お問い合わせはこちら

集中連載:経済安全保障/小林鷹之経済安全保障担当大臣

日本としてどう在るべきか、明確な機軸の形成を

こばやし たかゆき/昭和49年11月29日生まれ、千葉県出身。東京大学法学部卒業、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(M PP:公共政策学修士)。平成11年大蔵省入省、財務省国際局国際機構課、理財局総務課、在アメリカ合衆国日本国大使館書記官等を経て、24年衆議院議員初当選(現在4期)、28年防衛大臣政務官、令和3年10月より経済安全保障担当大臣、内閣府特命担当大臣(科学技術政策宇宙政策)。
こばやし たかゆき/昭和49年11月29日生まれ、千葉県出身。東京大学法学部卒業、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了(M PP:公共政策学修士)。平成11年大蔵省入省、財務省国際局国際機構課、理財局総務課、在アメリカ合衆国日本国大使館書記官等を経て、24年衆議院議員初当選(現在4期)、28年防衛大臣政務官、令和3年10月より経済安全保障担当大臣、内閣府特命担当大臣(科学技術政策宇宙政策)。

昨年秋に初代経済安全保障担当大臣に就任した小林鷹之氏は、従前より高い問題意識を有していたこのテーマの第一人者だ。その視点は産業界、アカデミアを含めて幅広く行き渡り、経済安全保障を実効性あらしめるためにも国民全体の意識の高まりが重要であると指摘する。まさに経済安全保障推進法に向けて最終段階に差し掛かろうという今、主たる方向性とポイントについて語ってもらった。(写真:児玉大輔)

経済安全保障担当大臣
小林 鷹之


供給途絶リスクを内包した日常

――まず、経済安全保障をめぐる議論を振り返っていただき、担当相としての所感をお願いできましたら。

小林 岸田政権発足時に、担当大臣が初めて設置された通り、この経済安全保障という政策には岸田総理の強い思いが込められています。もともとこの経済安全保障のテーマについて、私自身は、企業買収や人材の引き抜き、あるいはサイバー攻撃等による情報窃取などにより、わが国の技術が他国に流出するのを防止するという観点から強い関心を持ち、自民党内で会議を立ち上げ、議論してきましたが、その後、技術流出だけでなく他の分野にも安全保障の観点が拡大していくにつれて、日本の安全保障を確保するために経済面から何を為すべきなのかという問題意識が高まりました。

 2020年6月、当時の岸田政調会長の下、甘利明前幹事長が座長となり自民党新国際秩序創造戦略本部が設置されました。私はその本部の事務局長を務め、議論の内容や進め方を自分なりに組み立てて、12月に党としての経済安全保障に関する定義や概念等の基本的考え方についての提言を、そしてその提言に基づき半年間検討した必要な対策(体制や予算)について2021年6月に提言をまとめました。その上で今回、当選3期(当時)ながら担当相というポストに就いたことで、改めて身の引き締まる思いであると同時に、これまで党として経済安全保障かくあるべしと考え提言してきたことを、今度は政府として受け止めて進める立場になりましたので、非常にやりがいを感じています。私自身は日本を、世界をリードする国にしたいという思いで政治を志したので、この経済安全保障の切り口から現在の担当相として職責を果たすことにより、少しでも日本の国力向上に寄与し、国際社会における日本の立ち位置を強化したいと思います。

――岸田総理は、経済安全保障について急を要するテーマだと指摘されておりますが、その背景についてはいかがでしょう。

小林 グローバル化の進展によって国同士の相互依存関係が年々高まり、サプライチェーン一つとってみても多様化・複雑化を極めています。加えて今般のコロナ禍の中、マスク然り医療用ガウン然り、国民の健康を守るための用具から日常使う消耗品まで、海外からの輸入に頼っているが故に手に入らなくなるという現実が国民の眼にも明らかになりました。足下では半導体の問題も顕在化しています。

 つまり、国民の生命を守り、経済・社会活動を維持存続するための基盤を海外に過度に依存すれば、供給元の国の意図や政治状況による供給途絶リスクを、常に抱えていなければならないのです。緊急時になれば、同盟国も含め、各国とも当然先ずは自国民を最優先するでしょうから、岸田総理が経済構造の自律性を高めることを目指しているのは、まさにこうした危機発生時の対応整備を図ることに他なりません。

