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集中連載/所有者不明土地の存在に今後どう対応していくのか

相続登記の義務化をはじめ、民事基本法を大改正

ふじた まさと/昭和49年生まれ、京都大学法学部卒業、平成12年4月判事補任官。令和2年10月法務省大臣官房参事官、令和3年7月より現職。
ふじた まさと/昭和49年生まれ、京都大学法学部卒業、平成12年4月判事補任官。令和2年10月法務省大臣官房参事官、令和3年7月より現職。

 所有者不明土地問題の対応において、中核たる関係省庁の一つである法務省は、民事基本法制を改正するという大胆な施策に打って出た。内容は多岐にわたるが、不動産を相続した場合に登記を義務付けるなど、いずれも既存法制のありようを一変させる大改正だ。新たな所有者不明土地を発生させない、そして土地を使えるようにする、という強い決意が見て取れる。その詳細について、藤田民事局民事第二課長、大谷大臣官房参事官両氏に解説してもらった。

法務省 民事局民事第二課長
藤田 正人氏
法務省 大臣官房参事官
大谷  太氏

所有者不明土地問題の解決は喫緊の課題

――法務省としての観点から、所有者不明土地問題の対応に当たる背景、また、そのような土地が増えてきた理由について教えてください。

大谷 法務省民事局では、所有権について規定する民法などの民事基本法制と、全国各地の法務局で不動産登記事務を行うなどの民事法務行政を所管しています。所有者不明土地とは、不動産登記簿によって所有者が直ちに判明しない土地や、所有者が判明してもその所在が分からず連絡がつかない土地を指していますが、東日本大震災からの復興過程で問題となったのを契機に、所有者不明土地は、民事基本法制と民事法務行政の両面にわたって、非常に大きな問題になってきました。

 2020年の国土交通省の調査によると、所有者不明土地の割合は全体の24%を占めていますが、その原因の6割強が「相続登記の未了」であり、3割強が「住所変更登記の未了」でした。こうした土地が増加した背景には、まず相続登記・住所変更登記は義務ではなく、申請しなくても不利益が少ないことがありますが、都市部への人口移動や人口減少の進展などで土地に対する個人の所有意識が希薄化し、土地の利活用のニーズも低下していることが、登記をしない傾向に拍車をかけてきたと言えるでしょう。

 また、遺産の共有の仕組みも所有者不明土地の増加の一因と考えられます。土地の所有者が亡くなって相続が発生しますと、土地は相続人が共有します。遺産分割をすれば共有関係が解消されるのですが、分割されないまま放置され、さらに相続人が亡くなると、共有する相続人がネズミ算式に増えていく。その相続人のうち一名でも所在が不明になると、所有者不明土地となって土地利用が困難になってしまうという構図が見て取れます。

――その結果、生じる影響等はいかがでしょう。

大谷 登記簿を見ても所有者やその所在が判明しない場合には、所有者の探索に多大な時間と費用を要します。行政が公共事業などで土地の取得や管理を図りたい、また民間の方が土地取引をしたいという場合にも、所有者と連絡がつかないと、話がそこでストップしてしまいます。所有者不明土地の存在により、土地の利活用が阻害され、また、土地の管理不全化を止めることができないという状況は、今後、高齢化の進展による死亡者数の増加によってますます深刻化するおそれがあります。

民事基本法制を総合的に見直し

おおや たい/昭和50年生まれ、同志社大学法学部卒業、平成12年10月判事補任官。平成28年4月法務省民 事局参事官、令和3年7月より現職。
おおや たい/昭和50年生まれ、同志社大学法学部卒業、平成12年10月判事補任官。平成28年4月法務省民 事局参事官、令和3年7月より現職。

――そこで、国がこの問題の対応に乗り出したわけですね。

大谷 所有者不明土地は、民間取引、公共事業や復旧・復興事業、農地の集約化、森林の管理など、土地に関する官民のあらゆる活動に悪影響を与えるものですので、政府を挙げて対応する必要があります。する必要があります。

 政府では、内閣官房を司令塔として、法務省、国土交通省、農林水産省などの関係省庁が連携して基本計画を策定し、期限を区切って着実に対策を推進してきました。まずは短期的な課題として土地の公共的利用を促進する法整備や運用の見直しを行いつつ、中期的な課題として土地基本法や民法・不動産登記法などの基本法の見直しを図ってきたのです。

藤田 法務省では、民事基本法制の見直しに先立って、全国の法務局と連携して、相続登記などを促進しつつ、公共事業に関連する所有者探索作業を進めてきました。すなわち、可能なものから速やかに対策をとるという方針のもと、2017年以降、制度改正や運用見直しを次々に行ってきています。

――具体的にはどのような施策でしょう。

藤田 代表的なところでは、①登記官が法定相続人の一覧図を証明し、銀行などに戸籍関係書類を何度も提出する手間を削減する法定相続情報証明制度、②長期間にわたり相続登記がされていない土地について登記官が法定相続人を探索する長期相続登記等未了土地解消事業、③歴史的な経緯により登記簿の表題部所有者欄の氏名・住所が正常でない土地について、登記官が所有者を探索し登記簿に反映するとともに、所有者を特定できなかった土地は裁判所が選任する管理人が管理できるようにする表題部所有者不明土地解消事業などです。

 また、遺言がされると、遺産の共有が生じにくくなりますし、遺言に沿った相続登記もされやすくなることから、自筆証書遺言を促進するため、法務局が遺言者の申請に基づいて自筆証書遺言を保管・管理する制度も創設しています。

 こうしたさまざまな施策は、例えば長期相続登記等未了土地解消事業が約22・5万筆について完了するなど、多くの成果を挙げています。その一方で、中期的課題についても並行して検討を進め、昨年、所有者不明土地の解消に向け、民事基本法制の抜本的な見直しを行いました。

――その経緯と、見直しのポイントについてお願いします。

大谷 民事基本法制の見直しについては、17年に研究を開始し、19年2月に法制審議会に諮問し、同年12月には中間試案が取りまとめられました。パブリックコメントを踏まえて検討が進められ、昨年2月に法制審議会から法案の要綱が答申され、これを受けて通常国会に法案を提出して、昨年4月に民法・不動産登記法等の改正法と相続土地国庫帰属法が成立することとなりました。

 これらの法律は、新たな所有者不明土地を発生させない、そして土地の利用を円滑化する、という二つの観点から、総合的に民事基本法制を見直したもので、大きく三つの枠組みで構成されています。(資料掲載:民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要)