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【末松広行・トップの決断】後藤正幸(JRA理事長)

的確なコロナ対応で自らの存在意義を高めた日本中央競馬会

ごとう・まさゆき 昭和26年10月3日生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。50年日本中央競馬会入会、63年総合企画室調査役、平成7年ニューヨーク駐在員事務所長、10年国際部国際企画課長、12年ファンサービス事業部次長、16年総合企画部長、18年日本中央競馬会理事、23年日本中央競馬会常務理事、26年日本中央競馬会理事長。
ごとう・まさゆき 昭和26年10月3日生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。50年日本中央競馬会入会、63年総合企画室調査役、平成7年ニューヨーク駐在員事務所長、10年国際部国際企画課長、12年ファンサービス事業部次長、16年総合企画部長、18年日本中央競馬会理事、23年日本中央競馬会常務理事、26年日本中央競馬会理事長。

今号から、前・農林水産事務次官の末松広行氏(現・東京農業大学教授)による、日本の農と食を中心とした幅広い関連事業・産業トップへのインタビューシリーズ「末松広行と語る、危機を乗り越えるトップの決断とは」を展開する。新型コロナウイルス感染拡大が続く状況下において、希望を捨てず事業の活性化を図り、社会・経済・国民生活に寄与している各企業・団体のトップは何を理念とし、この危機をどう乗り越えようとしているのか。第1回目は、感染拡大の初期から的確な対応を図り、前年を上回る売り上げを記録した日本中央競馬会(JRA:Japan Racing Association)の後藤正幸理事長に登場してもらった。

日本中央競馬会
理事長
後藤 正幸

〝競馬開催の継続〟が基本方針



末松 2020年は日本、いえ世界がコロナ禍に見舞われ、あらゆる分野が対応に苦慮したと想定されます。が、その中でJRAは、比較的早期の段階から迅速かつ適切な対応を講じ、コロナのダメージを抑制したと理解しています。後藤理事長にはトップの立場として、なぜそのような対応が可能となったのか、決断と行動のポイントはどこか、等々について当時を振り返っていただければと思います。

後藤 当初、コロナが発生したばかりの頃は、それがまだ身近に迫っていなかったこともあり、今ほどの危機感、緊迫感はなかったというのが正直なところです。JRAの職員には獣医がおり、その中には感染症に関する専門家もおりますので、今後、コロナがどうなっていくのか、意見を聞きながら対応を検討しておりました。それが、2月中旬になり、南アフリカで開かれたアジア競馬会議に出席し、日本に戻ってくるまでの1週間で環境が大きく変わり、同月の最終週には、無観客競馬の実施および現金による勝馬投票券(馬券)の発売の休止を決断することとなりました。

末松 困難な状況下であって、開催についての姿勢はブレることがなかったと。

後藤 はい、私どもの使命は「中央競馬を毎週、予定通り開催する」ことです。付帯の事業運営と合わせ、お客さまへの健全な娯楽の提供という面はもちろん、畜産の振興や社会福祉の増進に寄与するためにも、いかなる状況下であれ開催を継続するため万全を尽くさねばなりません。またJRAの経営、そして競馬に携わる方々の生活にとって開催は必要不可欠なものであると考えています。

 さらに、開催が一度でも、かつ長期的に途切れてしまうと、競馬の存続にとって将来的に重大な影響が生じます。世界の共通認識として、いわゆる「競馬」とはサラブレッド種による主に平地の競走を指しています。一般的にサラブレッドは春頃に生まれて、2年経つ初夏から秋にかけてデビューし、約1年後に開催されるダービーに向けて、その世代のナンバーワンを決めるサバイバルレースを繰り広げます。そのダービーを頂点に、サラブレッドの成長過程に合わせていわゆる三冠競走と言われる競走体系が構築されているわけです。

 従って、システマティックな構造のいずれかに間断が発生すると、これまで継続されてきた競走体系、競走馬の調教・飼養、ひいては優秀な血の継承等に著しく深刻な状況が生じるおそれがあり、その回復には極めて長期の年月を要することになります。われわれにとって「競馬の中断」は、言わば究極の〝あってはならない〟事態なのです。

末松 一口に拡大防止と言っても、その対策は多岐にわたったであろうことは想像に難くありません。

後藤 基本的にはお客さまであれ、関係者であれ、極力、人と人との接触機会を減らすことが求められます。この方針に基づき昨年2月末からの約7カ月間、競馬場へのお客さまのご入場をお断りし、いわゆる「無観客競馬」として開催いたしました。また、競馬場では勝馬投票券を自動発売機で買う場合がほとんどですが、それでも発売機を介して接触する可能性があるため現金での発売も中止に踏み切り、ウインズ等の場外発売所も同様に営業を休止しました。これは本年1月中旬以降、緊急事態宣言が再発令されました地域についても同様の措置を講じています。

 さらに、騎手や調教師等の競馬関係者に関しては徹底した感染予防策を実施しており、例えば競走馬や騎手の、地域を跨ぐ移動を抑制したり、関係者の施設への立ち入りを制限しました。

 これらの制限により、お客さまはもちろん関係各位にも多大なご不便をおかけしましたが、その結果、昨年来1日も止めることなく競馬開催を継続できていますことは、これらの対策の成果が出ているものと考えております。

(聞き手)末松広行
(聞き手)末松広行

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