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森田 実の「国の実力、地方に存(あ)り」⑧

高い志と技術力で地方創生に挑戦している東亜グラウト工業株式会社に期待する

下水道熱を利用した冷暖房を備えたハウスで、ワサビやバジルを栽培。(東亜グラウト工業株式会社提供)
下水道熱を利用した冷暖房を備えたハウスで、ワサビやバジルを栽培。(東亜グラウト工業株式会社提供)

「人間を偉大にしたり卑小にしたりするのはその人の志である」
(シラー)

高い理想をもって地方創生に取り組む企業人
 最近私は、日本の未来を真剣に考えて地方創生・国土強靭化に真剣に取り組んでいる民間企業の存在を知った。東亜グラウト工業㈱である。

 昨年秋、友人の岡久宏史日本下水道協会理事長の紹介で、同社の大岡伸吉相談役(元社長、前会長)と山口乃理夫社長と会った。岡久、大岡、山口三氏とも憂国の士であり、高い志と純粋な技術者魂の持主である。

 私は早速、同社に関する文献研究を始めた。その結果、同社の創立者の大岡伸吉氏は人間尊重経営という高い理想の持ち主であり、自身の理想を実践してきた偉大な技術者であり、経営者だと知った。この大岡前会長が後継者に選んだのが現社長の山口乃理夫氏だ。高い志の持ち主である。両氏の関係は、古代中国・三国志時代の劉備玄徳と諸葛孔明の関係に似ている。両氏は科学技術をもって社会に尽くすという技術者の高い志を貫いている。同社の高い技術は、すでに世間に知られている。

 実は私は68年前、理科系の大学生の時代、科学技術をもって社会に尽くしたいと考えていた。卒業後はジャーナリズムの世界で生きてきたが、技術者魂は今も心の底に残っていて、岡久、大岡、山口三氏を同志だと感じた。

 私のジャーナリスト生活の最初の仕事は『公害・衛生工学大系(全三巻)』の出版だった。私は工学部学生の時代に田中正造と足尾銅山鉱毒事件を研究したことがあり、『公害・衛生工学』に強い関心を抱いていた。1960年代半ばに出版したが、わが国における「公害・衛生工学」の最初の研究書だった。それだけに、岡久、大岡、山口三氏の高い志に共感したのである。

東亜グラウト工業㈱の基本事業と100年計画
 基本事業は三つある。①斜面防災(強靭なワイヤーを使った特殊な技術で、落石や土砂、土石流、雪崩などの自然災害から人命や財産を守る)。②管路メンテナンス(耐震化対策、維持管理時代を迎えるライフライン(管路)を調査診断し、光等を使った豊富な工法バリエーションで修繕・改築し、予防保全や機能の回復を行う)。③地盤改良(地下工事の多様な場面で活躍する「地盤改良工事」と、生活に必要な地下管の構造物を整備する「構造物メンテナンス工事」を柱に安心の社会基盤整備を行う)。

 この上、同社には長期展望「100年計画」がある。前記の三つの基本事業に加えて「水関連新規事業」「未来への事業」「大更新時代の建設産業(2030年度まで)」「大更新時代の建設産業(2060年度まで)」を視野においている。

 同社はすぐれた技術力を持つ企業である。今までの特許出願件数は500を超えている。特許・技術調査レポートの特許の質と量から見る競合企業分析で「上下水道管漏水防止・補修技術」の部門では総合力で第3位である。

 2018年~19年に15回外部表彰を受けている。主なもののみ紹介するが、①「下水熱利用と老朽管補修を両立する技術」で環境賞(「優良賞」)を受賞。②ヒートライナー工法がインフラメンテナンス大賞優秀賞受賞(技術開発部門)。③ヒートライナー工法が省エネ大賞、中小企業庁長官賞を受賞、④アイスピグ管内洗浄工法がインフラメンテナンス大賞優秀賞受賞、などである。

 同社は24時間、全世界の技術進歩に目を光らせている。外国語を自由に使いこなすスタッフが20名以上いて、注目すべき技術に出会うと直ちに交渉を開始する。つねに世界最高水準を目指している。

優秀な技術者集団
 東亜グラウト工業㈱は、今後、日本の中心課題である地方創生を実現する上で大変重要な役割を果たす民間企業である。

 私は山口乃理夫社長にお願いして三つの現場を取材させて頂いた。

 一つは、長岡技術科学大学と協力して新潟県で行っている「下水道資源・エネルギーを活かしたワサビ栽培プロジェクト」である。下水熱で栽培したワサビとバジルが立派に育っていることを確認した。

著者が見学した北海道科学大学(札幌市)前の道路。雪が解け、通路が確保されている。
著者が見学した北海道科学大学(札幌市)前の道路。雪が解け、通路が確保されている。

 二つは、札幌市における下水熱を利用した融雪事業である。北海道科学大学、伊藤組土建㈱、積水化学工業㈱、東亜グラウト工業㈱、㈱TMS工業、㈱山田組、ゼネラルヒートポンプ工業㈱との共同事業は、実験段階では見事に成功している。この技術を札幌市はじめ豪雪地帯で活用するようになれば、豪雪地帯の住民の生活は大きく改善される可能性がある。

 三つは浦安技術センターにおける実験である。管路のアイスピグ工法による洗浄実験とマンホール補強・耐震対策と光硬化工法の実験を見せて頂いたが、完璧である。これらの技術は、すでに多くの地方自治体において採用され、活躍している。

地方創生に熱心な企業が地方を救う
 
 地方創生なしに日本の未来はない。

 現在、東京への一極集中の弊害は、日本の将来をも危うくしている。地方創生は急務である。

 地方創生は国民的大事業である。政府と地方自治体だけでできることではない。

 いま、国民が注目すべきは、東亜グラウト工業㈱の大岡伸吉相談役、山口乃理夫社長のような、大いなる志を持った民間企業経営者の旺盛な努力である。全国あらゆる地域で高い技術力をもった民間企業と地方自治体との協力体制を構築する必要がある。

 2020年初頭から日本と世界を襲った新型コロナウイルスがもたらす厳しい事態は深刻である。人類は大きな試練に直面している。日本国民にとっても大試練である。この試練を乗り切るためには大改革が必要である。大改革の一つは「大都市の過密と地方の過疎の同時的解消」である。われわれは、いま、この課題の解決を求められている。東亜グラウト工業㈱のような大きな志をもつ企業の役割は大きい。

(月刊『時評』2020年5月号掲載)

森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。
森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。