進めています。まずグリーンイノベーション(GI)基金を活用した技術開発・実証について。水素やアンモニア等を利用した燃料に対応できるエンジンの開発や、燃料供給システムの開発を行います。次いでGX経済移行債を活用した生産基盤の構築と新造船発注です。例えば造船所においてゼロエミッション船を建造するにあたり、アンモニア燃料のタンクの生産設備の整備や、またゼロエミッション船の導入などが支援の対象となります。そのほか、国際基準の策定もこのカーボンニュートラル関連に含まれます。
続いて造船人材の確保面に関してですが、一つは大学間連携による共同教育・研究拠点構築です。各大学個別ではなく、大学同士の連携や産学連携による造船技術者の育成体制強化が必要、との視点によるものです。もう一つ、2027年4月に運用開始となる育成就労制度について、業界の要望を踏まえつつ、適切に制度を活用して外国人材の受け入れと活用を進めていきます。
そのほかロードマップに基づき、35年までに官民で1兆円規模の投資実現を目指します。具体的には、①造船企業の資金調達を後押しする各種金融支援、②「造船業再生基金」等による施設整備や技術開発の支援、③非価格競争力向上に資するGX経済移行債を活用したグリーン投資、等を組み合わせて1兆円を達成する計画を立てています。
次世代船舶と修繕の課題と対応
最後に、次世代船舶と修繕の各政策についてお話したいと思います。
次世代船舶は、前出のゼロエミッション船や新燃料船、自動運転船など、まさにこれから主流になると思われるタイプの船舶です。これら次世代船舶の建造によってゲームチェンジを図るためにも、講じるべき施策として生産体制の整備支援、国際ルール策定の主導、技術開発・実証支援、導入支援、次世代型造船ロボットの研究開発支援などが考えられます。
これら各施策の着実な実施によって、次世代船舶建造技術で世界を主導すること、同技術をてこに冒頭で述べた1800万総トンの建造を35年段階で達成すること、そして国際社会におけるわが国造船業の役割を確立することなどが、目指すべき姿となります。
船舶修繕の方はどうか。海上輸送が生命線であるわが国において、船舶の定期的な修繕は不可欠ですが、実は日本の外航船舶の修繕は、そのほとんどを海外に依存しており国内での修繕は隻数ベースで全体の7%に過ぎません。外航船修繕に対応できる修繕事業所は非常に限られているのが現状です。
国内で修繕しているのは艦船や巡視船などの官公庁船を含めた内航船で、こちらは隻数ベースで8割強を占めています。そして今後、例えば大型巡視船配備計画において徐々に隻数増加が見込まれており、すでに修繕の現場が人的、設備的にひっ迫している中で、こうした増加に対応していけるのか非常に懸念されるところです。
このような背景の下、講じるべき施策としては、海事産業群内でのデータの共有化等による技術力・生産性の向上、官公庁の修繕時期を平準化、そしてなによりドックやクレーン、塗装・洗浄設備等の機能拡充・高度化やAI・ロボット等の活用による自動化・省人化等により、修繕能力を向上させていかねばなりません。そのほか、外洋航行中における修繕拠点の確保という観点から、主要航路を踏まえた同志国における修繕ドックの活用や確保も必要です。
これらの施策により、修繕に関して特定国への依存解消を図り、内航船や官公庁船等の修繕キャパシティの増加、国内修繕能力の強化や同志国との連携等を通じた日本の船主の外航船の修繕需要に持続的に対応できる体制の構築を目指します。
造船業に対する重要性が再認識される中で、私どもとしても造船業再生を目指し、しっかりとした政策を展開していきたいと考えています。
(月刊『時評』2026年7月号掲載)