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集中連載/所有者不明土地の存在に今後どう対応していくのか

義務化と負担軽減をパッ ケージで

――では、三つの枠組みについて、順にご解説をお願いします。

藤田 まず、所有者不明土地の発生予防のための不動産登制度の見直しです。これ以上所有者不明土地を増やさず、不動産登記簿の情報の最新化を図るため、相続登記と住所等の変更登記の申請を共に義務化しました。

 相続登記については、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付け、正当な理由のない申告漏れには過料の罰則を設けています。24年4月1日から施行されますが、施行前に発生した相続についても適用されます。

 また、住所等変更登記については、住所等の変更日から2年以内に変更登記の申請を義務付け、同じく義務違反には過料の罰則を設けています。こちらは26年4月までに施行され、施行前に生じた住所変更についても適用されますが、具体的な施行時期は今後決定されます。

――義務化とは、大変大きな改正ですね。

藤田 はい。20年に行われた土地基本法の改正で、土地所有者に不動産登記の手続きを講ずる努力義務が課せられましたが、今回の不動産登記法の改正では、相続登記・住所等変更登記について、登記申請をしなければならない法的義務が課せられました。国民の皆さまの意識を大きく変えることになる重要な改正だと言えるでしょう。

 もっとも、改正法の趣旨は、義務を課すこと自体にあるのではなく、登記申請を促進して登記を最新化することにありますので、義務の実効性を確保する環境整備策、負担軽減策が併せて講じられています。  相続登記に関しては、資料収集など登記の手続き的な負担を軽減するべく、相続人が、登記名義人の法定相続人であることを示す最小限の書類をもって申し出ることで義務を簡易に履行できる相続人申告登記を新設しました(24年4月1日施行)。

 また、亡くなった方がどこに不動産を所有していたかが分からないために登記漏れが生じることのないよう、特定の者が名義人となっている不動産の一覧を法務局が証明書として発行する所有不動産記録証明制度を新設しました(26年4月までに施行)。

 他にも、登記手続きの費用負担を軽減するため、令和4年度税制改正において、相続登記の際の登録免許税の免税措置の拡充等を行っています(既施行)。

――二つ目の枠組みについてはいかがでしょうか。

藤田 二つ目は、所有者不明土地の発生予防のための相続土地国庫帰属制度の創設です。相続等により土地の所有権を取得した場合に、法務大臣の承認を受けて土地を手放し、国庫に帰属させることができる制度で、来年4月27日から施行されます。

――つまり、所有者が、土地が要らなくなったので、これを手放して国に渡したい、それができるようになったということですね。

藤田 はい。今日では、〝負動産〟などと言われるように、相続はしたものの利活用の予定のない土地の管理が負担となり、土地を公的機関に引き受けてもらいたいというニーズが高まっています。

 これまでは、買い手がつかず、自治体も寄付を受け付けてくれない土地は、所有者が管理し続けるしかありませんでしたが、法制審議会では相続した土地を手放す仕組みについて議論が重ねられ、一定の要件を満たした土地については、法務大臣の承認を受けて国に引き取らせることを可能とする新しい制度が設けられました。

――ただその場合、土地を管理しなくてもいずれ国に引き取ってもらえばいい、という心理が働くのではないでしょうか。

藤田 確かに、そうしたモラルハザードが発生するおそれがありますので、国が引き取るに当たっては、建物がある土地や土壌汚染がある土地など、通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地に該当しないこと、という要件を設けています。また、国が永続的に土地の管理費用を負担することになりますので、手続の際には、審査手数料のほか、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を支払うこととなっています。

――なるほど、土地を管理可能な状態にして管理費用の一部を負担すれば、国に引き取らせることができる、ということですね。

藤田 この制度は、全く新しい制度ということで、国民の皆さまのご関心が高いところです。全国にある法務局が要件審査の事務を行うことになりますので、関係省庁等とも連携しながらしっかりと準備をして、申請や相談に対応したいと考えています。

現代化も図るべく民法を改正

(資料等提供:法務省)
(資料等提供:法務省)

――三つ目の枠組みについてお願いします。

大谷 三つ目は、土地利用の円滑化を図るための民法の見直しです。所有者不明土地問題を契機として検討が始められましたが、明治時代に作られた民法のルールが古くなり、時代に合わなくなっている部分があることが明らかになりました。そこで、所有者不明土地の利用・解消の観点と、土地利用に関連するルールの現代化の観点から、大きく4点の見直しを行っています。

