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研究成果の相次ぐ実用化で、多様な観点から防災を推進/防災科学技術研究所理事長 寶 馨氏

防災庁、そして防災士への期待

――では、防災分野の研究を志す人材の確保・育成についてはいかがでしょうか。 

 若手研究者を増やしていくべき、という問題意識は常に抱いていますが、分野を問わず研究者不足は深刻な問題です。人材獲得競争がますます激化する中、NIEDでは、優秀な若手研究者がより安定的なポストに早期に就けるよう定年制ポストを増設するとともに、有期雇用契約期間中の業績等を基に概ね5年以内に有期雇用のポストから定年制ポストへ登用する仕組を整備するなどの人事制度改革を実施しているところです。また海外各国にも若手を派遣して経験を積んでもらっていますので、こうした対応をもっと積極的に行っていきたいと考えています。

――少子化人口減により、防災分野を志す研究者そのものの減少が懸念されます。

 そのような社会情勢のもとでも、災害が発生した後に、若い学生が防災分野の研究を志してくれる傾向は確かにあります。社会に貢献したいという若者が少なからずいるのです。ただ、修士課程を終えると研究職に進まず産業界に向かう若者も少なくありませんので、研究職が社会貢献に資する魅力ある職業である、ということを発信していくのと併せ、人生設計においてキャリアが着実に形成できるよう人事体制を整えていく必要があります。防災分野に興味を抱く学生や若者は今なお少なからずおりますので、そうした有為の人材をいかに発掘・定着させるかが問われるところです。

 今後、防災庁が発足し、内閣府防災も人員の拡充を図るのであれば、こうした若い人材を登用し、防災に関わる職場を確保してもらえると有難いですね。

――その防災庁に対し、機能や役割についてご意見や期待される点などいかがでしょう。

 現在、防災庁設置に関連し、司令塔機能強化に向け事前防災対策総合推進費が創設されています。これは各省庁や地方自治体が行う事前防災対策事業を支援し、防災分野の取り組みを推進するための予算で、前述のN-net同様、〝事前防災〟に比重を置いた点がポイントです。また2024年に、文部科学省には火山調査研究本部(火山本部)が新設されました。大きな噴火災害が発生する前から、災害の事前防災に政策として注力しています。防災庁には文字通り司令塔として、大規模災害に効果的に対処できるように、事前防災の機能をあらかじめ備えておいてもらいたいですね。そのためにもNIEDの観測データや実験モデル、さらには情報プロダクツ等も、防災庁でも十分に活用していただきたいと思います。

 また、国全体の防災機能強化という点では現在、火山調査研究推進本部の方針のもと、NIEDに噴石や火山灰を回収して成分を迅速に調べる「火山噴出物分析センター」を新設すべく鋭意準備を進めています。建屋、分析装置等を揃えて全国の火山研究者が使えるように整備し、火山研究の中核機関としての期待に応えられるよう取り組んで参ります。

――地方自治体との協力・支援体制などは。

 NIED理念の中に〝地域防災力の強化〟を挙げています。自治体への支援はわれわれの重要な使命の一つです。現実的に職員の減少に伴う防災部署の縮小に悩む自治体も数多く、それをいかにカバーするかが大きな課題となっています。

 この観点から注目しているのが、「防災士」の資格取得者の増加です。これは、特定非営利活動法人日本防災士機構による民間資格で、25年10月現在で33万人以上が取得しており、かつ取得者数が年々増加しています。防災に対する知識と意識の現れとして、これらの人たちが災害発生時は避難・救助活動のサポートをはじめ、自治体など公的機関と協働して活動できるものと思います。私も24年末に取得しまた。

――なるほど、緊急時には防災士が減災活動に携われるため、自治体の対応を支援することになりますね。またそうした志で資格を取得する人が増えているのは心強い限りです。

 いざというときはもちろん、防災への啓発活動等も含め、平素から防災士各位に活躍してもらえる場や仕組みがもっと増えればと思います。防災庁にはそうした個人単位でも災害時に活躍できるような仕組みづくりを、大いに期待しています。

研究機器の継続的開発に不安

――今般の自然災害発生時には、民間企業による物資その他の提供等が役立っていますが、こうした防災面での官民連携についてはいかがお考えでしょうか。

 われわれが期待しているのは、観測機器やレーダー、光ケーブルなど研究や観測に必要とされる機器類の持続的な開発と精度向上です。この点については、国からのさらなる支援が求められます。災害対策基本法では、指定公共機関が100以上定められており、その中に、近年、コンビニエンスストアなども含め民間企業が多数含まれてきています。物資の提供・輸送など、法的にも官民連携が行いやすい環境に改善されてきています。

――防災に限らず、研究開発用の機器・設備の製造技術が停滞するとしたら大きな問題ですね。

 冒頭で、観測点が2200カ所あると申しましたが、これらの観測機器も維持管理を行い、やがては更新していかねばなりません。その更新計画を検討中ではありますが、その基盤となるのは将来にわたる継続的な維持管理方針の明確化です。それが無ければ事業者による機器類の改良・発展は見込めないでしょう。

――道路や水道と同様、観測機器など防災設備もまた重要な社会インフラであり、当然いずれは老朽化対応と継続的なメンテナンスが必要になるわけですね。

 すでにインフラの老朽化が社会課題となっているのと同様、将来的に防災設備・施設の維持管理が追い付かなくなることが危惧されます。

――今般、被災地から要請される以前に支援物資を送る「プッシュ型支援」がより充実されるなど、減災に向けて法制度は着実に整備されてきたように思います。

 能登半島地震でも明らかなように、市町村単位では被害や避難の実態が把握できず県にも情報を上げられない、情報が無いから県は国に支援を要請できない、という状況が再び起こり得ます。その場合、要請がなくとも現地が混乱しているのは自明ですので、国から人材・資材を現地に送る、というプッシュ型支援が12年の災害対策基本法改正で導入されました。25年の直近の改正ではさらに強化され、これにより県知事が要請しないと自衛隊を呼べない、ということはもうなくなり、激甚災害であれば国からトップダウンで都道府県や市町村にさまざまな支援をしたり、自衛隊の出動をしたりすることが可能となっています。安全・安心な社会と国土の構築に向けて法制度も改善されてきています。

 このように、防災・減災に対する制度環境の整備とともに、先ほど申しました防災士増加のように住民の防災意識も年々高まっていると思われます。また企業や大学等においても、防災関係の部署が相次いで設置されています。そうしたことからも新設される防災庁に対する期待はより一層、大きいと言えるでしょう。

 現在、われわれNIEDは自衛隊と協働したり、警察や消防が実施する訓練にもそれぞれ参画したりしていますが、個別訓練にとどめるのではなく関係各機関統合して活動すべきとの観点から、NIEDの発案により、この年末に沖縄で統合型の訓練が実施されました。

――省庁間の垣根を超えた融和の働きかけも、NIEDの役割、というわけですね。

 戦略的イノベーションプログラム(SIP)はまさに府省庁連携のためのプロジェクトであり、NIEDがその管理主体を担っています。例えばNIEDと民間事業者が共同開発した府省庁連携防災情報共有システム(SIP4D)は内閣府防災で採用され、現在は新総合防災情報システム(SOBO-WEB)として稼働しています。

 さらに今後は、各アカデミア、各企業が保有している防災情報を統合し、共有システム構築を手掛け、情報面でも産学官の垣根を越えていくことを展望しています。

――本日はありがとうございました。
                                          (月刊『時評』2026年1月号掲載)