
2025/06/06
今年の1月末から、米国のトランプ政権によって世界の秩序はメチャクチャになったと言っても過言ではありません。まだ4カ月も経っていないのにこれほど大きな変化があるのは、もしかしたら1945年以来ではないかと思います。このままいくと米国は多くの国の敵になってもおかしくない状況です。すでにEUとの関係は崩れてしまいました。トランプ大統領本人だけでなく周りの閣僚の発言も、ほとんどの場合が火に油を注ぐことになってしまっています。J・D・ヴァンス氏は副大統領として初めての欧州での演説で、EUの国々を厳しく批判しました。表現の自由が制限されすぎて、もはや民主主義ではないとまで言ったのです。これはEU加盟国の国民にとって非常に大きなショックでした。
この時はまだ「口撃」に過ぎませんでしたが、その後に行動が来ました。追加関税の措置です。同盟国かどうかにかかわらず、全ての国が対象です。日本政府は当初、米国の最大の同盟国だから対象外になると思ったかもしれませんが、残念なことにトランプ大統領は「敵より友の方が酷い」と発言してしまいました。明らかに日本も含めた同盟国をターゲットにした表現です。トランプ大統領らしい言い方ですが、間違いなく本音でしょう。こうした態度に対して日本政府は何をすればいいか、極めて深刻な問題です。
EUの場合は1対1ではなく、27カ国の中で意見が異なる国があるにもかかわらず、数カ国が連携して米国への対応戦略を決定するなど、対抗力があります。また、フランスはこれまでも米国に「ノー」と言ったことは何度もあります。今回はEUとして報復関税も決定できるし、GAFAM(Google、Apple、Facebook(現・Meta) 、Amazon、Microsoft)の活動を制限する措置も取れます。イーロン・マスク氏がEUの国へ内政干渉的な発言をした時には、EUの首脳らがすぐに異議を唱えました。つまり、米国が強国だとしても、われわれも強いという姿勢を示すことができるのです。防衛面ではEUはまだ道半ばですが、トランプ政権のとんでもない政策を危惧し、米国への依存度を低くするために具体的な動きを進めています。
それに比べて、日本はより厳しい状況にあります。安全保障は米国に任せているから、トランプ大統領の怒りを招かないように慎重です。批判もしない、報復関税もしない、むしろ米国に対してより優しく、米国の要求に応じるために努力します。対立を防ぐのは良いことだとは思いますが、相手がどう受け止めるかによって有利性が左右されてしまいます。「アメリカファースト」と繰り返しているトランプ大統領は、相手国の優しさを理解しません。今まで、日本の企業は米国で多くの工場を建て、数百万人規模の雇用を創出しました。それでもトランプ氏にとってはもの足りない状況です。貿易赤字が大きな黒字にならない限り、満足しないでしょう。でも、そんな要求に応じることは無理があります。
現在の日本の対米政策がいかに国内に悪影響をもたらすか、よく考えた上で決めるべきですが、もはや時間がありません。車、自動車部品、アルミや鉄を対象とする追加関税はすでに実施中です。他の商品に対するいわゆる「相互関税」よりも、車などへの関税が及ぼす影響の方が大きいのです。米国が問題視している貿易赤字を解消するために、米国の飛行機や武器、ガス、石油などをたくさん買う方法もありますが、必要ないものや気候変動を悪化させるエネルギー資源を輸入しても何のメリットもありません。いずれにしても日本にデメリットがあるなら、どうすればデメリットがより少なくなるかを考えなければいけません。日本の利益を守る目的で、独自に米国と交渉するべきか。それともEUと連携して対抗するか。あるいはASEANと組んで米国と話し合うか。選択肢はあるのです。
米国との関係を重視しすぎると、米国の家臣になってしまうリスクがあると同時に、他国との関係が悪化する可能性も否定できません。個人的には、日本はASEANあるいはTPPの加盟国と連携し、数カ国のグループとして交渉した方が有利だと思っています。連携せずに独自交渉するなら、批判されかねないでしょう。「自由で開かれたインド太平洋」実現のためには、米国と日本だけでなく、むしろその地域の他の国々の役割が重要です。バランスをとるのは難しいことですが、EUやアジアの国を軽視したら良くない方向に進む危険性が高い。なぜなら、トランプ政権は今後、独裁政権に近づく可能性がゼロではないからです。日本はある程度、距離を置いた方が良いと思います。
批判すべきことは批判する。これは独立した国家の正しい姿勢です。4年間我慢すれば大丈夫だと思ったら大間違いです。トランプ氏本人の年齢などを考えると米国の首脳として長く続かないかもしれませんが、周囲の閣僚、特にヴァンス副大統領はまだ40代で、より極端な考え方を持つ人物です。長い目で見たら、日本はこれを機に米国への依存度を小さくしながら、中国との関係を改善していく――これが、世界が望んでいることではないでしょうか。
日本の役割は、戦争する国と連携し、戦争できる国になることではありません。戦争が起こらないように多くの国と対話の機会を設けて「アジア地域の良好関係」の司令官になってほしいのです。
(月刊『時評』2025年5月号掲載)