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【時事評論】ここがロードス島だ。ここで跳べ!

待ったなしの財政再建に取り組め

Pixabay
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 財務省によると、国債や借入金、政府短期証券の残高を合計した「国の借金」は今年6月末時点で1255兆1932億円に達した。

 過去最大であった3月末時点からわずか3カ月で13兆8857億円増加し、ワースト記録を更新したことになる。

 7月1日時点の人口推計(1億2484万人)を基に単純計算すると、国民一人当たりの借金は約1005万円となり、初めて一人当たりの借金額が1000万円を超えた。生後すぐの赤ちゃんから高齢者まですべての日本人が1000万円超の借金を抱えていることになる。

 こうした「国の借金」の貸し手は、日本銀行が約40パーセントを、その他の民間金融機関(銀行と生損保)が約35パーセントを占めている。家計はわずかに約1パーセント、海外勢はだんだんと増加して約13パーセントとなっている。

 そもそも「中央銀行による国債引受は悪性のインフレーションにつながる」という歴史的教訓を得て、先進国では「国債の市中消化の原則」が確立してきた。

 わが国でも日本銀行による国債の引受は、財政法第5条によって原則として禁止されており、例外的な場合に同条ただし書きで認められている。

 しかし、実質的には、その例外と原則が入れ替わって久しく、日本国債のおよそ半分は日本銀行が保有しているのが実情だ。

 ここまでバランスシートが肥大化した日本銀行が抱えるリスクは、日本銀行にとっても、日本経済にとっても、計り知れない。

 その元凶は、国債の大量発行に頼らざるを得ない「国の借金」体質にもある。国が健全な財政状況にあれば、日本銀行も無理な形で国債を抱え込む必要はないはずだ。

 このような状況を目の当たりにしてもなお、まだまだ大丈夫と信じたい人はいるようだが、「フリーランチはない」という単純な真実は揺るぎようがない。

 他ならぬわが国における歴史的事実として、先の大戦中に発行された国債は日銀の引受となっていたが、その結果はハイパーインフレーション発生と、そして預金封鎖および新円切り換えにともなう財産税などによる「償還」であった。

 「国の借金は国民の借金ではない」と嘯く方々は、国の借金の最終的な担保が徴税権であることを忘れている。

 「国には資産もある」という人たちは、その資産がけっして流動性のあるものとは限らないことを看過している。

 MMT(現代貨幣理論)による「政府に通貨発行権がある以上、政府が自国通貨財源の不足や枯渇に直面することはありえない」という主張を一面的かつ中途半端に理解したとしか思えないような都合のよい「いくら国債を発行しても円建てなら大丈夫」「躊躇せず財政出動」という勇ましいが、歴史的・実証的な裏付けのない声は、経済活動の根底を脅かすリスクだ。

 誤解もあるようだが、MMTも財政規律を不要と主張しているのではない。ただ、その基準が財政状況自体ではなく、国民経済の有効需要に対する供給能力にあるとしている。

 換言すれば「インフレを尊重した供給制約に基づく財政規律が必要である」という主張であり、MMT信奉者といえども、現下の日本経済のインフレが亢進する情勢を鑑みれば、財政規律の重要性を指摘せざるを得ないはずだ。

 お金が必要なら刷ればよい、一万円札1枚なら20円前後でできる、などという主張は、ことの重さに責任を持たない点でかつての「赤紙1枚一銭五厘」と同種の主張であろう。

 もちろん、財政需要は存在する。例えば、安全保障環境が厳しさを増す中で、真に必要な防衛費増額は行うべきだろうが、その財源は、その必要性を国民に説明した上での増税であるべきだ。

 増税というと、その前に無駄を省けとか、政府がまず身を切れといったお決まりの主張が出てこよう。

 しかし、無駄を省いて何とかなる規模でもない。また、乾いたタオルをさらに絞ろうとすれば、貧すれば鈍すで、ますます政府に優秀な人材が集まらない、残らないという問題が深刻化するだろう。

 政治の責任は、ポピュリズムに耽溺せず、財政の実情を語り、待ったなしの財政再建に取り組むことだ。

 カール・マルクスは、見当もつかないほど革命の目的が大きいので、革命は何度も尻込みを繰り返すと言った(「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」)。

 確かに、実現できるかどうかの見通しも立たないほどの課題を目の前にすれば、どうしようかと逡巡し、他事にかまけて大きすぎる課題から目を逸らしてしまうことも人の常だ。

 わが国の財政再建も、歴史をふり返ってみれば、問題が大きすぎて尻込みをしてしまうことを繰り返してきた。

 しかし、マルクスは、同時に、尻込みしなくなるのは、どんな後戻りもできない状況になったときだ、とも述べている。

 わが国の財政状況は、まさに待ったなしで、尻込みせず、現実を直視して再建に取り組むべき状況だ。マルクスにならえば、現実がこう呼びかけている。

 ここがロードス島だ。ここで跳べ!
                                                (月刊『時評』2022年10月号掲載)