
2026/06/03
環境省は2026年2月16日、第3次気候変動影響評価報告書を公表しました。報告書のポイントをこう説明しています。「本報告書は、気候変動が日本にどのような影響を与えうるのかについて、科学的知見に基づき、全7分野80項目を対象として、影響の程度・可能性等(重大性)、影響の発現時期や追加的な適応策への意思決定が必要な時期(緊急性)、情報の確からしさ(確信度)の3つの観点から評価を行ったものである」。
非常に詳しい情報が記載された約150ページにわたる報告書の一部でも読めば、楽観的な内容ではないことがよく分かります。全7分野80項目のうち、52項目(65%)が現状で「レベル2(重大な影響が認められる)」、さらにそのうちの23項目(29%)が「レベル3(特に重大な影響が認められる)」と評価されました。報告書では「気候変動の影響が将来のことではなく、既に顕在化しており、早急な対策が必要であることを示している」と強調しています。
日本に限らず、全世界が深刻な状況であるという現実が認識されています。問題は、対策です。米国のトランプ大統領は気候変動そのものを否定していますから、米国が良い役割を果たすことはしばらく期待できません。EUおよび日本の方が対策をとって世界をリードできるはずですが、本当にそうなるのかは疑問です。EUの場合、27カ国それぞれの国の状況が異なるので、必ずしも意見を共有しているわけではありません。それでも2040年までに温室効果ガスの排出を、1990年比90%削減を実現する目標に合意しました。また2050年に「カーボンニュートラル」を達成することも目指しています。日本もそうです。ただ、その極めて難しいゴールまでの道のりは平坦ではありません。
しかも、最近の国際秩序の変化で状況はさらに厳しくなりました。気候変動の影響よりも経済のリスクが重視されがちな今の世界では、すでに地球温暖化への対策を緩和するところが出てきています。たとえばホルムズ海峡が事実上封鎖された直後に、日本政府は二酸化炭素(CO2)を多く発生させる非効率な石炭火力発電所の稼働制限を今年の4月から1年間限定で解除しました。とても早い段階で、何の議論もなくそういった決断をしたことは非常にまずいと思います。特に気になっているのは国民への説明です。有識者会議で配布された資料によると「中東情勢を踏まえると、今後のLNG調達について不確実性が高まっていることから、石炭火力の稼働を高めることでLNG燃料等を節約し、安定供給に万全を期す。このため、容量市場における非効率石炭火力の稼働抑制措置を、緊急的な対応として、2026年度においては適用しないこととする。一定の仮定で試算すると、これによるLNG節約効果は約50万トン」ということでした。とても説得力がある説明とは言えないと思います。なぜならホルムズ海峡は、LNGの輸入においてそれほど重要ではありません。政府によると、ホルムズ海峡を経由するLNGの年間輸入量は約400万トンで、日本のLNG輸入量全体の6%程度です。つまり、50万トンの節約は日本のLNG輸入量全体の約0・75%。ゼロよりマシなことは事実ですが、そのわずかな節約のために地球に優しくない石炭火力発電所を稼働することにしてしまったのです。現在の問題を部分的に解決する目的で、より深刻な問題を悪化させてもいいという判断です。しかも政府が提案したこれらの対策は、ほぼ議論ゼロで、有識者会議で容認されました。次の世代を犠牲にして、今の世代の豊かさを守る政策だと言わざるを得ません。
よく考えたら、非効率石炭火力を稼働せずに、同程度のLNGを節約すればいいのではありませんか? つまり、節電を考えればいいのではないでしょうか。節電方法ならたくさんあります。東京を歩けば、ほんの10分もせずに「電気や照明の無駄な使い方」に出くわします。たとえば、巨大な街頭スクリーン。渋谷スクランブル交差点だけで15件はあります。少なくともホルムズ海峡の状況が正常化するまで消せばいかがでしょうか。また、オフィスや施設で、日中は照明を消すことも可能だと思います。あるいは宣伝トラックを禁止する。
次の世代はすでにわれわれ世代の矛盾に気付いていると思います。学校で「地球温暖化の問題」や「節電」についての授業があっても、外に出て、全くエネルギーの節約をしない大人社会を見たら、子供は戸惑いを覚えるでしょう。私は、節電でどれくらいの量の石油やLNGを節約できるか細かい計算は出来ませんが、もしかしたら非効率石炭火力の稼働抑制措置を1年間停止するよりも効果は大きいかもしれません。ホルムズ海峡の封鎖は日常生活に影響がないと国民を安心させたい政府は、エネルギーの節約を呼びかけないことにしました。将来のことを考えたら、とても無責任な選択だと私は思いますが、同意見の方はそれほどいないようなので、強い違和感を覚えています。
(月刊『時評』2026年5月号掲載)