
2026/02/18
――市長ご自身は、産業政策の推進において特に意識している点などございますか。
武内 まず、いろいろな面で常に〝オープン〟であること。投資を呼び込む際には、経済や情報がオープンな状態でなければなりません。この方針に則って企業誘致を呼び込んだところ、台湾における半導体後工程の世界最大手ASEグループの日本法人であるASEジャパン社と市内若松区の市有地売買仮契約の締結に至りました。またオープンであることは海外の都市と提携協定を結ぶときにも同様で、現在アジア各都市に北九州市の環境技術の移転と人材育成を図っているところです。
次いで重視しているのが〝フォーカス〟です。市の面積が広く歴史もあるためコンテンツも多々あるのですが、さすがに全てを高めていくことは困難です。選択と集中が求められます。
その一環で前面に打ち出したのが、〝すしの都 北九州市〟の取り組みです。独自の食文化も豊富な北九州市ですが、中でも「響灘」「関門海峡」「豊前海」という三つの特長ある海に面している上、大規模な中央卸売市場が漁港や市街地に近接しており専門の職人も多い、こうした海・地・人の利を鑑みて、すしを起点として、多くの観光客を呼び込もうとしています。
他にも、お城や世界遺産など、観光資源を擁しているので、観光・サービス産業はこれまで以上に振興を図る必要があります。
――インバウンド(訪日外国人旅行者)も、主要観光地や都市部に集中し、さらに分散と均霑が課題と言われています。
武内 海外からの観光需要は今後も15兆円規模まで成長すると見込まれることから、当市としても環境整備を図り、この波を着実にとらえていきたい。そのソフトパワーとして〝食〟はやはり重要なツールであり、世界に通用するコンテンツであると考えています。私は、行政の役割とはインフラ整備とプロモーション充実、そして民間の活動の邪魔をしない、この3点に設定しているので、あとはすしの都北九州協議会加盟各店の頑張りにも期待したいと思います。
――〝フォーカス〟という点では、組織内に「Z世代課」という世代限定型の部局を新設されたことも注目を集めました。
武内 はい、少子化時代において若者対策を打ち出している自治体は多々ありますが、単に若年層というだけでは対象が曖昧で施策も抽象的にならざるを得ません。
そこであえて政策の対象を、〝Z世代〟に絞りました。しかもこちらが〝Z世代に提供する〟のではなく、〝Z世代に学ぶ〟という方向にスタンスを切り替えています。まずは「Z世代課」に市政史上最年少の女性課長を抜擢し、職員もZ世代のメンバーで構成しました。
これによって施策の方向性が鮮明となったため、多くの関連分野を巻き込むことが可能となり、さまざまな施策を展開しています。例えば「Z世代はみ出せコンテスト」は、若者の自由な発想やアイデアを全国から募り、3名の採択者には、市から最大300万円の補助を出し、伴走しながら実現を支援しています。さらに、北九州市に貢献したいという若者を全国から募り、審議会などの会議体の委員として派遣する「Z世代課パートナーズ制度」も開始し、幅広い政策に対してZ世代から直接声や意見を聴き、私たちがそれを学ぶ機会にしています。
女性の悩みを市長が直接聞き取り
―― 一方で、「Woman Will 推進室」を立ち上げられたとか。
武内 女性は概してライフステージごとにさまざまな選択を迫られ、有形無形の制約をされる面がありますので、その実情を声として聴きとり、政策に反映させる取り組みを進めています。取り組みの一つである「Woman’s リアルVOICE プロジェクト」では、カフェ・ラジオトーク、またアンケートなどを通じて、女性が日ごろどのような点でモヤモヤしているかなど、私と市職員が直接聞き取りして課題を共有するところからスタートしました。また同室では、ワークライフバランスの推進やジェンダー平等などの取り組みに加えて、女性の視点を生かしたまちづくりの推進に取り組んでいます。前述の通り、社会動態において女性の回帰が見られる現在、さらにこうした施策を強力に推進していくつもりです。
――市長が直接、市民と会話することは、施策の広報・啓発にもつながり、より効果的と思われます。他に施策の理解に向けて平素どのような活動をしているのでしょう。
武内 機会を捉えてはできるだけ多く、市民の声を聞く機会を設けています。高校生・大学生に向けた講演、市民センターで地域の方とのお話し会、あらゆるところに出て行って、私が直接対話します。ソーシャルメディアも毎朝欠かさず、上手くいっていることや思案していること、ともにオープンに発信しています。また毎月、職員向けに私が市政の内容を解説する30分の動画を流しています。
