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所有者不明土地問題/新制度施行で所有者不明土地減少へ期待

ふじた まさと/昭和49年生まれ、京都大学法学部卒業、平成12年4月判事補任官。令和3年7月民事局民事第二課長、本年7月より現職。
ふじた まさと/昭和49年生まれ、京都大学法学部卒業、平成12年4月判事補任官。令和3年7月民事局民事第二課長、本年7月より現職。

2022年夏、当時、民事局民事第二課の藤田課長と大臣官房の大谷参事官お二人に、長年わが国の課題となっていた所有者不明土地問題に関し、民事基本法の改正という大きな転換が図られたことを解説してもらった。その流れの下、今年に入っても、相続土地国庫帰属制度、登記所備付地図の電子データ公開、遺産分割に係る見直しなど相次いで実施に移され、所有者不明土地問題が一気に、そして大きく動き始めている。改めてお二方に、現在の状況について語ってもらう。

法務省 民事局総務課長(前・同局民事第二課長) 藤田 正人氏
法務省 民事局民事第二課長(前・大臣官房参事官) 大谷 太氏


相続土地国庫帰属制度に申請多数

――まずは改めて、所有者の不明な土地がなぜ問題で、今どのような状況なのか、概況をご解説いただけますか。

大谷 いわゆる所有者不明土地とは、不動産登記簿上では所有者が直ちに判明しない土地や、所有者の所在が分からず連絡がつかない土地を指します。2021年の国土交通省の調査によると、日本全体の土地のうち所有者不明土地の割合が24%を占めています。こうした所有者不明土地が増えると、行政が公共事業等で土地の有効活用を図りたい、あるいは民間の方が土地取引をしたいと考えても所有者と連絡がつかなければ、その段階で計画がストップしてしまい、土地の利活用が図られません。

 2021年の民事基本法制の見直しでは、所有者不明土地の発生を予防するとともに、土地の利用の円滑化を図るためのさまざまな施策をパッケージとして導入することとされました。

――その施策の一環として相続土地国庫帰属制度がスタートしましたが、手応えはいかがでしょうか。

藤田 相続土地国庫帰属制度は、相続したけれど使う見込みのない不要な土地について負担金を支払って国に引き取ってもらうという、これまでに無い新しい制度として、本年4月27日にスタートしました。意識調査では、国民の4割以上が、土地を所有することに負担を感じているというものもあり、人口減少・高齢化・都市化の進む中、時代のニーズを踏まえ、いよいよ新制度が動き始めたところです。

 制度開始から2カ月過ぎた段階で、法務局には1万件を超える相談が寄せられ、既に580件以上の申請を受け付けています。申請された土地も宅地、農地、山林などさまざまで、地域や用途を問わず、活用されずに放置された土地の対処には確かなニーズがあると実感します。個々の申請について法務局で審査を始めていますが、基本的に全件で現地調査を行うなど、一つ一つの事案について関係省庁等と連携しながら丁寧に対応していきます。今後も利用状況を注視していく必要がありますが、この新制度が不要な土地を相続した方にとっての選択肢の一つとして定着していくように、今後とも、全国の法務局と力を合わせて運用していきたいと思います。

登記所備付地図の電子データを一般公開

――法務省では、全国の地図データの一般公開を開始して、民間の利用も盛んだそうですね。

藤田 本年1月23日から、法務省では登記所備付地図の電子データを、G空間情報センターを介して、インターネットで広く無償公開する取り組みを開始しました。このデータは全国各地の700万枚以上の地図を加工可能な形式で公開しており、利用規約に抵触しなければ誰でも自由な利活用が可能です。既に相当数がダウンロードされ、行政機関はもちろん、民間企業の皆さまにも、このデータに他の情報を付加して各種の地理空間サービスをウェブ上で展開するなど、さまざまな利活用をしてもらっています。

(資料:法務省)
(資料:法務省)

――そもそも、登記所備付地図とはどのようなものでしょう?

藤田 法務局で備える不動産登記簿には、全国の2億を超える土地の所在や面積などが記録されますが、それだけでは、それぞれの土地がどこにあり、どんな形なのかが分かりません。そこで、登記所(法務局)には地図を備え付けることとされており、この登記所備付地図は、測量成果に基づく精度の高いもので、土地の位置や境界を明確に示すものとして不動産流通や公共事業の促進といった社会基盤整備を支える重要な機能を果たしています。 

 法務省では、政府の「平成の地籍整備」等の方針に基づき、精度の高い地図作りを国の事業として国土交通省等と連携して進めてきました。そして、その成果を、個別の地区ごとに全国の法務局やインターネットで提供してきました。もっとも課題もありまして、現在でも、日本の国土全体で精度の高い地図が整備された割合は約58%にとどまり、残る42%は明治期等の古い公図のままです。公共事業や民間取引等に欠かせないものですので、今後も一層の整備を図っていく必要があります。

(資料:法務省)
(資料:法務省)

――現代の日本において未だに公的地図の4割の精度が低いとは、意外というか驚きです。山林が多い日本の地勢が影響しているのでしょうか。

藤田 確かに、山間部のような測量が困難な地域の問題もありますが、登記所備付地図の未整備地域の大部分は、都市の中核部とりわけ大都市部です。民間取引や開発ニーズが高いエリアながら、十分な測量をしないまま急速に開発が進んだ歴史があったり、地価が高いために数センチの境界線をめぐって係争が生じたりするために、古い公図と現況との違いが大きすぎて手が付けられず、地図整備が進まない状況が発生しています。その結果として、民間や自治体が事業ごとにコストをかけて測量や境界確定などを余儀なくされているのが現状です。

 法務省では、登記所備付地図の最大の給源として自治体が実施する地籍調査に法務局が協力するとともに、併せて、都市部の作業困難度が特に高い地域を対象に国の直轄事業として法務局が独自に地図を作成する事業も進めています。

――精度の高い地図について、今後の全国的な整備の見込みはどうでしょうか。

藤田 先ほど述べた残る4割の国土について精度の高い地図を整備する作業を着実に進めていく必要があります。自治体の地籍調査と法務局の地図作成事業を両輪として進めていく必要がありますが、その中で、法務局が全国の都市部の困難度が特に高い地区を対象に行っている地図作成事業については、現在大きな節目を迎えています。

 これまで2024年度までの10カ年計画を策定して全国の法務局で計画的に地図作成を進めてきましたが、25年度からの新たな計画とそのための基本方針を策定する検討が、法務省で本格化しているのです。困難度がとりわけ高い大都市部における地図整備の促進、まちづくりや防災減災の観点など新たな地図ニーズへの対応、さらにはMMS測量等の新技術の活用など、効果的・効率的な地図作成のための新たな課題を、法務省・法務局として積極的に検討していきたいと考えています。

――国が整備した重要な資産と言うべき地図データですが、今回、無料公開とは思い切った決断ですね。

藤田 これまでも個別の地区ごとの地図を有償で公開してきましたが、オープンデータとして全国の地図データを一般に無償公開し年一回程度更新していくことで、地図データがより広く利用され、新たな経済効果や社会生活への好影響を生むことを期待したものです。

 無償公開は、当初は農業分野におけるICT活用のための要望がきっかけでしたが、民間事業者等から分野を問わずデータ活用の強いニーズが出てきたことから、登記所備付地図の情報をオープンデータ化するとの方針決定を行いました。その背景には、社会生活の重要な基盤となる地理空間情報である地図データについては官民で広く共有し活用していくべき、そういう方向性を法務省として打ち出したということがあります。ぜひ広く効果的に活用していただきたいですね。