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地方創生推進の最新動向/内閣府 石坂 聡氏

◆内閣府地方創生推進政策最前線

いしざか さとし/昭和42年1月28日生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業。平成元年建設省入省、平成29年国土交通省住宅局安心居住推進課長、30年同住宅総合整備課長、令和元年同市街地建築課長、2年住宅生産課長、3年大臣官房審議官(住宅局担当)、5年住宅局長、6年7月より現職。
いしざか さとし/昭和42年1月28日生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業。平成元年建設省入省、平成29年国土交通省住宅局安心居住推進課長、30年同住宅総合整備課長、令和元年同市街地建築課長、2年住宅生産課長、3年大臣官房審議官(住宅局担当)、5年住宅局長、6年7月より現職。

 石破総理が政策の1丁目1番地に掲げる「地方創生2.0」は、今後10 年間という近い未来を見据え、地方の活性化を実現するための基本構想である。この6月を目途に、策定の最終段階に差し掛かった現在、石坂聡事務局長に同構想の主要骨子、その背景となる人口動態、より良い将来に向けて考え得る各種方策等について解説してもらった。

地方創生推進事務局長 石坂 聡氏




人口急減と社会を覆う閉塞感

 石破茂総理はご自身が2014年から約2年、初代地方創生担当大臣をお務めされた経緯もあり、就任直後から地方創生の強力な推進に向けリーダーシップを発揮しています。その背景には、人口減等による地方の衰退に歯止めがかからないという強い危機感と、地方の活性化が日本全体の社会課題解決に資するという、高い目的意識があると考えられます。

 周知の通り、24年の出生数は72万人、これは在住外国人も含めているため、日本人は69万人台になったと推定されます。ほんの5年前の19年には
86・5万人だったので、その急減ぶりはまさしく坂を転げ落ちるかのようです。

 主因の一つである婚姻数も減少の一途、特にコロナ禍だった20年には前年比1割以上減るなど甚大な影響が生じ、終結後の22年に少し増加したものの、今なお依然として減少基調をたどっています。ライフスタイルの変化という点では、テレワークの浸透と相反して飲み会の機会が減少するなど、若者同士が接する機会が総じて少なくなっていると言えるでしょう。人間は社会的存在であるが故に、交流が抑制された社会は非常に反自然的状況だったと考えられます。もちろんテレワークにも重要な意義があり地方創生にも欠かせない方策ですが、一方で社会的なつながりを持つ交流の機会創出も必要だと実感しています。

 他方、コロナ禍の影響で増加が想定された離婚件数は意外にも減少傾向にあります。これは主に女性サイドにて、経済的要因から離婚に踏み切れないケースが増えたのではないかと推認されます。また自殺者数が増えていることも勘案すると、私見ながらある種の生きづらさがこれらの数字に反映されているものと思われます。

 相反して死亡者数はコロナ禍当初、他者との接触機会が急減したことで一時期減少したのですが、その後大幅増へリバウンドしています。24年の死亡数は162万人弱で、出生数との差分は約90万人に及びます。高齢化率の進展を鑑みると今後も死亡者数は上昇し続けるので、まさに日本に多死社会が到来したと言えるでしょう。

 日本の人口数は08年ごろをピークに以後減少し、まもなく世帯数も減少に転じます。地方創生の観点としては、世帯数減少は年々深刻化する空き家がより増加することを示唆しています。さらに遡ると、今から30年前の1995年時点で生産年齢人口は8726万人でピークを迎え、あとは一貫して減り続けてきました。このペースで進むと25年には同7728万人、65年段階には4529万人へと、ピーク時の約半分に落ち込むと推計されています。私が若手の頃、当時上司だった大石久和元技監から、生産年齢人口下降局面に入ることの意味をはじめ、今後懸念される社会課題について幅広く教えを受けました。その慧眼通り、生産年齢層が主体となるべき消費活動の減退、各分野における担い手不足等の形で今、顕在化しています。

 いわゆる経済の〝失われた30年〟は、こうした数字の流れに基づく閉塞感が大きく影響していると感じています。直近のコロナ禍も同様ですが、やはり意欲や気運を抑圧するような空気感が人々の行動を委縮に向かわせる、未来への希望を喪失させる、それが経済の停滞を招き、少子化を促進させるという、悪循環の連鎖になっていると思わざるを得ません。

過密のリスク、防災の観点から

 東京の一極集中も依然として改善されません。2023年の東京圏への転入超過数は11・5万人で、コロナ前のピーク時に近づきつつあります。
20~21年にかけて転入数が大きく落ち込みましたが、やはり一時的でした。その大半を10代後半から20代の若年層が占めており、すなわち大学進学や就職が、東京に出る一つのきっかけになっていると考えられます。ことに故郷を離れて進学、就職した理由についてアンケートを取ってみると、「親元を離れて、一人で生活したかったから」「地元を離れて、新しい人間関係を築きたかったから」等の回答が、特に女性の方で顕著でした。このあたりに地方に残る、性別ごとの〝あるべき生き方像〟〝求められる男女の役割像〟のようなアンコンシャス・バイアスが、将来も地元で生活していくことへの拒否感につながり、それを脱するために首都圏など他地域に新たな暮らしを求める主因になっているのでは、と推察されます。石破総理の下でも、このアンコンシャス・バイアスの解消に力を入れているところです。

 しかし一極集中が進むと、災害発生時のリスクも増大します。政府は懸念される首都直下地震発生に備えて、耐震化や密集市街地整備を進めてきました。その結果、東京における密集市街地は以前に比べ格段に不燃化が進んでいます。人の出入りが激しい分、建物の建て替えも頻繁なことが功を奏しました。ただ、不燃化とは決して〝燃えない〟のではなく、〝燃える速度を遅くする〟のにすぎません。

 また、過密の度はむしろ高まっているのが現状です。そのため一たび地震が発生すると、避難所に入りきらないという問題が生じます。これは既に19年の台風19号襲来時に、公的な避難所が近隣住民であふれるという形で実際に起こりました。これが大型地震発生時にはどうなるのか、食料調達や物流の確保等も含め大きな課題となっています。16年末に発生した新潟県糸魚川の火災は百数十軒の家屋が被害を受けましたが、あそこは密集市街地ではありません。1ヘクタール当たり40戸ほどで、東京品川の同200戸と比べると、むしろ疎らと言ってもよい状態にもかかわらず、火災が広がりました。

 これはクラスター火災と言って、初期消火に至らなかった場合、ひたすら燃え続けるタイプの火災です。密集市街地整備は燃えとどまることを前提に進めているのですが、一定間隔で大型ビルなどが建っているならともかく、住宅地が広がるままではそのまま燃え続けてしまいます。住宅地がそれほど古くなくても、また密集状態でなくても、です。そして、こうしたクラスター火災発生が懸念される地域が、東京郊外にいくつか点在しています。

 首都直下地震発生後の対応、そして防火その他という複合的観点からも、過密がいかに危険な状態かお分かりいただけると思います。