
2026/01/09
――ご指摘の新たな「食料・農業・農村基本法」(以下、「基本法」)に基づき、本年4月に「食料・農業・農村基本計画」(以下、「基本計画」)が閣議決定されました。農産物の高付加価値化も含めて、ポイントのご解説をお願いします。
渡邊 端的に申せば、日本国内にとどまらず世界の農業事情を分析し、それを基盤に日本の食料安全保障にしっかり取り組むことを明記した点にあります。
また、これまでは食料自給率向上を唯一の目標と捉えていた感がありましたが、今計画ではそれだけではなく、農業の自給力を構成している人材、農地、技術、資材、基盤整備等々についても具体的な目標を設定し、その達成を目指していることも大きな特長です。これに基づき、KPI(重要業績評価指標)を数多く設定しました。そして5年ごとにこれを評価し、順調であれば継続・伸長を図り、所期の成果が得られていなければ原因分析の上で政策の変更も行う、と規定しています。まずは5年後の評価に向けて、われわれは努力をしていく所存です。
――これからの5年間は、今後に向けた非常に重要な期間ですね。
渡邊 基本計画においても、この初動5年間は、農業構造の転換に係る集中対策期間としてこの分野への投資を促すため、政策の投下と予算の獲得を図る、という内容となっています。その実現に向けて、われわれも努力していく所存です。
――輸出では生産物だけでなく加工食品類も好調とか。そちらのさらなる振興を図るには食品会社等、産業界と生産現場との連携も求められるのでは。
渡邊 そうですね。これまで生産、加工、流通という行程ごとに個別の政策を打ってきたのに対し、新たな「基本法」では生産から消費までのサプライチェーンを一体的に捉えています。今般消費者から注視された米を筆頭に、生産物の取引価格も生産者と消費者双方がそれぞれ置かれている状況を相互に認識し、お互いが納得するような合理的な価格形成を目指すよう、新たな法律制度をつくりました。
また輸出との関係で言えば、輸出先国の需要を的確に捉え、その情報を生産地にフィードバックし、需要に応える生産が可能となるような産地づくりが求められます。一方で、このような産地を作っていく上でも、農業を支える農山漁村に人が残り地域社会を維持していくことがとても大切です。そのためには、農業と産業界との協働により、農業の振興と農山漁村の活性化を図っていくことが大事です。
その際、地元にどのような社会課題があり、どんな対応と協力が必要とされているのか都市側の人々は詳しく知らない場合が多く、逆もまた然りで、農村側の人々は地元の企業が課題解決につながるような技術や能力をどれくらい有しているのか、あまり分かっていないのが実情です。それ故、農村側と企業側のマッチングが求められますが、近年そのマッチングを図る上で大きなカギとなるのが地方銀行など地域金融の存在です。
――融資でしたら地域金融、と想起されますがマッチングに関しても地銀等が重要な役割を?
渡邊 はい、近年地銀において農業融資への関心が高まりを見せています。一方企業側も経済的な業績向上だけでなく温暖化防止などの社会課題解決への貢献が企業価値の向上につながるとの意識が高まっています。もともと地銀の方々は融資のために都市部の産業界の状況を熟知していますので、これら地銀を介して農村と都市、生産者と企業をマッチングする取り組みが盛んになりつつあります。この動きがより活性化すれば、農業の振興が地域の活性化につながると考えています。
企業の協力、農協の変化を求む
――企業も農村の社会課題解決に関心が?
渡邊 企業としての社会的責任(CSR)浸透が大きく作用していると思われます。このように地銀を介して企業が農業生産の現場に参入してもらえると、社会的にプラスの効果が表れる、すなわち私たちが呼ぶところの〝インパクト〟の現出につながることを、産業界にもより深く知っていただきたい。
私たちは現在、こうした農村と企業が共に協力していくような関係づくりを進めており、どのような活動が地域の〝インパクト〟につながるのか、先ごろそのガイダンスを作成しました。これを活用して、企業各社にプラットフォームへの参画を呼び掛けているところです。現在、同プラットフォームにはすでに500社以上の企業に参加していただいており、日々情報交換するなど密な連携を図っているので、いずれはこのような努力が実を結ぶことを期待しています。
――農水省の活動領域が拡大しているようですが、逆に霞が関他省庁や関係機関との連携なども?
