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【森信茂樹・霞が関の核心】 公正取引委員会委員長 茶谷栄治氏

複雑な物流の契約構造に対応

森信 物流というのは国民生活に不可欠ですが、業界の契約構造が複雑で、各段階の取引が適正か監視するのは容易ではなさそうですが。

茶谷 はい、物流も含め、サプライチェーン全体の中で価格転嫁を進めていかねばなりません。

 ごく大まかに上流から下流へ、物流の段階的構造をご説明しますと、上流には着荷主が位置し、次いで発荷主、その次に運送事業者という構図になります。運送事業者も大小あり、大手事業者から中小事業者へ物流の受発注も発生します。

 このうち着荷主からの行為は、取適法の対象とはならず、後ほど説明します独占禁止法上の物流特殊指定の改正により、不当な荷待ち、契約外荷役の禁止などを定め、対応することとしました。

 取適法の適用は発荷主から運送事業者、運送事業者から別の運送事業者への運送委託を対象としており、ここで不当な荷待ちや契約外荷役等を禁止しています。旧下請法では運送事業者から別の運送事業者への委託取引のみが対象だったのですが、取適法では新たに発荷主から運送事業者への委託取引も対象として、物流分野におけるさらなる取引の適正化を図ることとしました。

森信 ポイントのうち「従業員基準の追加」「面的執行の強化」とはどのようなものでしょう?

茶谷 旧下請法では資本金基準によって法が適用されるか否かを定めており、何段階かに分かれますが、例えば、発注者側が資本金3億円超、受注者側が同3億円以下、といった場合に適用されました。しかしながら、資本金の増減資がある程度柔軟にできるようになった現在では、取適法の適用を免れるために、資本金の増減を図るケースが発生していました。そこで簡単に増減させることができない従業員数も対象基準に追加して、適用逃れを防ぐこととしました。

 また「面的執行の強化」については、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を進めていくためには、各業界について専門的な知見を持つ関係行政機関との連携が重要になりますので、主務大臣による指導・助言に関する規定が追加されました。昨年度は、国土交通省と連携し、パーキングエリアなどで、トラックドライバーさんに状況の聞き取り調査を行ったりするなどして、関係行政機関との連携を強化しています。

取適法の対象外はGLや特殊指定で

森信 取適法施行によってだいぶ取引適正化が期待できるようになったと思いますが、残る課題などは?

茶谷 取適法は独占禁止法の優越的地位濫用規制を補完する法律であり、受注者の迅速な利益保護を図るため、資本金額または従業員数と取引内容によって対象となる取引を形式的に定めています。そのため、例えば、資本金3億円超の大企業間の取引や資本金1000万円未満の中小・小規模企業間の取引は取適法の対象になりません。しかしながら、取適法の対象外となる大企業間、中小・小規模企業間の取引でも、受発注の立場に基づく不適切な取引は発生し得るので、この部分は独占禁止法における優越的地位の濫用に関する各種規制を整備することで対応します。具体的には、取適法で追加された「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」については、優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(優越GL(ガイドライン))を改定し、違反になるか否か判断する際に、実効的な価格協議が行われたかどうかが考慮要素となることなどを明確にしました。

森信 つまり、大企業から中小企業への受発注は取適法で、それ以外は優越GLを改定することで、あまねく受発注の関係をカバーするということですね。

茶谷 はい、大まかに言うとその通りです。付言すると取適法が適用されない取引では、支払い条件において前述の手形等による支払いも禁止されないことになりますので、60日以内の現金支払いが担保されません。そうすると、サプライチェーン全体でみると、取適法が適用されない取引の当事者の資金繰りが悪化するおそれがあります。そこで、取適法の対象外となる取引に関しても、「支払告示」という独占禁止法上の新たな告示を策定し、60日以内に現金相当額が支払われるよう取り組んでいきます。

 また、物流分野に関する特有の問題として、運送事業者が契約するのは発荷主ですが、実際は運送事業者が契約していない着荷主からの指示により、運送の現場で契約外の荷待ちや荷役を行わされる場合もあります。この際、着荷主と運送事業者の間には契約がないので、この二者の関係を捉えて問題とすることはなかなか難しいところがあります。そのため、着荷主と発荷主の間には売買契約等があることに着目し、着荷主が運送事業者に独断で作業をさせると、売買契約を通じ発荷主の利益を害するという整理を行い、独占禁止法上の物流特殊指定という告示を改正して、着荷主が運送事業者を通じて契約外の荷待ち等を行わせることで発荷主の利益を不当に害する行為を禁じるようこととしました。

