
2026/02/05
――強靱化にしても防災にしても、現場に近い立場で施策を担う人材が不足していると思います。また、これを補完するようなデジタル化やAIの活用状況はいかがでしょうか。
山本 ご指摘の通り、強靱化を進める上で担い手となる自治体や企業を問わず、技術者の方々を中心に人手不足が深刻化しています。それ故、前述した柱の一つとして「デジタル等新技術の活用」が列挙されているように、DX等による生産性向上は不可欠です。例えば老朽化が進む下水道の点検には、従来大変な手間を要してきましたが、現在は衛星から下水道管内の損傷・漏水個所を検知する技術等も開発されていますので、積極的に活用していく方針です。
また、多くの市町村で技術職員不足が現実のものとなっています。市区町村における土木部門の職員数は、ピークの1996年と比べて、30年で約26%減少しており、また、約半数の市区町村では技術系職員数が5人以下という状況です。一方で市町村が担当するインフラの数も多く、全国で対策が必要な橋の数は約5万3000橋ほどありますが、このうち約3万橋が市町村管理となっており、点検と補修がままならない状況にあります。
――そうした状況については、どのような対応を?
山本 一つの取り組みとして、国土交通省では、「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の取り組みを進めようとしています。地域のインフラを従来のように自治体毎に維持管理をしていくのではなく、自治体の枠を超えて隣接する自治体で地域のインフラを「群」としてその維持管理をまとめて発注する取り組みです。これにより自治体側では発注の手続きの数を減らすことができるなど技術職員への負荷が軽減されるとともに、受注者側にとっても発注されるロットが大きくなるなど受注案件としての魅力も高まることとなります。
――地域間連携にあたっては、各種情報やデータの共有化も必要なところかと。
山本 例えば、内閣府においては、「新総合防災情報システム(SOBO―WEB)」の整備を進めています。省庁、自治体、指定公共機関の1917機関全てが本システムを利用することにより大規模災害時での防災関係機関間の災害情報の共有が円滑化し、迅速な災害対応・支援が可能となります。中期計画の計画期間である2030年には1917機関すべてが利用することを目指しています。
産業界、個人も平素の備えを
――民間企業や各家庭単位での、防災や強靱化に向けた取り組み状況についてはいかがでしょうか。
山本 国土強靱化はとても広い概念です。行政だけでなく企業・地域・個人での取り組みも重要です。
公益インフラである電力網の多重化などは民の電力事業者による取り組みですし、個別の民間企業の生産施設等の防災投資の促進、災害時の事業継続力の強化、強靱なサプライチェーンの構築などの取り組みは、大規模自然災害発生時の経済・産業活動への影響を少なくするために不可欠です。こうした取り組みについても、中期計画の中で位置付け、民側の取り組みも推進していくこととしています。
また、各家庭においても、例えば、家具が倒れてこないように固定する、一定以上の揺れを感知して自動的に電力を停止する感震ブレーカーを設置して火災を防ぐなど、自らの生命・財産を守るための個人レベルでの取り組みも重要と考えています。
――近年では、通信機能の維持も復旧上、重要なポイントですが、この点は。
山本 スマートフォン等で情報を入手するのがごく一般的な昨今、通信の途絶は安全確保の危機に直結する問題です。最近では地震が発生し電気が止まっても、一定時間までは自家発電で対応可能となっていますが、これを超えると電波が止まり、その地域の通信ができなくなってしまいます。そこで対応としては、携帯電話の基地局を強化・増設する、という取り組みを通信事業者において進めていくこととしています。
――では、民間からの被災地支援の一環として、ボランティアやNPOの活動に対してはどのように対応を?
山本 現在の災害対応において、ボランティアの方々のご協力は不可欠で、実施中期計画でも、「発災時における民間・NPO・ボランティア等の体制強化・活動環境の整備」はポイントの一つとして明記されています。具体的には、発災時にボランティアの方々に存分に活動してもらうためにも、住民と行政を結ぶ中間支援組織を増設・整備していく、これは23年時点では組織の設置率45%でしたが、これも30年段階の将来目標として100%に、同様に全国の地域ボランティア人材育成研修等の開催完了率も、同時点1%を100%にしていきます。
このように、計画と目標は多々ありますが、いずれにしても冒頭の20兆円規模の投資を有効活用し、これらを一つ一つ実施して、目標達成していかねばなりません。計画自体はきめ細かい立派なものができました。今後はその実効性が問われるところです。
――次長は、これら各計画を実行性あるものにしていくためにはどのような点がポイントになると思われますか。
山本 必要な投資の確保と、担い手も含めた体制の整備、この二つが最も欠かせないと認識しています。この強靱化の施策も合計10年を超えましたが、より一層、官民の連携、前述の避難所整備やボランティア育成などソフト面の充実、地域における草野的な活動などをより一層強化していくことが大切な点ではないかと思います。
災害は激甚化し、耐久性は低減
――お話を聞くと、確かに改善を要する分野もありますが、各種の連携体制や技術開発等、防災・減災に関しては、日本は先進的だと思われますが。
山本 ご指摘の通りです。わが国は世界的にも有数の地震国であると同時に豪雨災害や雪害も同時に頻発するという、世界でも特異な災害多発国の一つですので、これまでにさまざまな分野において、過去の災害を踏まえた基準類の改定や技術開発等により防災対策が進められてきたことは事実です。
しかしながら、昨今、災害が激甚化しており、災害による外力が益々大きくなってきています。線状降水帯の発生による短時間での集中的豪雨の発生頻度が増えていることなどがその例です。これまでの基準による整備では耐えられない外力の強さになってきているということが起きるようになっています。
一方で、インフラの老朽化により、本来有する耐力を十分に発揮できない施設が加速度的に増えてきている。災害外力が大きくなる一方で受け手となる施設側の耐力が落ちてきていることは大変憂慮すべき状況だと考えます。
また、サプライチェーンが国内外含めて広範化することで、ある地域での災害の影響が社会全体に波及するリスクも高まっています。社会資本、社会システムも同様で、構成する要素の一部に支障が発生すると社会生活全般に影響が及ぶ、という可能性があります。社会を網羅するネットワークがサイバー攻撃に遭い、システムがダウンするなど脆弱性を露呈するのも、そうしたリスクの一つだと言えるでしょう。
自然災害だけでなく、さまざまなリスクに備えて経済・社会生活の基盤を維持していくことも、まさに広い意味で強靱化であると認識しています。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2026年1月号掲載)