渡邊 はい、実際に物流の状況も年々厳しさを増していることから今般、地域物流の改善をはじめ、地域の活性化を図るべく、一部の地方農政局と日本郵政との間で協力協定を締結しました。その関係で総務省からもご協力を得ています。また前述の地銀によるマッチングでは金融庁と連携を図るなど、各省庁と連携しながら、農村を含めた地域全体の活性化を図っています。やはり地方では、農業や食品産業が産業構成上大きな比重を占めていますので、元気な農業は政府が掲げる地方の活力向上に直結します。
――流通や融資の機能を担うという点では農協もまた、農業環境の変化に合わせて、対応や役割の変化が求められるのでは。
渡邊 農協は農業者がつくる協同組合であり、組合員である農業者の支援をすることが存在目的となります。その点、これまでは例えば資材を農家のために購入し農家に販売する、農家の生産物を都市部に販売する、農家に対して融資をする等々が主な活動内容でした。
融資については、個々の農協による融資もさることながら、農林中央金庫などは農業融資のボリュームが少ないため、より積極的に農業融資に力を入れていくべきだと思いますし、また今後農家数がさらに減少していくにあたって、民間企業の方々にサービス事業体として参入してもらうことも考えられます。
が、基本的には農家のために働くのが農協であるわけですから、農協には今後、農家を支えるサービス事業に参画してもらいたいと思います。実際に農協がドローンとそのオペレーターを手配し、個別農家に代わって農地に農薬を上空散布するなどのサービスを実施している例もあります。こうした先例を全国展開するなどして、今後も農協が農家を支える組織としてしっかりと活動していただきたいと考えています。
「ミドリ・インフィニティ」の推進
――食料安全保障の観点からも、今後は日本の農業技術や育成ノウハウを輸出し、生産物や原料等の輸入国との連帯を強化することも必要かと思われます。
渡邊 食料安全保障に向けては国内生産、輸入、備蓄の3本柱で対応することが不可欠です。輸入については、現在はいわゆる米国、オーストラリア、カナダといった〝有志国〟からの輸入が高い比重を占めていますが、これらの国々に変動が生じた場合に備え、輸入先の国々を広げていく努力が求められます。
その際、日本の技術は温暖化防止、省力高効率など今後世界の農業生産地で必要とされる技術を有していますので、それらを各国に提供することで関係を強化し、食料の安定供給につなげていくことも重要な方策です。すでに日本の技術をアジアに展開していく「ミドリ・インフィニティ」こと「農林水産分野GHG排出削減技術海外展開パッケージ」の推進に取り組み始めました。
――最後に、誌面を通じてメッセージをお願いします。
渡邊 繰り返しになりますが、これからは農業関係者だけではなく、地方における業、金融等、多様な分野からの協力を得ながら地域および農業の発展につなげていくのが、今後の農政の役割だと認識しています。これまで農業界と産業界の交流は少なかったと思いますが、共通の社会課題解決に向けて双方の資源やノウハウを持ち寄る機会が増えていくことでしょう。
産業界におかれてはぜひ、これまで以上に農業への関心をお寄せいただければ幸いです。また農業生産者の方々は、将来世代にわたる安定した食料供給に向けて、乾田直播など従来方式とは違う農法に積極的にチャレンジしてもらえれば何よりです。さらには、農業にAI解析やセンサーなどの先端技術を活用することや植物工場等による稼げる農業にチャレンジしてほしいと思います。ハードルが高い部分もあろうかと思いますが、このことは政府全体の方針であり、農水省もその転換に向けて全力を挙げて支援を行っていく所存です。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2025年12月号掲載)