お問い合わせはこちら

所有者不明土地問題/新制度施行で所有者不明土地減少へ期待

過去に遡って適用される遺産分割の見直し

おおや たい/昭和50年生まれ、同志社大学法学部卒業、平成12年10月判事補任官。令和3年7月法務省大臣官房参事官、本年7月より現職。
おおや たい/昭和50年生まれ、同志社大学法学部卒業、平成12年10月判事補任官。令和3年7月法務省大臣官房参事官、本年7月より現職。



――4月に始まった改正民法に基づき、この7月には大阪府交野市で住宅から道路にはみ出た樹木の枝を伐採する措置がメディアでも取り上げられました。

大谷 4月から、一定の要件の下で、越境してきた木の枝を、木の所有者の同意を得ないで、土地所有者が切り取ることができるようになりました。道路所有者である自治体も使える仕組みですので、この制度に対し高い関心が寄せられています。実際に措置事例が出たことで、今後ますます浸透していくものと思われます。
 同じく4月施行の制度で、今後さらに浸透が期待されるのが遺産分割に関する見直しです。

――どのような内容でしょう。

大谷 ご家族が亡くなって遺産分割をする際には、生前贈与などの「特別受益」や、亡くなった方への相続人の貢献などの「寄与分」を加味しなければなりませんが、見直し後は、亡くなってから10年を経過すると、これらを加味せず、法定相続分で遺産分割を行うこととなりました。改正により、期限を過ぎれば、遺産分割によって得られる財産が大きく変動することもあり得ることになります。

 ポイントは、この制度は施行日である本年4月1日以前に発生した相続であっても適用されるということです。何十年も前に相続が生じた案件でも適用対象となるのです。もっとも、相続開始後既に10年経ってしまったケースで、直ちに法定相続分で遺産分割を行うことになるわけではありません。5年間の猶予期間が設けられていますので、そのようなケースでは、5年以内に遺産分割手続をすれば、特別受益や寄与分を加味してもらえます。

――遺産分割をきちんとしておくべき、ということですね。

大谷 そのとおりです。遺産分割がされると、どの不動産を誰が取得するということが決定され、権利と責任の所在が明確になりますので、相続登記も早期にされることが期待されます。後ほど話がある登記義務化の観点からも、遺産分割を早めに行っていただくことが大事だと考えています。

区分所有法制の見直しを議論

――所有者不明土地問題が深刻化する背景には、わが国における高齢化の進展が挙げられますが、マンションにおいても、建物の老朽化と住民の高齢化が同時進行的な問題になっていると思われます。

大谷 その点でまさに今議論されているのが、区分所有法制の見直しです。今後、老朽化したマンションをはじめとする区分所有建物が急増していくと想定されます。

 すでに、2021年民法改正の立法過程において、区分所有建物についても、土地と同様に、所有者不明や管理不全の問題が存在するのではないか、という問題意識がありました。しかし、民法とは別の法体系があるため、区分所有法の改正は将来の課題とされ、別途検討を進めることとされました。

 その後、法務省・国土交通省が参加する研究会で、区分所有法の見直しについての論点整理が行われ、昨年9月に、法務大臣が法制審議会に対し、法改正に向けて諮問を行いました。専門部会が立ち上げられて急ピッチで検討が進められ、本年6月8日に中間試案がとりまとめられたところです。

――どのような点が論点となっているのですか。

大谷 大きく分けて、区分所有建物の管理の円滑化と、再生の円滑化が目指されています。管理の円滑化については、中間試案では、所在等不明の区分所有者を除いた残りの区分所有者で建替え決議等を行うことを可能とする仕組みや、集会に出席した区分所有者の多数決で決議を行うことを可能とする仕組みが提案されています。また、民法改正における所有者不明・管理不全建物管理制度と同じような考え方のもとで、所有者不明専有部分管理制度、管理不全専有部分・共用部分管理制度の創設が提案されています。その他、共用部分の変更決議の要件緩和や、区分所有者が相互に負うべき責務の明文化などが盛り込まれています。

 再生の円滑化については、例えば、建替え決議の要件緩和のほか、建物・敷地の一括売却や建物の取壊し、一棟リノベーション工事といった、現行法では全員同意が必要な行為を建替え決議と同等の多数決により決定可能とすることなどが盛り込まれています。

――マンション全体と個人の資産に関わる話ですから、それが全員同意から多数決へ移行したら非常に大きな改正になりますね。

大谷 確かにそうですが、今あるストックの有効活用という観点からは、管理の円滑化も相当のインパクトがあると思います。中間試案については、7月3日から2カ月間、パブリックコメントの手続きを行っていますが、多くの国民に大きな影響があることですので、関心を持っていただければと思っています。政府の方針としては、来年2024年の通常国会における法案提出に向けて検討を進めることとしています。

 所有者不明土地問題は、関係省庁が一体となって取り組んでおり、2018年以降、さまざまな施策が打ち出されてきましたが、区分所有法の改正にまで裾野が広がるに至って、さらに新たなフェーズに入ってきたことを実感します。

24年4月、相続登記の申請義務化に向けて

――最後に、このように所有者不明土地対策が前進する中で、これから予定している対応などお聞かせ願えますか。

藤田 いよいよ来年2024年4月から、相続登記の申請義務化がスタートします。この新制度が所有者不明土地を減少させる決定打になると考えていますので、法務省・法務局では目下、国民の皆さまに安心して新制度に対応していただくための施行準備を進めています。

 新制度では、相続で土地・建物を取得した場合、それを知ってから3年以内に法務局に相続登記の申請をすることが法律上の義務となり、正当な理由なく怠った場合には10万円以下の過料の対象になります。さらに、義務化は過去の相続に遡り、未登記であれば過料の対象にもなりますので、その場合には2027年3月までに相続登記をしていただく必要があります。

 これまで任意だった相続登記を義務化するため、多くの国民の皆さまに影響があり、身の回りの不動産の名義確認や登記申請などの対応をお願いすることになります。そのため、法務省では、キャラクター「トウキツネ」を用いるなどした新制度の周知広報はもちろん、登記申請の負担軽減にも取り組んでいます。相続登記の税制優遇措置を設けているほか、負担の軽減された「相続人申告登記」の創設、登記手続を検討中の方に向けた「登記手続ハンドブック」の提供、法務局での手続案内の実施、司法書士の相談窓口との連携など、残り数カ月となった新制度の施行に向けた対応をしっかり進めていきたいと思います。

 今後とも、所有者不明土地問題を、将来に先送りすることなく、今の世代で解消・解決したいという覚悟で、全国の法務局職員と共に、関係省庁とも連携して、対応していきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。
                                              (月刊『時評』2023年9月号掲載)