お問い合わせはこちら

【森信茂樹・霞が関の核心】 枝元 真徹(農林水産事務次官)

オールジャパン体制を整備し農産物・食品輸出のさらなる高みへ

えだもと まさあき/昭和36年3月9日生まれ、鹿児島県出身。東京大学法学部卒業。59年農林水産省入省、平成23年大臣官房秘書課長、25年水産庁資源管理部長、28年生産局長、令和元年大臣官房長、2年8月より現職。
えだもと まさあき/昭和36年3月9日生まれ、鹿児島県出身。東京大学法学部卒業。59年農林水産省入省、平成23年大臣官房秘書課長、25年水産庁資源管理部長、28年生産局長、令和元年大臣官房長、2年8月より現職。

 21年末、農林水産省はコロナ禍に見舞われながらも、農林水産物・食品の輸出額年間1兆円という一つの目標を達成した。現在、さらなる目標を目指し、オールジャパンで取り組む体制を強化している。
 2050カーボンニュートラルにおいても重要な役割を果たし、またスマート化の導入も進むなど、農林水産業は新たなステージに移行しつつある。その最新動向を、枝元真徹次官に解説してもらった。


生産力向上と持続性の担保

森信 農林水産省は2021年7月に一部改組して、食料産業局の輸出関係部門と国際部を合わせて「輸出・国際局」に、畜産分野を除く生産局と政策統括官の業務を合わせて「農産局」に、そして畜産部を「畜産局」へ改組・強化させるなど三つの局を再編したほか、大臣官房に「新事業・食品産業部」と「環境バイオマス政策課」を設置しましたが、この目的についてお願いします。

枝元 大まかに言えば、後述する農林水産行政の政策課題に対応した組織体制へ再編したと言えるでしょう。長期的視点に立つと、農業生産力の向上と持続性の担保を両立させていくことが非常に重要な課題となります。

 この場合、持続性には二つの観点があります。一つは農業生産者の方々の高齢化が進み、かつ人口減の局面を迎えている中で食料の安定的な供給を図るには、生産体制の基盤となる農地や人材をきちんと担保すること、もう一つは気候変動など環境変化が激しさを増す中、自然を相手にする農林水産業は大変大きな影響を受けるため変化への対応を探る必要があること、の2点です。生産力を向上させながら持続性担保を図る、この命題に対応するべく省内の体制を改めた、ということになります。

森信 「輸出・国際局」を設けたのは、農林水産物・食品輸出の振興を強化する目的があるように思われます。

枝元 はい、国内需要の伸びが期待しにくい一方、海外では人口、生活水準向上などによる巨大な市場が存在し、今後も日本食の需要増が見込まれます。生産基盤の持続性を鑑みるなら、やはり需要のあるところへの供給、すなわち輸出が重要な政策となるため、これまで一部の局で担当していた輸出振興にさらに注力すべく、輸出の名を冠した新しい局を設置したという次第です。従来の国際部が、ある意味で守りに比重を置いていたのに対し、輸出と国際をつなげることで、攻めと守りを兼ね備えた部局を立ち上げました。

森信 では、農業生産関連が「農産局」として集約されたのは。

枝元 旧・生産局では主に野菜や果実、また局内部に畜産部を内包する形で畜産を担当し、旧・政策統括官部局ではコメや麦など穀物を取り扱っていました。

 ただ、コメに関してはご案内の通り需要が減っており、水田の保全や利活用は従来から課題として位置付けられてきました。今後さらに生産力向上や持続性担保の観点から、水田を少ない人数で維持し利益が上がるようにしていくためには、水田に野菜を植えるなど、需要があり付加価値が高く定着性のある農作物を作っていくことも新たなテーマになります。そう考えると、コメや野菜、園芸などが分化していた体制を見直してこれを統合した方が合理的であろう、との観点から「農産局」として再構築しました。

 一方、畜産は今や日本の農林水産物の中でも大きな生産高を占め、後述するように輸出も急伸していますので、一つの局として独立させるべき、との方向性に至りました。

 あわせて大臣官房の中に環境バイオマス政策課を作りました。ここがまさに、環境政策の司令塔となります。

輸出を拡大すると自給率も向上

森信 食料自給率向上も積年の課題の一つとされてきました。一方でコメをはじめ農産物の国内需要が下がりつつあるにも関わらず自給率向上を目指すのは、どうも現状と目標とが合致していないような気もします。

枝元 食料自給率の計算方式は種々ありますが、一般的に取り上げられるカロリーベースを基準としますと、野菜や果実などはカロリーがあまり無いので生産を伸ばしても食料自給率向上にはほとんど寄与しませんが、生産額ベースでの向上につながります。日本が輸入している農産物を国内産物に置き換えていくのが大事なことの一つで、これは自給率の向上につながります。

 では具体的に何の農産物を置き換えていくのか。例えば加工業務用の野菜です。家庭内で消費する野菜は国産が主ですが、加工食品や外食産業で使っている野菜などは海外からの輸入が多いので、これを国産に換えていくことが考えられます。それにはコストなどクリアすべき問題もありますが、自給率向上を引き続き目指す上でも対策に取り組んでいかねばなりません。

森信 自給率自体はどのくらいなのでしょう。

枝元 現在、カロリーベースで37~38%あたりなのですが、これを2030年度段階で45%にするのが目標です。

森信 農産物の輸出拡大との関係性はいかがですか。

枝元 輸出を伸ばすと、自給率も向上します。日本で作った農産物を国内で消費するか、海外に輸出するかは問いません。農地の保全や活用を図る上でも輸出は大事ですし、それは即ち食料安全保障の指標でもある自給率の向上にも直結します。

森信 20年冒頭からの新型コロナウイルス感染拡大の影響はいかがでしょうか。

枝元 コロナ発生以後、いろいろな面で消費の構造が変わりました。その対応が当面の課題となります。

森信 コメ等の消費への影響などは。

枝元 コロナ発生当初は家庭での消費量が増えたのでしょう、一時的に需要が高まったのですが、ほどなく元の状態に戻り今は在庫余剰の状況です。これに対しては21年度の補正予算でも在庫対策を講じました。

 その他、家庭消費が中心の産物はまだ需要を維持できているのですが、水産物、和牛、生乳、ワサビなどのいわゆる〝ツマもの〟、冠婚葬祭用の花など業務用中心の品目は需要が大きく減少し、価格も下がりました。連動して業務用産物を扱う飲食店関係への影響も甚大です。

森信 コロナ禍で問題となったのが、消費者に近い飲食店などには持続化給付金などの手当てがなされるものの、供給に携わる農業生産者には支援が行き渡らない、ということでしたが。

枝元 農林水産省としては20年度以来、補正予算等で農業生産者の方々に対し、事業の継続や外国からの実習生が来日できないことを補う労働力の確保、需要減を抑制するため消費の促進や、それに表裏する在庫の対応、〝子ども食堂〟やフードバンクの支援など、さまざまな対策を講じてまいりました。さらに、コロナの影響により、なかなか継続が難しいものの、21年度3次補正予算では、主要な対策である〝Go To Eat〟事業の再開も打ち出し、また、販売促進対策も引き続き講じていきます。












もりのぶ・しげき 法学博士。昭和48年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学教授、東京大学客員教授、東京税関長、平成16年プリンストン大学で教鞭をとり、17年財務省財務総合政策研究所長、18年中央大学法科大学院教授。東京財団政策研究所研究主幹。著書に、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)、『日本の税制』(PHP新書)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除日本 型児童税額控除の提言』(中央経済社)等。日本ペンクラブ会員。