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【時事評論】新政権は米国大統領選後に備えよ!

pixabay
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「切所」に向けて主体的戦略を考え抜く時

 今年11月3日、米国大統領選が行われる。

 思い起こせば、前回の米国大統領選は4年前の11月8日であった。

 4年前の選挙で、各種世論調査などに基づく(希望的観測とは断じられない)大方の予想を覆し、ドナルド・トランプ氏が選挙戦に勝利して、第45代米国大統領の座を獲得した。

 当時、トランプ氏は、不動産王として成功を収めてはいたが、むしろ人種差別的発言や女性への偏見に満ちた数々の言動でより知られており、異色の共和党候補として、正統派エリートの前国務長官であるヒラリー・クリントン民主党候補に挑み、勝利したのであった。

 その後、早くも4年間という時間が経過しようとしている。この間、トランプ大統領は、多くの疑惑の視線や非難も浴びたが、それでも「アメリカ第一主義」を標榜して強固な支持層を維持してきた。

 他方、今回の挑戦者となる民主党候補は、オバマ大統領時代の副大統領であったバイデン氏。4年前の米国大統領選では、立候補も取り沙汰されたが不出馬。結局、ヒラリー・クリントン氏を支持した。

 こうした両者が戦う今回の大統領選の結果を予想することは、もちろん容易ではない。

 前回、各種世論調査の結果に基づく大方の予想を覆したトランプ氏であれば、今回もまた、世論調査における劣勢との下馬評を覆して再選される可能性も大いにある。

 他方、バイデン氏が有利と見られているのは、誤解を恐れずに言えば「敵失」であって、決して彼本人が強い候補というわけではない。

 高齢で、演説が上手ではなく、今年2月3日の民主党指名候補選びの初戦であるアイオワ州党員集会では、何と4位に沈み、その後も苦戦。最終的にサンダース候補の支持を取りつけて民主党の大統領候補の立場をやっと得るに至った。

 このように見てくると、いずれの候補が勝利するのか、最後まで予断を許さない。まさに選挙は水物の典型である。

 しかし、いずれが勝利しても、ほぼ確実に言えることがある。それは、次期米国大統領は、これまでにも増して多難な時代に直面するということだ。

 内政においては、すでに米国民の分断と対立が深刻化しており、その修復が急がれるが、これは容易な課題ではない。また、新型コロナウイルス感染症拡大によるダメージは、社会的にも経済的にも大きく、これを乗り越えていくリーダーシップが求められる。

 外政に目を転じれば、中国との覇権争奪戦が激化しており、戦略的対応が求められる。中国との覇権争奪戦は、米国と他の国々との関係にも影響を与えることは必至であり、この点でも次期米国大統領は神経をすり減らすことになろう。

 こうした中、仮に、トランプ氏が再選されれば、過去4年間の延長線上で政策が展開されることになろう。それが、国際社会にとってスタンダードではない、時として波乱を引き起こす異質なものであることは、私たちがすでに経験してきたことだ。

 他方、仮に、バイデン氏が勝利すれば、良くも悪くも剛腕を振るったトランプ氏と異なり、どれだけのリーダーシップを発揮することになるのかは未知数だ。

 いずれが勝利しようとも、日米安全保障条約を基盤とする長年の同盟関係にあり、政治的にも経済的にも米国とは切っても切れない関係といっていいわが国にとって、「切所」「難所」を通り抜けていかざるを得ない時代がすぐそこに迫っている。

 ここで指摘したい問題は、私たちがそうした認識を十分に持って、長期的戦略を考え抜き、その実行に必要な準備を進めているか、ということだ。

 日本は、トランプ政権とのリーダーレベルでの信頼関係を築こうという努力を重ねてきたが、仮にバイデン氏が当選した場合(現在のところ、下馬評ではその可能性の方が高い)、どのようなネットワークに依拠して情報を収集し、働きかけ、どのような戦略に依って日米関係を構築するのか。

 そしてまた、米中の狭間で、日本はいかなる立ち位置をとるべきなのか。

 隣国の中国が覇権争奪に向けた動きを活発化させ、北朝鮮の動向も穏やかではないという厳しい国際環境の中、経済的にも苦境にある日本が、ここで誤ったメッセージを発すれば、取り返しがつかないほどのダメージとなるおそれすらある。

 しかし、残念なことに、そうした認識に立って、万全な戦略的備えができているようには、思われない。

 かつて大平総理大臣は「環太平洋連帯構想」「総合安全保障」など、骨太な戦略的構想を明確に打ち出していった。

 それは、場当たり的な対応や人気取りのための取り組みではなく、知的分析と政治的熱意とに基づくものであり、今日から振り返っても有益な成果につながっている。

 米国大統領選後の「切所」に備え、今こそ、こうした戦略的グランド・デザインを考え抜いた上で、米国との関係を主体的に構築していくべきである。

 日本の新たな政権の担うものは、極めて重い。
                                                (月刊『時評』2020年10月号掲載)