2025年に掲げた市のキャッチフレーズは〝心を動かす〟でした。正論ばかりでは人の心は動きません。まずは共感するような政策から始める、そうでないと多くのプレイヤーを巻き込んでいくことはできません。一方でこの意識は市職員皆に有してもらいたいと思い、毎週月曜日に「市長からの手紙」として7000人の職員に宛てて手紙を書いています。25年11月末現在、vol.115 を数えます。市民、職員問わず、コミュニケーションの量がやがて質に転化していくと考えておりますので、まずは量の方から確保している毎日です。
学力向上へ向けた三つの柱
――冒頭の人口転入超過を果たした原因として、経済活力の振興と併せ、生活関連施策も充実を図られたのでは。
武内 はい、〝まちの強さ〟を形成する要素は、雇用と医療と教育であると考えています。このうち雇用については、前述の通り特にデジタル企業の誘致に力を入れた結果、女性と若者の回帰を実現しました。他方、政令指定都市の中ではトップクラスの医療機関数と病床数を確保しており、高い医療水準を保持しています。
また、合計特殊出生率は全政令指定都市の中で8年連続第1位を記録しており、これは保育料第二子無償化に踏み切るなど、育児環境の充実が市民に認められたものと認識しています。この子どもたちが今後市内で充実した教育を受けられるよう、学力向上をはじめとした教育政策により一層注力していきます。
――「学力向上」も、非常に難しいテーマの一つです。
武内 まず、①「AI+読書」の強化。子ども一人一人に最適化した学びを提供するべく、AIを使った学習ドリル等の導入を検討していきます。と同時に、AIとコミュニケーションを取るにも言語力、読解力は不可欠ですので、これらを涵養するため図書館で「ビブリオバトル」を実施するなど、読書も継続して注力します。どちらかに偏ることなくバランスを取ることが重要です。
②「体験機会」の強化。美術館や博物館、工場等、さまざまな分野の60施設以上を対象に、各学校がアラカルト方式で選択できる体験活動をはじめとした「たいけん・まなび充実大作戦」を実施しています。
③自分で問いを立てて解を導く「脱・暗記重視」、を3本柱に据えて「学力向上」を図ります。ともかくどのような施策であれ、明確な方向性をしっかり定めて着実に実施する、これが大事だと考えています。このような経済の活性化と暮らしの充実、この両輪の推進が、冒頭に述べた社会動態プラスに結実したものと確信しています。
チャレンジのプロトタイプを数多く
――国は現在、防災と国土強靱化を進めていますが、災害大国と言える日本の中でも、北九州市は比較的平穏な環境にあると思われます。
武内 そうですね、過去100年間で震度4以上の地震はわずか3回しか発生していません。東京の88回と比べても、大型地震発生のリスクは非常に低いと想定されます。かつて官営八幡製鐵所がこの地でつくられたのも、地震の少なさを勘案されたためでした。私は就任直後から、〝北九州市バックアップ首都構想〟を掲げ、この点を訴求してデータセンター等の誘致に努め、実際に災害に強いまちとして進出を決めてくれた企業も少なくありません。
――まさしく現政権は副首都構想も視野に入れています。
武内 その点はこれからの議論を注視したいと思いますが、いずれにせよ都市機能のリダンダンシーが求められる現在、当市が強みを有しているのは確かです。
――防災に対する市長の見解や、国に対するご意見などをお聞かせください。
武内 仮に東京で大型自然災害等が発生しても国の機能が持続できるよう、国家的なリスクマネジメントが求められます。その点、北九州市は災害リスクが少なく既存のインフラも充実、東アジアにも近いという好条件が既に完備されているので、首都機能の分散構想を国家戦略の中でしっかり位置付けてもらえれば、と思います。例えば東の東京、中間に大阪、西の福岡といった三極構想なども一案ではないでしょうか。
――短期中期を問わず、市政について市長の展望などをお願いします。
武内 まずは現在の流れをより確かなものとすること。まずはGCP(市内総生産額)4兆円突破が当面の目標となります。60年ぶりに実現した社会増の安定的定着を図り、退行はさせません。少なくとも24年に続き25年も良い数値が期待できそうです。とはいえ依然、少子高齢化基調ですのでイノベーションを起こして省力化・省人化を途切れることなく進め、環境先進都市としてサステナブルエネルギーの高効率化も図っていくつもりです。一方、既存の社会インフラ老朽化が社会問題化しているので、ストックをどう活用していくか難題に対峙していかねばなりません。その解決がさらなる投資価値向上につながることでしょう。
あとは、まちづくりが大きなテーマとなります。そろそろ、当市のまち全体をリノベーションする時期にさしかかっていると認識しています。未来に向けた構想に着手するべき時ですね。社会の新しい試みにチャレンジしていくプロトタイプを、数多く生み出していきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2026年1月号掲載)