
2026/01/06
高市政権が誕生した。
高市総理大臣は、政権成立直後から華々しい外交デビューを成功裏に果たしたが、内政面では「物価高対策」への取り組みが優先課題とされている。
すでに、自民党や立憲民主党など与野党6党は、ガソリン税の暫定税率(1リットルあたり25・1円)を12月31日に廃止することで合意したと伝えられ、軽油引取税の暫定税率(同17・1円)も来年4月1日に廃止するという。
物価高対策の第一弾とも位置付けられる動きであるが、減税方針が与野党間で決定された時点では、その財源をどうするかは置き去りにされて決まっていない。
他方、物価高対策を眼目とする補正予算の策定指示もすでに高市総理大臣から出されている。
自民党が掲げた一律2万円の給付金は先の参議院選挙において国民の賛同を得られなかったとして見送られることとなったが、連立を組む維新の意向も踏まえて、相応の規模の補正予算となるという。
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げているが、何をもって「責任ある」とするのであろうか。
現下の日本経済は、決して需要が不足しているわけではない。
従って、ケインズ経済学が主張する「国家の財政出動によって有効需要を生み出す」ことは、現下の日本経済への処方箋にはならない。
むしろ、現在の日本経済の課題は、供給能力の制約であり、ここに取り組むサプライサイドの成長政策とそれを裏打ちする予算こそが求められるはずだ。
また、国民生活の面から言えば、実質所得が減少していく現状の大きな要因は、インフレに他ならない。
先に触れた供給能力の制約もインフレの要因の一つではあるが、エネルギーも食料も自給率が低く輸入に頼らざるを得ないわが国において、インフレの大きな要因が円安であることは論をまたない。
円の主要通貨に対する相対的な値動きを貿易量や相対的物価水準を基にして算出する「実質実効為替レート」で見ると、2005年を100として、足元では50台後半にまで円安が進んでいる。
1995年4月に150を上回る最高値をつけてから、およそ3分の1の水準にまで円は減価したことになる。
国内で株価が上昇した、不動産価格が上昇した、というニュースは、景気がよいことを示すのではなく、そうした資産に対する通貨「円」の価値が下落していることを示している。
だから、外貨の力によって、海外勢が日本の株や不動産を多く買っているのだ。
そして、このような異次元の円安傾向とインフレの要因が、政府の財政拡張と日銀の金融緩和にあることは、基本的な経済学が教えるところである。
ところが、日銀は10月末の金融政策決定会合において、6回連続となる政策金利の据え置きを決定した。
その後の植田総裁の記者会見中に、1ドル=152円から154円台まで円安が急速にさらに進んだことをどう見るのか。
他方で、高市政権は積極財政を基本姿勢としていると見られており、市場は株高と円安をもって応えている。
これでは、円安とインフレはいつまでも収まらず、国民の生活苦と格差拡大が続くことになるのではないか。
ここで手を打たない限り、いかなる物価高対策も弥縫策とならざるを得ないであろう。
米国のベッセント財務長官は、異例なことに、日本の金融政策に関して「日本政府が日銀に政策余地を認める姿勢は、インフレ期待を安定させ、為替の過度な変動を回避する鍵となるだろう」という控えめだが意図するところは明確なメッセージを10月29日に発した。
日銀は、春闘の動向を確認したいというが、その姿勢こそがインフレを助長し、インフレと賃上げの競争に悪い影響を与えて実質賃金の上昇を阻害するであろう。
今、高市政権に求められることは、ベッセント財務長官の異例な、しかし正論である金融政策に関するメッセージを真摯に受け止め、他方で財政政策における「責任」の在り方をまっとうな理論に依拠して考え抜くことだ。
そして日銀には、金融緩和的姿勢を継続することが円安とインフレに直結している現実を直視し、責任感を持って適切に対応することが求められる。
もちろん、こうしたマクロ経済の政策ミックスは、一時的に経済的な困難をもたらすかもしれない。
しかし、現下の悪循環を断ち切って、日本経済と国民生活を正常な軌道に戻すためには、そうした「苦い良薬」こそが必要である。
物価高対策として求められることは、国民に一時的な忍耐を求める恐れがあろうとも、国家財政の悪化や金融緩和的姿勢の継続によって加速しかねない円安とインフレを抑え込む「苦い良薬」となる財政・金融のマクロ政策の転換なのである。
(月刊『時評』2025年12月号掲載)