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【時事評論】チャイナ・リスク?

5月の邦人拘束の本質は何か

pixabay
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 木原稔官房長官は、今年6月24日午前の記者会見で、日本人2人が5月に中国で税関当局に拘束されたと明らかにした。

 詳細は、捜査中の案件であることやプライバシー保護のためとして、明らかにしなかったが、その後のマスコミの取材等によって、拘束されたのは重電大手の富士電機株式会社の関係者と伝えられている。

 拘束の理由は、中国の大連において「国家輸出入禁止貨物密輸罪」に抵触した容疑であり、拘束したのは税関当局だという。

 中国が対日輸出を規制しているレアアース(希土類)に関連する事案とされており、一部では、経済安全保障に関わるチャイナリスクの顕在化だ、中国でのビジネス環境は不透明だ、などという議論が聞かれる。

 中国による邦人拘束としては、例えば、2023年に中国で拘束され、スパイ罪で起訴されたアステラス製薬社員の日本人男性(60歳代)が、昨年7月に懲役3年6月の実刑判決を言い渡されるなど、共産党の統治体制維持を含めた「国家の安全」を最優先課題に掲げて14年に施行された「反スパイ法」違反の事例が多く、これまでに「スパイ行為」などを理由に拘束された邦人は少なくとも17人に上る。

 こうした「スパイ行為」を理由とした邦人拘束は、その後の中国における裁判においてそのすべてが有罪とされたわけでもなく、確かに恣意的ではないかとの疑いもある。

 しかし、今般の税関当局による富士電機関係者の拘束は、そうした「スパイ行為」を理由とするものではなく、ある意味で単純な貿易関係の法令違反を理由とするものだ。実際、拘束は逮捕となり刑事手続きに移行している。

 その具体的な詳細は、今後の裁判において明らかになるであろうが、輸出に関する法令違反となれば、拘束された邦人2名だけではなく、彼らが所属する富士電機の関連会社も法人として起訴される可能性がある。

 邦人2名の拘束を認めた中国政府に「日本は在中国の日本人や日本企業が中国の法律や規則を守るよう教育すべきだ」と公に言われた日本政府としては面白くないであろうが、厳しく言えば、ことの発端は富士電機関係者による犯罪の疑いである。

 逆に、中国企業の子会社などが日本の貿易関係の法令に違反すれば、必要に応じて逮捕・起訴していくことは当然である。それぞれの国家主権をあいまいにすることはできない。

 こうした意味合いにおいて、中国の刑事司法が信頼できないなどという議論は別にあろうが、今回の邦人拘束をチャイナリスクだ、中国ビジネスはこわい、というのは違う。

 ましてや、当事者たる富士電機の現地関係会社に中国の司法権がどこまで及ぶかという問題はあるが、別個の法人とはいえ当該会社を連結対象とする富士電機株式会社が、あたかも被害者であるかのように一方的に論じることは間違いだ。

 本事案について、木原官房長官の発表を受けて、拘束された者が富士電機の関係者であることが報道されてもなお富士電機株式会社は「ノーコメント」との立場を継続していると報じられているが、関係者が国内において犯罪容疑で逮捕されれば何かしらのコメントを出すのが通常であることを思えば、理解に苦しむほかはない。

 拘束が5月であったにもかかわらず、木原官房長官の発表が同社の株主総会当日まで行われなかったことも不可解であるが、今後、中国における裁判で事案の内容がまさに言い逃れのできない法令違反であったことが明らかになった場合、この事案を粛々と企業犯罪であるとして対応せず中国批判の材料としていると、さらに日中関係に悪影響を及ぼす事態を招くのではないか。

 他方で、チャイナリスクという観点からは、今回の拘束事案の背景となった中国によるレアアースの輸出規制こそが議論されなければならない。

 レアアースは、スマートフォンやモーター、さらにはレーダーに及ぶまで、さまざまな分野で必要とされる重要物資だ。

 その採掘、精錬、加工に至るまで強みを持つ中国が、レアアースの供給を武器化して、自国の外交的利益のためにグローバル経済の健全性を阻害している現状こそが、チャイナリスクの本質である。

 当然ながら、そうした「武器化」を無効化するための努力を日本政府がいわゆる同志国と連携して行っていることは正しい。

 オーストラリアやアフリカからの調達ルートを確保して供給元を多様化しつつ、精錬施設を国内で確保するなどの取り組みや、レアアースを使わなくともよい技術開発の推進などは、日本政府として継続すべき努力だ。

 さらに、世界第2位の経済大国となった中国に対して、グローバルな責任を自覚させる努力も、当然ながら、日本政府として継続すべきだ。

 そうした取り組みを台無しにすることがないように、今回の富士電機関係者の拘束事案については、その本質が中国の国家主権下における日系企業の輸出関連法令違反の疑いだということを明確に認識して対応すべきだ。
                                               (月刊『時評』2026年8月号掲載)