 第1は、財産管理制度の見直しです。所有者不明土地・建物管理制度や、管理不全土地・建物管理制度を新設しています。前者は、個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度を創設するもので、現行の不在者財産管理制度や相続財産管理制度に比べてコストの軽減を図るものです。後者は、所有者が土地・建物を適切に管理せずこれを放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある場合に、裁判所が選任する管理人による管理を可能にするものです。これらの新制度は、多くの自治体がお困りの空き地・空き家の対策にもお使いいただけるものです。

 第2は、共有制度の見直しです。裁判所の関与のもと、不明共有者に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度を創設したほか、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭を供託して、不明共有者の共有持分を他の共有者が取得・譲渡し、不明共有者との不動産の共有関係を解消する制度を創設しています。そのほかにも、共有者の持分の過半数で決定できる管理行為の拡大・明確化など、共有者不明の場合に限らない重要な改正が多岐にわたって行われています。

 第3は、相続制度の見直しです。遺産分割がされないまま長期間放置されますと、さらに相続が発生して複雑化してしまいます。そこで、相続開始から10年を経過した後にする遺産分割では、個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で遺産分割を行うこととして、具体的相続分による分割で利益を得る相続人に早期の遺産分割を行うインセンティブを与えました。  

 第4は、現代生活において隣地等を適正に利用することができるよう、相隣関係規定を見直しました。各種ライフラインを自分の土地に通すために他人の土地を使う必要がある場合に、導管等の設備を他人の土地に設置する権利を明確化するなどして、隣地所有者不明状態にも対応できる仕組みを整備しています。

 これらの改正は、いずれも来年4月1日から施行されます。

――明治以来の改正など、いずれも画期的な内容ばかりですね。これら数々の制度創設を含む法改正がなされた意義について、どのようにお考えでしょうか。また、法改正の内容についての広報・周知活動などは。

藤田 これまで、土地の所有や登記に関することは、個人の自由と捉えられがちでしたが、所有者不明土地問題を契機に、未登記状態、管理不全状態のまま土地が放置されると、周囲の方々や社会に大きな不利益を及ぼすことが明らかになったように思います。

 今回の法改正は、これまでの制度を大きく変更し、問題の解決のために有効なツールを多く用意したもので、重要な意義を有するものと考えています。もっとも、真に問題を解決するためには、こうしたツールをユーザーの皆さまにしっかりと活用していただくことが必要です。実際に所有者不明土地を抱える自治体の現場では防災対策の滞りやゴミの投棄などで苦労されてきましたし、事業者の方は開発が思うように進まないなどの問題に長年直面されてきました。相続登記の義務化を始めとする今般の法改正が、このような問題の解決に資するものであることにつき、官民を問わず、広くご理解をいただくことが極めて重要だと考えています。

(資料等提供:法務省)
(資料等提供:法務省)


大谷 土地をお持ちでない方などには、所有者不明土地問題は自分とは関係がないと考える向きもあるかもしれませんが、今回の改正は、共有、相続、相隣関係など、誰にも関係がある身近なルールの見直しも多く含んでいます。専門的な見地からの改正も多いのですが、専門資格者団体や経済団体とも連携して、できるだけわかりやすい周知広報活動を行っていきたいと考えています。

 具体的には、パンフレット(表紙掲載)を作成・配布するとともに、法律や登記制度になじみの少ない層を意識して、広報キャラクター「トウキツネ」を作成し、法務省HPで改正に関する特設ページや「あなたと家族をつなぐ相続登記」のページを設けて、分かりやすい広報に努めています。

大谷 また、本年6月には、改正法を踏まえた「共有私道ガイドライン(第2版)」を公表し、HPに掲載しました。住宅地などでは共有状態の私道が多くありますが、必要な工事を実施しようとしても、共有者の一部が所在不明で同意を得られず困っているという声をよく聞きます。このガイドラインは、全37事例のケーススタディを行うことなどにより、改正法の内容をわかりやすく解説していますので、自治体やライフライン事業者など、関係者の皆さまに広く活用していただければと思っています。

――この問題に関連して残された課題などはいかがですか。

大谷 マンションなどの区分所有建物でも、今後、所有者不明や管理不全の問題が生じるおそれがあります。今回の民法改正では、区分所有建物に関しては特別法である区分所有法制の在り方という別の観点での検討が必要であるとされ、積み残しの課題とされました。

 区分所有建物の管理・再生の円滑化も、多くの国民にかかわる重要なテーマであり、現在、研究会で区分所有法制の見直しに向けた論点整理が進められています。

――これも大変重要なテーマですね。本日はありがとうございました。
                                                (月刊『時評』2022年7月号掲載)