森信 サプライチェーンの各段階に分け入ると、こうした適用内外の問題と、実に細かな個別対応が求められるのですね。

茶谷 そうなのです、こうした優越GL改定、支払告示の策定、物流特殊指定改正などで逐次カバーしていくことで、サプライチェーン全体の価格転嫁や取引適正化を進めていきたいと考えています。

(資料:公正取引委員会)
(資料:公正取引委員会)

森信 現在、ナフサの不足が深刻化していますが、事業者の立場ではこうしたリスクに備えて個社ごとに在庫を抱えたいと考えるのが自然だと思います。しかし一つの業界で各社が在庫を抱えると、今度は相対的に市場流通分が不足する事態を招きかねません。こうした状況に対し公正取引委員会の権限は及ぶのでしょうか。

茶谷 いえ、事業者同士が結託して在庫を抱え市場価格を吊り上げたり、他事業者を排除する、取引を妨害する等の共謀が明らかな場合は独占禁止法違反の対象となりますが、各事業者が自社の判断で在庫をストックしておく場合は、独占禁止法等の対象になりません。

 ただ、現下の中東情勢に関しては、これまで事業所管省庁から、物資の流通の円滑化を図るための事業者同士の情報交換等についての相談が寄せられており、この後にご紹介します「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」等で示した考え方を踏まえて適切に対応しております。今後はこうした事案が増えてくる可能性は考えられます。

現場レベルでフリーランス・事業者間取引適正化等法の浸透を

森信 この「取引適正化による公正な取引環境の確保」にはフリーランスやギグワーカーも含まれるのでしょうか。

茶谷 はい、対象としています。フリーランスについても取引の適正化等を図る観点から、フリーランス・事業者間取引適正化等法が定められています。同法では、取適法と同様に、発注者の義務として取引条件の明示等が定められており、また買いたたきをはじめとする七つの禁止行為が定められています。

 このフリーランス・事業者間取引適正化等法は2024年11月に施行されたのですが、大手企業も含めて同法違反による勧告を多数行いました。一口にフリーランスと申しても、実態としては多種多様な業種に及ぶため、その業種特有の商慣行もさまざまありますが、口頭で簡単に発注され、必要な取引条件が明示されないことも多くあります。取引条件を明示することが、取引適正化の第一歩でありますので、全ての勧告において、取引条件の明示義務違反を認定し、是正を求めています。

森信 単発の発注でも、きちんと契約を結ぶ、トラブル発生時の対応内容なども契約に記載しておかないといけないのですね。

茶谷 トラブル発生時の対応が直接的に法律上求められているわけではありませんが、例えば業務の内容や支払期日などの明示が求められていますので、法律を順守していただくことで、ある程度トラブルを未然に防止することができると思います。

 これまでの調査では、法務や総務系統では法の内容を理解し、関連するシステムなども構築したりしているのですが、発注部署などの現場レベルで対外的にフリーランスの人に仕事を頼む段階では法の内容が浸透しておらず、従来通りに口頭で依頼したりする状況から抜けきれない、という実態があるようです。こうした状況に対しては順次、調査や指導などを進めつつ、勧告に合わせて事業者団体に周知したりするなど効果的な広報も行いながら、長年の慣行の改善に努めているところです。

森信 発注者側から、受注者のマイナポータルに契約の詳細を送信できるようにすればよい、と私は以前から主張しています。というのもマイナポータルは現在、民間同士で契約内容を確認するツールとして活用できますので、これをフリーランスへの依頼にも使えば履歴が残り、かつ公的なシステムでもあるので後々のトラブル対応にも有効です。こうした対策は、個人事業主にとっても重要
な点だと思います。

茶谷 フリーランスの人は立場が弱い場合が多く、なかなか発注側にきちんとした対応を求めにくい面がありますから、その前提となる取引条件の明示は重要です。公正取引委員会は匿名も含めてさまざまな情報提供を受け付けていますので、フリーランスの方からも積極的に相談をお寄せいただければと思います。