
2026/02/06
11月7日をきっかけに悪化した日中関係は日本と中国に限らず、欧州でも米国でも注目されています。「台湾有事」についての高市早苗首相の答弁は、中国にとってレッドラインを超える言葉でした。首相の支持者にとっては特に問題のある発言ではありませんが、野党からすると、首相が具体的な台湾有事のシナリオを国会で説明するのは無責任でした。
外国のマスコミには「当たり前のことしか言っていません」というコメンテーターもいれば、「言ってはいけない答弁でした」と反論する記者もいます。冷静に考えれば、首相の答弁はアドリブで曖昧な表現でした。言わなければよかったと思いますが、ここまで危機に繋がったのは残念です。
外交の成功の秘訣は、相手のことをよく知った上で、相手をあおる言葉をなるべく避け、デリケートなことを言いたいなら良いタイミングおよび良い場所を選ぶことが大事です。今回の答弁は、まさにこの二つの条件を満たしていませんでした。直接中国に向けた言葉ではありませんでしたが、国会における閣僚の答弁は他の国の外交官も注目します。高市首相に質問した元外務大臣の岡田克也さんもその状況をよく存じています。台湾のことは特にデリケートな話題だからこそ注意すべきでした。首相として経験がまだ浅い高市さんは、その面で甘かったかもしれません。
言うまでもなく、答弁の直後に中国の駐大阪総領事がXに投稿した、高市首相を脅迫するかのような反発メッセージは許されない暴言でした。強く批難して当然です。ただ、最も大事なのは、関係がさらに悪化しないために力を入れることです。難しい対応ですが、日本は50年前から中国とやりとりしていますから、相手のことをよく知っているはずです。しかし今回の危機において、その知識を駆使した様子は見られませんでした。つまり、対応は明らかに冷静ではなかったのです。例えば、「台湾に関する日本政府の立場は変わっていない」と日本政府は強調しましたが、具体的にその立場の内容に触れませんでした。問題となった答弁の数週間後、ようやく「1972年の日中共同声明の通りであり、この立場に一切の変更はない」と首相が明らかにしました。その上で声明を引用すれば良かったのですが、そこまで言及しませんでした。とはいえ、もっと早く首相が72年の声明を参考に答弁すれば、中国が許さなかったとしても、他国と海外メディアからは、日本の立場はより明確に理解されたのではないでしょうか。
中国側のエスカレーションを防ぐ戦略が必要ですが、今までのところ日本は逆に、より反発を招いてしまいました。自衛隊の戦闘機が中国の戦闘機にレーダー照射された問題も対応の仕方が問われています。日本の小泉進次郎防衛大臣がこの照射問題を公表しましたが、公表が必要だったかは疑問です。日本政府としては「中国が危険行為を起こした」と説明して国際社会の理解を得るという狙いがありました。ただ、口で説明するだけではなく、説得力のある証拠を見せながら行為の危険性および非合理性を証明すべきでした。日本国民からすれば日本政府の方が信頼でき、反論する中国政府が嘘をつく側だと思いがちです。しかし、第三者は必ずしもそう思うわけではありません。思い込みを持たず、それぞれの発言内容を聞き、証拠を分析して冷静に考え、どちらが信憑性や説得力があるかを判断します。中国が嘘をついていると決めつけることはありません。
情報戦争において、日本政府は何らかのセンシティブなことを公表する際、相手の反応を想像した上で戦略を考えて準備しないと負けてしまいます。レーダー照射問題の場合、中国が録音された事前の無線通報を公表し、結果的に日本政府は「連絡がなかった」と言ったことを修正しなければなりませんでした。つまり、日本政府が事実と異なることを言ってしまったことが明るみに出たのです。
また、高市首相に対する中国の反発の厳しさは、高市氏の過去の発言も一つの原因ではないかと思われます。数年前のインタビュー内容や本人の書籍を読んだら、「台湾有事」が何度も取り上げられており、「私は総理大臣になったら、台湾と共同訓練します」などの発言もあります。普通の外国人記者である私が知っているのですから、中国の外交官もこれらの内容をよく知っているのは間違いありません。中国は、台湾をめぐる高市氏の本音は日本政府の立場と違うと確信しているはずです。高市氏を支持している記者や評論家が中国を批判しているのも、高市首相の評判に悪影響を及ぼすものです。だからこそ高市政権は、外交面で中国と太いパイプのある方々のアドバイスをよく聞き、表現と行動を注意すべきです。軍事力の強化を自慢することは真逆の効果になってしまいます。
(月刊『時評』2026年1月号掲載)