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東京版Society 5.0 の実現に向けて

 以上を踏まえ、われわれは「スマート東京」の実現に向けた取り組みとして、三つの柱を立てて施策を展開しています。

 一つ目は前述した「電波の道」で「つながる東京」“TOKYOData Highway”。二つ目が公共施設や都民サービスのデジタルシフト、すなわち〝街のDX〟。そして三つ目が都庁のデジタルシフトこと、〝都庁のDX〟です。実は、都庁内部こそまだまだアナログな面が多く、都庁自身のデジタルガバメント化を図ることが行政の効率化につながります。その結果、CS(都民の満足度)とES(職員の働きがい)の相乗的向上が図られ、都民のQOL(Quality of Life:生活の質)が向上することを目指しています。そのためにはハンコレス、ペーパーレスなど行政手続きのデジタル化、ダイバーシティに富んだ人材の確保と育成、デザイン思考やマーケティング手法を採用するなど、開発スタイルのスタンダード化を進めます。そしていつでもどこでも働けるよう、ICTツールを最先端にするなどの具体的方策が考えられます。ことに今般の新型コロナウイルス感染拡大防止の局面においてリモートワークが一気に広がりましたので、直接的な紙のやり取りに付随する押印文化の見直しは、ぜひとも進めていきたいところです。

 実際の「スマート東京」実現へ向け、まずは5Gをはじめとする高速モバイルネットワークと先端技術を活用した分野横断的なサービスの都市実装を展開していく必要があります。そのため、都内五つの先行エリア(西新宿、南大沢、大手町・丸の内・有楽町の都心部、ベイエリア、島しょ地域)において、それぞれの地域特性を生かしたモデルを構築し、やがてはその成果をもとに都内各地へと取り組みを拡大していく、というロードマップを描いています。特に西新宿では、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」における新しい働き方の在りようを模索する動きが始まっています。

今年度予算における実現に向けたポイント

 では、令和2年度(2020年度)予算における、「スマート東京」実現に向けた施策展開はどのようなものか。前述のように今年度を「スマート東京元年」と位置付け、関係予算を元年度の19億円から、約8倍にあたる158億円を計上しました。イノベーション創出のための予算投入を開始し、全庁的なムーブメントを醸成するのが狙いです。主要事業のほとんどを、公共施設や都民サービスのデジタルシフト、すなわち〝街のDX〟が占めています。また、将来の財政需要に備え、500億円規模の基金「スマート東京推進基金(仮称)」を設置しました。

 令和2年度の主な事業としては、例えば前述の“TOKYOData Highway”の一部として、東京2020大会競技会場等における観客用Wi-Fiの整備、などを予定していました。大会時に来場が見込まれる多くの外国人の観客が、必要な情報を円滑に検索・閲覧できるとともに、自らの観戦体験等を発信することで大会盛り上げにも資すると考えています。1年間の延期となりましたので、さらに万全の準備を整えたいと思います。

 次に、〝街のDX〟の主要項目を見ていきましょう。重要なキーワードが前出の、セーフシティ、ダイバーシティ、スマートシティです。セーフシティについては、特に近年、激甚化する災害に対応するため、5GやICTなどの先端技術をより積極的に防災に活用することが求められています。例えば河川状況の鮮明な動画や雨量などをリアルタイムに反映した水防災情報を個人のスマホなどに発信する、また都道にも大雨の時に水が溜まってしまうアンダーパスの個所がありますので、こうした場所にセンサーを設置し被災情報の迅速な共有・提供を実現することなどが考えられます。

 またダイバーシティに関しては、進展する高齢化を踏まえ、医療連携における新技術活用が望まれます。救急活動における5Gの活用、島しょ地域における遠隔医療の実証などがその例です。患者搬送中の救急車から搬送先の医療機関へ、車内映像を伝達できれば、迅速な救急対応が可能になると思われます。来年度以降、5Gの基地局がより面的に設置されるようになれば、これらの構想もかなり実現性が高くなるでしょう。

 さらに、都立学校におけるWi -Fi環境を整備して、全ての児童・生徒がインターネットにつながる環境を実現するなど、〝TOKYO スマート・スクール・プロジェクト〟の推進を図ります。学校内に散在する情報をデータ化し、相互に連携させて可視化・共有・分析することで生徒一人一人に応じた指導を実現し、同時に、学習現場のスマート化によって「学び方」「教え方」「働き方」の三つの改革を進めることを目指します。

 最後のスマートシティにおいては、産業振興におけるICT/5Gの活用が望まれています。東京都では、5Gに関連した製品を開発する中小企業を支援するため、昨年12月24日にローカル5Gの無線局免許申請をおこない、産業技術研究センターにおいて、ローカル5Gを整備し、製品の性能検査や試作品の検証ができる環境を作ります。他にも、先端技術を活用したエンターテインメントの創出や、空き家対策、水道事業におけるICT活用、すなわちスマートメーターの推進などが検討されています。また、5Gとからめて、SDGs、MaaS、次世代ウェルネスソリューションなどの早期社会実装にも取り組みます。さらにソーシャルロボット産業のプロモーション推進事業、次世代電力システムを通じた電力データ活用支援事業なども求められるテーマです。

 デジタルツインという用語を聞かれたことがあるでしょうか。センサーなどから取得したデータをもとに、建物や道路などをサイバー空間上に双子(ツイン)のように再現したものです。フィジカル空間では実現が難しい分析やシミュレーションをサイバー空間で実施することで、フィジカル空間の都市や都民の状況をリアルタイムで把握することができるとともに、将来の障害や故障などの変化予測を、フィジカル空間へのフィードバックが可能となります。前出の五つの先行実施エリアにおいてサイバー空間とフィジカル空間を融合し、その間を“TOKYO Data Highway” で接続、官民連携データプラットフォームや都市OSの構築、AIを活用した分析・予測などによりサービスの質を高めることが可能と想定されます。むろんそれには、都市の3Dデジタルマップ化、官民データプラットフォームの構築などを整えていかねばなりません。

 最後に都庁のデジタルシフトですが、庁内情報のデジタル化に向けて、データの標準化(およびベースレジストリ)、オープンデータ化、データウェアハウスなどから進めます。またスマートフォン、タブレット、AIなどを駆使し、働き方改革に資するシステム環境の改善を図っていくことになります。他には、都庁内でロボットをもっと導入します。清掃ロボットはすでに駆動していますが、これからは警備ロボットの活用に向けた実証実験を行う予定です。

着実な推進を図るために

 以上のような、「スマート東京の実施戦略」において、着実な推進を図るためのポイントは何か。考えられるのは、①推進手法の確立、民間の方とスクラムを組み、世界水準に負けない都市づくりを考えていきます。②執行体制の確保。ICT人材確保が喫緊の課題です。③財源の確保。将来の財政需要に備え、前出の基金を創設しました。④各種取り組みの実施を可能とする制度の整備。世界水準を見据えた制度の整備が急務です。⑤スマート化の取り組みを全国に展開する手法の確立。先行エリアの取り組みと区市町村との連携を通じ、全国の共存共栄を実現する、といったところが重要であろうと思われます。

 このように私たちは、デジタルを通じて、東京をよりつながる街にするよう、日々、施策を講じていく所存です。

荻原 聡(おぎわら さとし)
2019年4月、情報企画担当部長を拝命。主な担当は、ICT を利活用した都民サービスの向上や都庁内の業務の効率化に取り組むと共に、東京都全体の高度情報化の企画と推進。2019年3月までは、シスコシステムズ合同会社で、政府渉外として政府、中央省庁、地方公共団体に対して、様々な政策提言をおこなう。