 ことにデジタル化が進み、〝21世紀の石油〟と言われるデータが膨大かつ瞬時に国境をまたぐ現在、利活用と同時に管理の在り方も、新しくかつ重要な課題としてフォーカスされています。さらに種々の革新的技術が次々と出てくることにより、安全保障の裾野も年々広がっています。私は国力を推進する両輪は経済と安全保障だと思っていますが、両輪の融合がますます求められる時代になりました。この点、わが国がどのように対応を図っていくべきか、まさに未来のために現在の政策のありようが今、問われているのだと思います。

 このような背景のもと、2月初旬現在、今通常国会に経済安全保障推進法案を提出すべく作業を進めています。また、岸田総理は昨年末、国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の3文書を、概ね一年かけて改定していくとの意向を示されました。国家安全保障戦略に経済安全保障の視点をどのように盛り込んでいくべきかが重要な課題の一つとなりますので、私自身積極的に議論に参加していきたいと考えています。

三つの方向性と四つの柱

――改めて、提出を予定されている経済安全保障推進法案の位置付けはどのようなものでしょう。

小林 現在の経済安全保障の議論において政府は、「日本の社会が抱える脆弱性を解消し、自ら政策を主体的に決定できるよう自律性を確保すること」、「弱みの解消を図ると同時に、日本固有の強みを持ち得る分野を把握して他国に対する優位性を確保し、国際社会における日本の不可欠性を戦略的に拡大すること」、そしてこの2点をもとに、「世界の中での日本の立ち位置を強化し、国際秩序ないし国際ルールの形成に主体的に参画していくこと」という3点を、大きな方向性として掲げています。

 これら脆弱性の解消や強みの把握に向けて、具体的に為すべき課題は文字通り山積しています。これまでも、既存の制度の下で既にさまざまな対応をとってきていますが、今回は新たな法制化という形で、さらなる政策課題に対処することをより明確化する、という次第です。

――2月の冒頭、法案の策定に向け有識者会議の提言が取りまとめられ、四つの柱が示されました。そのあらましをご解説願えましたら。

小林 はい、どれも重要な、そして前述したように急いで着手せねばならない問題ばかりです。

 まずは「サプライチェーン(供給網)の強靱化」です。マスクから半導体に至るまで、供給が途絶すると甚大な影響が生じうる物資を見極め、安定したサプライチェーンを構築するための枠組みを導入します。

 次いで「基幹インフラの安全性・信頼性の確保」。サイバー攻撃によって、国民生活や経済活動の基盤となるサービスを提供するためのシステム・機器の稼働が妨げられることを防ぐため、情報通信やエネルギー、金融などの基幹インフラに携わる企業が、安全保障上問題のあるシステム・機器を導入しないよう、事前に審査する制度を導入します。これはインフラの脆弱性を突いたサイバー攻撃等の妨害行為を未然に防ぐための措置です。

 三番目がAIや量子、バイオなど「先端技術の研究開発に向けた官民連携」です。先端技術の開発は、各国とも国家戦略と位置付け、しのぎを削っていることから、日本としても、民間に一任するのではなく、政府が技術の育成を支援していく方針です。国がこれまで取り組んできた研究開発の成果等々、民間には無い情報を積極的に提供するなど、まさに産学官で連携しながら取り組みます。資金面での支援を行うための予算も確保しており、国がさまざまな形で伴走支援を行います。また、「日本の強みを把握する」ことに関して、多様な知見を結集すべく、国として本格的なシンクタンクを立ち上げるつもりです。

 最後が、「特許の非公開化」です。現在、G20加盟各国のうち、全く留保なしに、特許を出願したら一律に公開されるという国は日本とアルゼンチン、メキシコしかありません。多くの国は通常、特許出願されたら原則公開ではあるものの、安全保障上機微な内容であるなど公開されたら問題がある技術に関しては非公開にする、という制度を設けており、日本においても同様の制度を導入したいと考えています。それらの国々が設けている第一国出願義務(その国で完成した発明を、外国に出願する前にまずその国に出願しなければならないとするもの)も必要と考えています。

 これら4本柱全体を通じて私たちが意識していることは、民間企業の自由なビジネスを可能な限り制約しない、という点です。産業活動は基本的にグローバルであり、イノベーションはオープンであるべきです。とはいえ、国際情勢の変化に伴い、リスクも顕在化している昨今、自由な活動と安全保障上の対応のバランスをいかに取るかが重要なポイントとなります。産学を交えた前出の有識者会議においても、透明性と予見可能性を確保するべき、新たな規制や制約は必要最小限にとどめるべき等々のご意見を頂きました。今後の法制化においては、こうした各界からの声を取り入れつつ最適解を求めていくことになるでしょう。