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集中連載/所有者不明土地の存在に今後どう対応していくのか

面的な整備が求められる森林管理

かわむら たつや/昭和46年3月2日生まれ、宮城県出身。東京農工大学農学部卒業。平成5年農林水産省入省、28年林野庁森林整備部研究指導課森林・林業技術者育成対策官、29年高知県林業振興・環境部副部長、31年同林業振興・環境部長、令和3年林野庁森林整備部森林利用課森林集積推進室長、4年4月より現職。
かわむら たつや/昭和46年3月2日生まれ、宮城県出身。東京農工大学農学部卒業。平成5年農林水産省入省、28年林野庁森林整備部研究指導課森林・林業技術者育成対策官、29年高知県林業振興・環境部副部長、31年同林業振興・環境部長、令和3年林野庁森林整備部森林利用課森林集積推進室長、4年4月より現職。

――森林については、所有者が不明となるとどのような影響が生じるのでしょう。

川村 森林においては従来、所有者や森林組合等の事業体が、周辺の所有者の同意を得て、一定の面積をまとめて効率的な間伐作業などを行う〝集約化〟を進めてきました。が、その集約化を進める際に、対象となる所有者が分からない、その所在が不明、という状態が顕在化してきており、効率的な森林整備が進めにくくなっています。そのまま間伐等に手を付けられない状態が続けば、山林が荒れていき、国土保全や水源涵養など森林の有する多面的機能の発揮にも影響が生じかねません。所有者当人の方々からしても、森林が山奥だとどこに自分が相続した森林があるのかわからず、手を付けかねているうちに年月が過ぎて関心も薄れ登記がされないままというケースもあります。つまり所有者と行政の双方が現状を把握しきれていない、という状態です。

 森林は面的に適切な経営管理を行うことによって国土保全や水源涵養などの多面的機能が発揮されるため、手入れが行き届かないエリアが〝虫食い状態〟で存在する状態は適切とは言えません。従って、所有者不明森林の問題においては、面的な経営管理を確保することが課題となります。

――所有者不明森林は現在どのような状況でしょうか。

川村 現段階で、長年登記されていない、すなわち最後の登記から50年以上が経過している割合を見ると、山林は32・3%で土地全体平均の26・6%を上回ります。また、登記簿情報だけでは所有者に連絡がつかない森林は28・2%で、これも同全体平均22・2%を上回るなど、所有者不明土地問題のなかでも森林がより深刻であることが見て取れます。

(資料:林野庁)
(資料:林野庁)

――そうした背景のもと、農地と同じく森林もやはり法制度等にて対応を?

川村 2012年に、新たに森林の所有者となった方には、地元市町村に届出をしてもらう制度を措置しました。下って17年に、森林所有者と境界の情報を整理した林地台帳を、市町村において作成することになりました。これには登記簿情報や県が保有する森林簿の情報等を重ね合わせ、森林所有者情報を管理・保管するという制度です。その際、固定資産課税台帳で森林所有者が判明している場合がありますので、そうした情報も市町村の内部で利用できるように改めました。

 これらの措置によって、森林所有者や実際に管理している人などが判明していくことが期待されますが、山や森林に対する所有者の関心がますます希薄になる中で、森林の適切な経営管理を確保していくため、19年4月、森林経営管理法に基づく森林経営管理制度を新たに措置しました。

森林経営管理制度を実施

――同措置の概要をお願いします。

川村 森林の所有者が不明かどうかに関わらず、市町村が所有者に対して、「貴方は森林をこれからどうしていきますか」という意向調査を行い、「自分ではもう経営管理しきれない。市町村に預けたい」という回答の所有者がいたら、必要に応じて市町村が森林を預かる(経営管理権を設定)、という制度です。預かった森林は、林業経営が可能な山であれば、再委託(経営管理実施権を設定)という形で林業事業体に委ねて林業経営していただき、林業経営が成り立たない状態、すなわち山間奥地や、木が既に経済的価値を有しないような状態の場合は、市町村が主体となって間伐を行うなど経営管理に当たるという仕組みをつくっています。

 その意向調査を実施した段階で、対象となる所有者が不明という場合は市町村が所有者の探索を行い、それでも不明であれば公告等の手続きを経て、所有者の同意があったものとみなして、市町村が経営管理の権利を取得するという特例措置を設けています。これは所有者の一部、または全員が不明の場合においても同様の手続きを定めており、所有者の全体が把握できなくても適切な森林整備を進めていく、あるいは、林業事業体に再委託し効率的な林業経営を促進することも可能です。地域経済の活性化、公益的機能発揮の両方の側面から制度を措置しているところです。

――森林はカーボンニュートラルやウッドビジネスの観点からも価値が再認識されていますので、同措置により将来的に森林経営の活性化が期待されるのではないかと。

川村 ご指摘の通り地域からの期待はかなり大きいと思われますが、市町村や林業経営に携わるマンパワーが限られている現在、一歩一歩着実な改善を図っていくのが望ましいと思います。ただ、森林経営管理制度の開始に併せて、自治体の財源として森林環境譲与税という新しい税制が措置され、これが奏功して森林経営管理制度の取り組みはかなり進んできているものと考えています。

 森林を有する市町村のおよそ半分くらいで、既に所有者に対する意向調査がスタートしており、20年度末までの2年間で延べ約40万ヘクタールの意向調査が実施されました。その結果、市町村が経営管理の権利を取得したのは今のところまだ3500ヘクタールほどですが、この意向調査を機に所有者情報を整理し、市町村に預けたいと回答した所有者が森林面積にして7万ヘクタールほどに達していますので、今後は市町村の権利取得が加速化していくものと想定されます。

――この問題への対応を進める上でも、国土交通省、法務省など各省庁との連携体制はいかがでしょうか。

長井 所有者不明土地問題に関しては、両省ともこれまで密に連携を図ってきました。さらに、国土交通省に設置・改組された土地政策推進連携協議会(旧:所有者不明土地連携協議会)にも、今年度から農林水産省が参画しています。今後、情報共有や関係自治体・団体等との連携がより円滑化すると想定されます。

――地方自治体との連携は、土地の所有者個人へ、いかに広報・啓発を伝えるか、という点でも重要ですね。

長井 その点、農地に関しては「地域計画」の策定に大きな役割を果たすことになる農業委員会が日々現地で活動しておりますので、われわれは地元の組織・団体への啓発や支援をしっかり行っていきたいと考えています。

川村 森林については、森林経営管理制度の主体が市町村となっているので、先般の相続した土地の登記を義務付けるなどの民法・不動産登記法の改正も併せ、所有者さんへのアドバイスも市町村が担っていくことになると思われます。林野庁としては、法務省作成の啓発パンフレットなどを活用しながら、各自治体に情報提供を行うなど、連携を密にしながら進めていきたいと思います。

――本日はありがとうございました。
                                                 (月刊『時評』2022年8月号掲載)