
2026/08/06
ラジオ・フランス(フランス放送)フィルハーモニー管弦楽団は5月末にジャパンツアーを行い、東京、横浜、名古屋、京都でコンサートを開催しました。ラジオ・フランスとはフランスの公共ラジオ・グループであり、偶然ですが、私が勤めている会社です。複数のラジオ局に加え、フィルハーモニー管弦楽団およびフランス国立管弦楽団を運営しており、フランス国内では有名かつ高く評価されていますが、今回、日本でも知名度が高いことを再確認できて、とても嬉しく思いました。このツアーで特に素晴らしかったのは、27歳で東京出身の日本人ピアニスト・藤田真央さんとの共演です。
日本とフランスはさまざまな面で多くの共通点があり、互いに注目してきました。特に文学、文芸やアートの世界では、19世紀から素晴らしい関係を築いてきています。
「私のオーケストラでのパリデビューがラジオ・フランスでした」と藤田さんは話してくれました。5月28日に行った20分のインタビューで、彼がいかにフランスの音楽家(ドビュッシーやラヴェル)についての知識を持ち、いかに音楽という言語の力の強さを理解しているか、そして音楽が、国際関係においても非常に重要な役割を果たしているということを改めて感じました。
ラジオ・フランスフィルハーモニー管弦楽団と藤田さんは、その日、東京のサントリーホールで非常に印象的なラフマニノフの ピアノ協奏曲第3番二短調作品30を演奏しました。
「この曲を弾くのは今日で30回目ですが、30回弾いても、まだまだ課題があるんです」。日本人は完璧主義者だからと私が言うと、「いや、テクニックとかではなくて、表現です。例えば、ここはもっとアタックしてエネルギーを持って弾いていたけど、最近はもう少し余裕を持って、呼吸をためて弾くのもアリかなとか、毎回変わります。生演奏の素晴らしさはそこにあると思います。生なので間違えることもありますよ。ちょっと滑ったりとか。でもそれが、生ならではの価値だと思うんです。私はオペラが好きですが、オペラは毎日違います。やはり歌手の皆さんの調子によるんですね。毎日のようにオペラハウスに行っていると、日々違うことが分かります。歌い回し、歌い方とか音色の作り方とか呼吸とか。でもそれは、実際にオペラハウスに行って、生の声を聞いて、ようやく理解できることです。CDでは理解できません」。
まったくその通りだと思いました。生成AI時代の今だからこそ、若者には生の演奏を体験させないと危険だと私は思っています。生成AIに頼めば、誰でも簡単に小説を書いたり、作曲したり、映像を作ったり、絵を描いたりすることができると思いがちです。でも、子どもにアートや音楽、文学、文芸の正しい価値を教え、そして体感させないと、とんでもなく間違った価値観の大人になってしまいます。
多くの国の政治家は、音楽や文学よりもAIに関心があり、AIに投資しようとしています。もっと文化、アートの価値を認めて、誰でも生の音楽や演劇などを楽しめるようにすることが大事ではないかと思い、藤田さんにも意見を聞きました。
「日本にはたくさんのCDショップがあって、それほど有名な作品でなくても、いろいろなCDが豊富にあります。でもヨーロッパでは、私が住むベルリンにもすごく大きなCD屋さんや楽譜屋さんはありますが、有名な作品ばかりを扱うようになってきました。昔はそうではなかったみたいですけど、徐々にそうなってきたのです。反面、ベルリンでは30歳以下なら10ユーロ(1800円)で生の演奏が聴ける。日本では無理ですよね。今回の日本公演のチケット代も9000~2万6000円です。結果的に若者は行けませんよね。行ける人が少なすぎます。何か政策が必要ではないでしょうか。フィルハーモニー・ド・パリ(Philharmonie de Paris)というパリのホールでは、そんなに高くない値段で素晴らしいオーケストラの演奏が聴けるんですよ」。
確かに、28歳以下だと約2000円でチケットが購入できます。大人でも最安で約3000円、一番良い席でも1万4000円を超えない程度です。日本の大ホールだと1万5000円から3万円が一般的です。実際、その日のサントリーホールは満席でしたが、ほとんどのお客さんは50代以上でした。
3歳の時にピアノと出会った藤田真央さんは、こう語りました。「今、若い人がコンサートホールに足を運ぶ回数は少ないかもしれませんが、何かをきっかけにして、また盛り上がってくると思います」。私もそれを期待しています。AIが氾濫する時代にこそ、多く人の目の前で、生で表現することの価値が再発見されるでしょう。生の演奏、生の演技は、最も人間性があり、感動させる表現方法ですから。
インタビュー後のラジオ・フランスフィルハーモニー管弦楽団と藤田氏の熱演は、すべての観客に響きました。その才能と価値は、AIには生み出せません。
(月刊『時評』2026年7月号掲載)