
2025/11/20
木材の利用を促進することで、地球温暖化の防止、循環型社会の形成、森林を有する国土の保全――などをはじめ、関連する地域の経済活性化にも貢献することを目的に施行された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市(まち)の木造化推進法)」。
施行から4年が経過し、街中でも木材を活用した建築物を目にする機会も増えている。では、この間の取り組みにはどういったものがあったのか。そして「森の国・木の街」実現に向けた状況の変遷と今後の展望について林野庁林政部木材利用課の難波課長に話を聞いた。
林政部木材利用課長 難波 良多氏
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「都市の木造化推進法」施行から4年。取り組みの状況
――「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(以下、都市(まち)の木造化推進法)の施行から4年。街中でも木材を活用し、デザイン性にも優れた建築物を目にする機会も増えてきています。では改めて、木材利用を進めてきたこの間、林野庁の取り組みについてお聞かせください。
難波 戦後に植林された人工林が本格的な利用期を迎えている中、さらなる木材利用の拡大に向けて、従来から公共建築物等木材利用促進法に基づき取り組んできました。その法律を改正し、2021(令和3)年10月に施行されたのが、対象を公共建築物だけではなく民間建築物を含む建築物一般に拡大した「都市(まち)の木造化推進法」です。
法律として新しい主な内容は、①国や地方公共団体と事業者が締結する建築物木材利用促進協定制度を創設した点、そして②農林水産大臣を本部長に政府一体として木材利用に取り組む体制として「木材利用促進本部」を設置した点の二つが挙げられます。
本法律の施行から4年が経過しましたが、従来から進めてきた公共建築物の木造化は着実に進展しています。実際、23年に着工された公共建築物全体の木造率は14・3%ですが、3階建て以下でみると30・6%と初めて3割を超えました。改正によって木造化を進める対象を民間建築物にも拡大しましたが、都市部では中高層木造ビルの建設といったニュースを頻繁に目にするようになりましたし、都市部だけではなく地方都市でも事務所や店舗などの木造化というニュースが増えてきていると感じています。これは法律の趣旨、あるいは考え方が広く社会に受け入れられた、浸透してきた証左ともいえますので、担当する一人として嬉しく思っています。
一方、木造化に向けてすべての数字が伸びているのかといえば、決してそんなことはありません。3階建て以下、いわゆる低層の住宅の8割が木造ですが、それ以外の非住宅や中高層、つまり低層住宅を除いた部分の木造率は6・2%といまだに低い状況にありますので、引き続き本法律も活用しながら、非住宅・中高層の木造化・木質化を進めていく必要があると考えています。
――木材利用を促進してきた4年ですが、この間、行政サイドとして想定していなかった結果などはなかったのでしょうか。
難波 そうですね。想定していなかったというわけではありませんが、先述した法改正で新しく創設した①の「協定制度」については、多くの企業や団体の方から関心を寄せていただき、活用が非常に進んでいると考えています。制度を活用した際に、メリットを実感していただけることが重要であり、昨年は試行的に協定締結者に集まっていただく交流会を開催し、取組状況について意見交換を行いました。さらに幅広い業種の方にも活用いただけるよう、少しでもインセンティブにつながるようなものも考えていきながら、より協定への関心を高めることにより、実際の木造化に繋げていきたいと思っています。
近年締結された代表的な建築物木材利用促進協定とクリーンウッド法の取り組み状況
――なるほど。その「建築物木材利用促進協定」では毎年さまざまな協定が締結されています。近年締結された代表的な協定としてはどういったものがあったのでしょうか。
難波 2024年10月以降、国としては新たに5件の協定を締結していますので、これまで締結された協定は全部で累計26件になります。また国以外にも地方公共団体も合わせると、ちょうど200件となるなど制度の活用が非常に進んできていることが実感できます(25年7月末時点:地方公共団体の協定締結数:174件)。
では最近の事例としていくつか紹介させていただきますと、まず「持続可能な社会の形成に向けた木材利用拡大に関する建築物木材利用促進協定」(前田建設工業×農林水産省・経済産業省・環境省)があります。前田建設工業は以前から積極的に木造化に取り組まれていましたが、これをさらに進めるとして、本協定では、①事業主への木材利用に関する意義等の普及のためにオリジナル資料を作成して、提案する。②新規設計案件でZEBシリーズ採用率を令和11年度までに40%にする。また③令和11年度までに25件の木造・木質化建築を実現し、木材の利用量としては1万立米の国産材を利用する、といった数値的な目標を掲げています。そして、木材利用は地方創生や地域活性化にも繋がりますので、④地域連携によって地域の森林の健全な循環形成を促進するスキーム作りに貢献する。この④については、飛騨市(岐阜県)と別途、連携協定を締結し、広葉樹の活用に向けた取り組みを進めていると聞いています。
もう一つの事例が「環境保全と経済活動が両立する持続可能な社会の実現を目指す建築物木材利用促進協定」(鹿島建設・かたばみ×農林水産省)です。鹿島建設では、①専任の担当を設けて全国の木造案件の支援を行うことで提案力や対応力の強化を図る。②制震技術や難燃処理技術の開発で中高層建築の木造・木質化を推進する。また同社は社有林を有していますので、③その社有林においてICT技術を活用するなど、新たなサプライチェーンを検討する、といった取り組みが協定には盛り込まれています。また協定に基づく実際の取り組みとして、仙台市にある同社東北支店ビルを本格的な木造に建て替え、その一部に社有林の木材を使用しながら構造材で約1800立米の木材を活用する予定と聞いています。