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農地の未来を形成する「地域計画」の実践/農林水産省経営局長 小林大樹氏

新規就農者の独立を支援

――新規就農に関し、農業未経験者の参入状況はいかがでしょうか。

小林 新規就農といえば、一般的には親の農業を継承するケースがイメージされますが、最近特に若い世代では農業法人にまず就職するというケースも多くなっています。家業が農家ではない方も含めていろいろな方々が農業の世界に飛び込んでくれるのは非常にありがたく、われわれとしても新規希望者を受け入れる法人への支援もしていきたいと思います。農業法人就職後も長くそこでお勤めされる方もいれば、独立して自身が農業経営に乗り出す方もいることでしょう。その場合はかなり手厚い独立支援を講じており、今後も続けていく方針です。地域計画とも連動するのですが、「新・農業人フェア」を開催するなど、農業法人や地方自治体と新規就農希望者のマッチングの機会を設け、各市町村が定めた地域計画を形にしていけるよう、われわれもきめ細かく応援しています。

 もう一つ、われわれが着目しているのが〝トレーニングファーム〟です。これは、農協や農業法人などが運営する実践的な研修農場で新規就農者に、研修を兼ねて現場で実践を重ね、数年かけて一定の技術や知見を習得した段階で独立してもらうというものです。そのさい農地やハウス、農業機械などをリースして農業初期段階をサポートする、というところもあります。この仕組みは新規就農者の技術の習得のみならず、独立自営を行う際のリスク低減にもなることから、われわれもこの〝トレーニングファーム〟をしっかり支援していきたいと思っています。

――企業の農業分野への参入状況などは。

小林 こちらも年々着実に増加しています。業種の内訳をみると、やはり原材料確保の観点等により、食品産業からの参入が多く、その形態も自社で直接出資するケースから周辺農家との取引を長期的観点から強化していくケースまでさまざまです。この傾向は今後も続くと想定しています。この12月も、東京、大阪で「農業参入フェア」を開催し、都道府県の農業参入窓口等が出展し、農業への参入を希望する企業からの個別相談に対応するイベントを行ってまいります。参入がさらに活性化し、地域の担い手不足解消に役立っていただけることも期待しています。

――女性や外国人の方の就農や受け入れについてはいかがですか。

小林 女性に関しては、「農業女子プロジェクト」の展開等、地域の生産現場における女性の活躍が、目に見える形で定着しつつあると感じていますが、これからも女性が働きやすい環境づくり、地域のリーダーとなる女性農業経営者の育成などを進めてまいります。

 外国人材については周知の通り、従来の技能実習制度から、来年4月より、新たに人材確保と人材育成を目的とする育成就労制度へ移行します。制度は一新されますが、従来から外国の方を雇用している生産者は引き続き制度を適切に運用しつつ、秩序とルールの中で共に働いてもらうことが重要だと認識しています。

――自然災害の発生や想定を超える猛暑など、計画通りの実行を阻害しそうな不確定要素も発生するように思われます。

小林 地域計画の検討段階でそうした諸要素も考慮し、高温対応型作物の比重を増やすなど、将来起こり得る事態を想定し対策を織り込まれた計画もありますが、地域計画は一度作ったらそれで終わりというものではなく、さまざまな情勢が変化すれば、その時にまた地域の関係者で協議して地域計画の内容を柔軟に改めていただくことが重要だと思います。

――相続においても同様ですが、点在する所有者不明の農地が、集約において大きな障害となっているのでは。法務省で登記の義務化が始まるなど、所有者不明土地の解消に向けて制度面での改正が見られます。

小林 その点農水省でも、一定の調査を行っても所有者の把握ができない農地に関しては、しかるべきプロセスを踏んで農地バンクへの権利設定を可能とするなど、制度的な手当ても設けています。

 いずれにしても重要なのは、農地の所有者が分からなくなってしまう前に、事前予防に注力することです。地域計画によって10年後の農地利用の姿を目標地図に落とし込みましたので、それをベースに例えば今後の農地継承に不安が生じたら早めに農地バンクに預けていただくなど、何らかの手を打っていくことが大切です。また、地域計画のブラッシュアップの際に、備えの意味も込めて10年後にどの担い手がどの農地を利用するのか地域で将来像をしっかりと話し合いをしておいてもらえるのが望ましいですね。繰り返しになりますが、やはり農地バンクへ預けておくなど、先手を打って所有者不明になるのを抑止していただく、また、そのために地域計画の話し合いを役立ててもらえればと思います。

農協の信頼増へ機能発揮を

――他方、既存の農協の役割は今後、どのようにあるべきでしょうか。

小林 これからの農協が、農業者からどういった役割を期待されているのか、という視点で考えるのが適切かと思われます。まず第一は、農業者が生産した農産物を農協にしっかり売ってもらうという、販路としての期待だと思います。それに応えるためには、農協の販売力を強化してもらう、この点は農協を利用する農業者があまねく期待する役割でしょう。

 販売力の強化については、農産物を高値で販売することも期待されますが、長期安定的な取引が農業経営を持続的に発展させるためには不可欠ですので、各農協においては実需者との長期安定取引に資する契約を取りまとめていただくことも重要だと思います。

――現在、農水省では農産物や食品の海外輸出に力を入れています。

小林 はい、輸出の拡大に向けても、農協の役割は決して小さくありません。これも販売力強化の一環と位置付け、販路の開拓に注力していただきたいところです。また、継続的な担い手確保においても、農協には機能を発揮してもらえればと思います。販売力強化や、前述の〝トレーニングファーム〟の充実などは、まさに担い手確保、新規就農者の育成に資すると言えるでしょう。

 さらに労働力が減少する中で、専門作業の受注などで農業経営を支える「農業サービス事業体」の機能も期待されています。農家に代わってサービス事業体がドローンを操作して防除を行うといったことが広まっていますが、今後はこうしたサービス事業体の育成も、重要な政策課題となり、この点でも農協が機能を発揮してもらうことが期待されます。

――農協の金融業務についてはいかがでしょうか。

小林 はい、農業金融は従来から農協に期待される主要機能の一つです。農業金融においては、公的金融の比重も小さくないのですが、やはり半分近いシェアを占めているのは農協系統であり、まさに農業者は農協の金融機能を頼りとするところです。これらの機能を発揮すれば組合員の信頼も厚くなり、結果的に地域の農業生産維持にもつながると想定されます。

デジタルの利活用と多様な参画を

――地域計画作成にあたっては、市町村をはじめ多くの関係者が参画されたのでは。

小林 はい。例えば、各市町村に設置された農業委員会の方々には、各地区の農地の出し手、受け手それぞれの方々の意向把握に尽力していただいています。その把握が為されて初めて将来図の素案づくりが可能となるわけです。それをもとに市町村としての考え、また県の考え、農協の意向など、各関係機関の総合知としてこの地域計画は成り立っています。

 また、現実として市町村でもマンパワーが限られるものの、インターネット上の地図で農地の所在地・地目などの情報を見ることができる、農水省作成の農地情報公開システム「e MAFF農地ナビ」等、各種ツールを活用して省力化を実践されたところもあるとお聞きしています。われわれも引き続き、こうしたデジタル化、情報化の面でも支援をしていく所存です。

 地域計画のブラッシュアップに当たっては、地域の関係者を、市町村に上手くまとめていただき、確たる推進体制を構築してもらうことを期待しています。その意味で、市町村の役割が非常に大きいのは言を俟ちません。

――この地域計画やその実践にあたって、各市町村が保有するデータや、場合によっては他分野との連携などが重要になると思われますが。

小林 地域計画のブラッシュアップを進めていく上で、さまざまなデータを活用していく必要がありますが、まずは、農地の出し手、受け手それぞれの意向をしっかり把握することが重要で、その意味では、しっかりとした地元の状況把握に基づきデータの精度を高めて行くことが重要だと考えています。

 というのも地域計画の策定の際、地域の関係者で協議してもらったわけですが、地域外からの担い手の方には声をかけてなかった、という例もありました。この点では地元出自の方か否かを問わず、その地域で農業を営んでいる担い手については、地域計画の当事者として協議の場への参加を呼び掛けていただきたい。また、地域の将来を担う若手農業者の参加も不可欠だと考えています。

――多様な意見の提示という点では改善の余地があると。

小林 今後、地域計画のブラッシュアップを進めていく際は、こうした方々にぜひ参画を求めてほしいと思います。データ活用においても、地域の農業に関わるさまざまな人の声や状況がその基盤となりますので。その後のステップとしてデータを利活用した、より利便性高いツールの開発につながっていくと考えられます。

――この地域計画が各地で実践されたとして、10年後はどのような状況になっていると局長は想定されますか。

小林 現実的に、冒頭で述べたような農業人口の急減予測はこれからも大きく変わることは無いでしょう。しかし、繰り返しになりますが農業人口や経営体が減っても生産が維持できるようにするのが何より大事です。仮に今からさらに10年後の2035年段階で、この地域計画やその他の方策を講じた結果、この農業生産の維持に寄与できれば何よりです。それはまさしく、この地域計画の成果が10年後に表れていることを意味します。

――ありがとうございました。
                                                (月刊『時評』2025年12月号掲載)